「悟り」「芸者のキス」「ラテン忍者」ーー。メニューを見て、思わずニヤッ。卑しい記者根性が顔を出した。「ひどい寿司に違いない。面白いぞ……」
米アップルのおひざ元、カリフォルニア州パロアルト市。アップルストアなど、しゃれた店が並ぶ通りに、その店「スシリトー」はあった。
スシ=寿司で、「リトー」は「ブリトー」。メキシコ料理で、肉や野菜などをとうもろこし粉でつくるトルティーヤで巻いたものだ。そのふたつを融合させた、言わば「メキシコ風太巻き」を出すのがこの店。2011年にサンフランシスコで生まれ、今や米西海岸に6店、ニューヨークに2店を置く人気店だ。
店内では、注文を受けてから店員が目の前で具材を巻いていく。メニューには中身も書いてあって「悟り」はカンパチ、キュウリ、赤タマネギのピクルス、コーン、ショウガのワカモレ(アボカドソース)、とびっこ、ワサビマヨネーズ。「芸者のキス」には、「手釣りのキハダマグロ」ともある。「ふーん、手釣りなんだ」と上から目線の私。
近くのホテルに持ち帰り、ご対面。直径約6センチ、長さ約17センチ。でかい。
まずは「悟り」をガブっといって、もぐもぐ。「えっ、ウマい」。何よりカンパチがねっとり甘い。「芸者のキス」は、さっぱりしたキハダに、パリッとしたレンコンチップスが絡む。いや、本当においしい。「バカにしてゴメンナサイ」。心の中で謝った。
食から知るシリコンバレーの底力
米国でランチの定番ブリトーの感覚で、おいしいスシを。創業者のピーター・イェン(39)がそんなコンセプトを考えついたのは、10年以上前のことだった。当時、スシと言えばスーパーなどの出来合いの低品質のものか、高級店のものしかなかった。「気軽に新鮮なスシを食べたい人も多いはず」。ビジネスの青い海を、そこに見いだした。
2008年に「スシリトー」を商標登録。思いを共有するシェフに出会い、3年後、店を開いた。魚は米国に多い一酸化炭素で発色処理したものや冷凍ものは使わず、海苔や米にもこだわっている。
そう聞けば、納得のおいしさ。メニュー開発では、様々な具材を組み合わせて数え切れないほど試作したという。「色んな文化が集まり、新しいものを生む。それが西海岸だから」とイェン。IT産業を引っ張るシリコンバレーの強みを、「食」からも思い知ることになった。