【PR】AI研究でつながる日本・UAEの未来 アブダビ在住の教授・学生らが東京でセミナー【前編】
朝日新聞社が2025年1月にUAEアブダビに設立したグループ会社「朝日新聞ミドルイーストホールディングス」が主催し、MBZUAIが共催、一般社団法人中東協力センターと一般社団法人生成AI活用普及協会が後援しました。
UAEのアブダビへは日本から毎日直行便が飛んでいて片道約11時間。同じく日本から直行便のあるUAEのドバイは、アブダビから車で約1時間半の距離にある。
本学は設立から約5年。ムハンマド・ビン・ザイードというUAE大統領兼アブダビ首長の名前がついた大学名で、非常に責任を感じている。
設立と合わせ、UAEが国としてAI戦略を策定しており、将来的にAI大国となるための一つの拠点と位置づけられた。(国別比較がされている米スタンフォード大のAI活力ランキングでは)、数年前は圏外だったUAEのランクが最近は日本を抜いて上位となっている。
キャンパスの設計は、大英博物館の入り口部分やドイツ連邦議会新議事堂などで知られる建築家ノーマン・フォスター氏によるもので、自前の太陽光発電を導入した近代的かつエコな設計となっている。
学生は約700人が約60カ国から集まっている。2025年から始まった学部の学生が100人余りいるが、残りは修士と博士が半々。現在のところ、完全奨学金制で、学費はもちろん生活費・保険や航空券まで丸ごと大学が負担している。
1年目は学生寮に滞在してもらい、2年目からは大学外に住まいを借りるための手当が別途出る。アルバイトしながら勉強するのではなく、研究に没頭できる環境を整えている。
入学応募には、履歴書、成績証明書、推薦状が一般的だが、博士課程には研究計画を説明する「プロポーザル」が重要になる。応募後にオンラインで数学やプログラミング、AIの基礎的な試験もある。
カリキュラムの一番の特徴は、設立時からAI研究ありきの組織となっていることだ。機械学習、画像処理、自然言語処理といったところから出発し、最近ロボティクスが加わり、26年からは計算生物学など、応用可能性のあるプログラムを増やしている。
ヒューマン・コンピューター・インタラクション(HCI)という、新しい技術が人間や社会にどう影響をおよぼすのか、といった新しいプログラムも始める。
実際の研究事例を二つあげると、ひとつは「基盤モデル」。チャットGPTのような大規模なものをゼロから作っているのが特徴だ。世界的にみて話者の多いアラビア語の基盤モデルとして、約2年前に初代「Jais(ジャイス)」を、最新の「Jais2」をつい先日発表して各メディアで取り上げられた。
オープンソースで公開しており、企業や政府機関が内部データを外部に漏れない形で応用できる。
もうひとつの事例としては、基礎研究に限らず様々なプロジェクトを走らせている。アフリカ、インド、東南アジアの国々と連携し、AIで医療・健康の向上や農家への技術支援に取り組んでおり、こうした社会に役立つ研究に力を入れている。
教員数は25年暮れ時点で約145人。自然言語処理だけでなく、画像解析、センサーネットワーク、機械学習など各分野で世界トップクラスの教員がいる。これを5年後には400人まで増やし、AIの応用にも投資を増やす。可能性のある将来型の大学だ。
宮地: 乾先生からみた大学の様子と自身の研究について教えてください。
乾: 教員からみた魅力を2点お話したい。一つは、多様性。様々な国・文化・経歴の人が集まっていて、まさに「みんな違ってみんないい」という、居心地の良さ。違うことが当たり前だから新しい人もすぐなじめる。
日本語を話す人のコミュニティもあり、安心感につながっている。もう一つは、自分が本当に面白い、価値があると思える研究を自由にできる環境があること。だからこそ先進的・独創的なAI研究が次々生まれている。
私自身は、「AIが本当に言語を理解できているのか」を突き詰める基礎的な研究をしている。庭に洗濯物を干したところに雨が降ってきたら、我々は何も言わなくても「がっかりだ」とわかる。
洗濯物を乾かしたい、乾かすには晴れていないといけない、雨が降ってきたら台無し、とすぐ思い浮かぶが、相手の話に関連するいろいろな常識的な知識を思い出し、語られていない行間も含めて理解する、というのが言語を理解することの本質だ。
専門的には「世界モデル」を持っていて、世界の知識を使って頭の中を再構成する、ということで、これと同じことがAIにできているのかを科学的に調べている。たとえば著名人の生まれ年や都市の人口、山の高さなどをAIがどう格納し、どう使い、どう推論しているのか、中身を明らかにすることが次のAIあるいは安全なAIを作るうえで重要だと考えている。
宮地: 人間の脳の仕組みもヒントになりそうです。
乾: 実は人間の脳もまだわかっていないところがたくさんある。AIの科学と、脳科学や認知科学を連携しながら、両方わかっていくのが重要だ。
宮地: 鹿子木社長にも自己紹介をいただきたい。
鹿子木: 製造業向けのコンサル会社の社長で、AIの技術者でもある。当社では産学協同AIプロジェクトとして、プラントを自律制御する強化学習のAIを実用化し、日本産業技術大賞の内閣総理大臣賞を受賞した。
過去には、ICカードのSuica、東京スカイツリー、スーパーコンピュータの富岳などが受賞している賞で、受賞がきっかけでテレビやラジオに多く出させてもらっている。
私が研究している強化学習のAIは、一番有名な例がグーグル・ディープマインド社による「Deep Q-Network」。たとえば、昭和世代の方がよく知っているブロック崩しというゲーム、パドルを動かしてボールを上にはじくとブロックが壊れて点数が入るものを、このAIにやらせると、最初はランダムにプレイする。
それが、2時間ほど試行錯誤すると、プロ並みにミスなく続けるようになる。学習をするということだ。昔のゲーマーが見つけた、片側のブロックを全部崩してボールを裏に回すと大量得点が取れる方法があるが、この方法まで見つけて狙う。近視眼的なAIではなく、長期戦略を見極めることになる。
ただ、プラントで実用化するには、何百万回とか1億回といった試行錯誤はできない。これを、30回ぐらいの実験で自律制御を可能にしたのが、奈良先端科学技術大学院大学で研究されているAIロボットで、この技術を実際の工場に導入する架け橋となったのが当社だった。
三重県四日市市にあるJSRの合成ゴム製造プラントで導入し、AIが24時間体制でバルブを調整し、無人制御が可能となった。エネルギー使用量も40%削減できた。
アブダビでも、国営石油会社のプラントで実際に使われ、最近ではサウジアラビア国営石油会社も大規模に使っている。横河電機は石油化学のプラントやシステム導入の会社なので、UAEとはとても仲良くさせてもらっている。
宮地: 日本には代々知識を積み上げている職人技の分野が多いが、これもAIに置き換わるのでしょうか?
