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ほっこり温か。気分は'hygge' 幸せになる北欧の魔法

マイケル・ブースの世界を食べる 更新日: 公開日:

笛を吹くように、唇をすぼませて言ってみよう、「ヒュッゲ(hygge)」。おめでとう、あなたはいま、デンマーク語を話している。いまやアメリカでもイギリスでも、口をすぼめて言い合っているこの言葉、怒濤の勢いで巷を席巻、欧米ではクリスマスまでにあと9冊は関連本がお目見えするだろう。


中には大げさなものも多く、ヒュッゲを新たな健康ネタとして位置づける向きもあるが、本来の意味は、単にくつろげる雰囲気をつくること。わざわざ本を読むまでもない。デンマーク人は、それにかけては世界一なのだ。

それもそのはず、私の住むデンマークの冬は実にひどい。寒さや雪のせいではない。ただうんざりするほどどんよりしているのだ。10月中旬ともなれば分厚い雲が頭上を覆い、春まで晴れる気配を見せない。デンマーク国民の抗鬱(うつ)剤摂取量がOECD加盟国の中でつねに上位というのもうなずける。

幸運なことにみなさんの国は、冬もそこまでつまらなくはない。それでも、屋外が心躍るものでない冬の数カ月間、デンマーク人がいかに身を寄せ合って過ごすのか、参考にしていただけると思う。

多くは食べ物に関係する。自国の料理が洗練されていると言い難いのはデンマーク人も認めるところだが、中には雨の日曜にぴったりのレシピもあったりする。

まずは火を灯すところから。デンマークのほとんどの家には暖炉があり、庭には整然と切りそろえられた薪が積まれている。どんなに陰鬱を極める家でも、暖炉によって彩りが生まれ、生気が宿るのだ。あるいはキャンドル。もっとも、デンマーク人は7月の朝食であろうとも、食卓に火を灯すのだが。

彼らは結局、食事で自らを盛り上げるのをもっとも得意とする。悪天候の日には、角切り肉と刻んだ野菜を炒め、赤ワインをボトル半分ほど注ぎ入れて、オーブンで数時間煮込んだりする。

菓子パンやケーキ、ビスケットも重要事項だ。イーストにバター、砂糖をふんだんに用いたデニッシュペストリーで知られるように、これらは間違いなくデンマーク人の「渾身の一品」である。どの家にも自家製レシピや行きつけのパン屋があるくらい、この「重量級」(デンマーク人はそう呼ぶ)ペストリーは、ヒュッゲな週末に欠かせない。


アルコールが一番



冬の日々をヒュッゲにする素材、極めつきはアルコールだ。カールスバーグビール発祥の地だけあって、デンマーク人はお酒が好きだ。ヒュッゲを象徴するぬくもりや陽気さ、ほっこりした気分を引き起こせるのは、ビーフシチューと共に飲む赤ワインをおいて他にない。

ほら、ヒュッゲの本なんて買わなくても大丈夫。必要なのはこの通り、基本的な材料ばかりで、日本の家庭にも難なく適用可能だ。暖炉はハードルが高いかもしれないが、キャンドルが2、3個あれば十分だし、ワインにビーフシチュー、ペストリーあたりはそう難しくないだろう(それでも、という方は筆者の最新作をどうぞ)。

ヒュッゲには、しかし、危険も潜んでいる。やりすぎると人生がとんでもなく退屈になり得るのだ。私が頑固ジジイなだけかもしれないが……。ともかく、この40年ばかり、デンマーク人は世界の幸福度ランキングでもつねにトップクラス。公式には「世界一幸せな人々」なのだ。果たしてこれは抗鬱剤のしわざか、はたまたヒュッゲの力なのか?