鹿子木: 私は置き換わらないと思っている。たとえば、「アルファGo」というAIが囲碁で世界王者を破ったが、そのとき世界王者はすごくモチベーションが上がったという。
「あ、こんな手があったのか」とAIに教わり、それをさらに研究して人間が高みに上がった。AIが人間を越えても、それをまた人間が越える、という良い関係だと思う。プラントでもAIの操作を参考にして、現場の方が「こうすればもっとうまくいくかのでは」というやり取りが実際にある。
乾: 強化学習AIを実際のプラントに入れた場合、平常運転のときは良いと思うが、何か変わったことが起きる非常時はどうなのか。
鹿子木: 30回程度のデータで学習するAIを我々は「現場のおっちゃんみたいなAI」と呼んでいる。もともとプラントなので、何か起きて大惨事にならないようAI導入前から安全弁が多く入っている。
これまでの技術で安全が担保されている分、AIを導入しやすいともいえる。JSR四日市工場の例では、訓練データにはなかった雪が降ったとき、ドキドキしたが、何事もなく乗り越えた。ちょっとしたことが起きてもきちんと動く。
宮地: いまの学生は、AIに奪われない仕事は何なのか考えているのではないでしょうか。
乾: 難しい問題で、AIに影響を受けない産業はもうほとんどない。AIをずっと研究してきた人間からすると、ある意味で夢が現実になっている。今後5年より先は誰も見通せない。
「あそこの産業、あそこの会社は大丈夫そうだ」という感じで選ぶのはほとんど当たらないと思う。むしろ、社会がどう変化しても新しいことを学んで成長し続けられるメンタリティ、新しい専門性を次々増やしていけるような能力が結局は重要だろう。
鹿子木: いま大規模言語モデルの性能が非常に上がっているが、結局はウェブ上のテキストデータをベースに作られている。ウェブにある情報は人間よりチャットGPTが上手に答える。
弁護士・弁理士のように、法令や判例などの蓄積に基づいて業務を進める仕事は実は危ない。一方で、AIの学習データに入っていないような、新しいビジネスとか新しい何かというのは、人間が目指していけると思う。
宮地: 最後に、日本からUAEに出て行く人たちへの期待を。
乾: 私は2年前に子どもも連れて家族で移り、アブダビで挑戦を続けている。新しい環境で苦労はするが、これまでの自分の居心地の良い場所からたまに出る、というのは成長につながる大切なことだ。
中でもアブダビは日本人が住みやすいので、最初に勇気を持って出るには良い行き先だと思う。
修士課程・博士課程というのは、問題設定から始まり、過去に何があったかを調べ、人と議論してフィードバックを受けて自分の考え方を変えていく。そのすべてが考える力を磨くことにつながる。これから世界が変わったときに、最初に打ち立てた専門性でずっとやれる人はいなくなる。
専門家になる力をつける研究を手段として、一回専門家になれば、専門家になる秘訣、力が手に入り、また別の専門家になっていける。AIじゃなくてもいいから、何かの専門性を最初に一回つける、というのが大事だろう。
鹿子木: 乾先生の言うとおりだと思う。私も博士号は量子力学だったが、研究の壁にぶつかったときにどうするかとか、論文の読み方や先生の見つけ方などひととおりやった。当社にきてAIに移ったけれど、同じことをして突破できた。
いまチャットGPTで恋愛相談する人もいるが、生成AIを使うと、すべての調べ物をあっという間にしてくれる。これまで時間をかけて人間が思考していたプロセスがいらないってことなのか、考えさせられる。
乾: 考えたアウトプットも大事だが、考えているプロセスこそ、その人を成長させている。筋トレと同じで、考える力を鍛え続ける必要がある。筋肉と同じで、頭も、いま自分の考える力を鍛えていることになっているのか、と意識することがモチベーションになる。
鹿子木: 私はチャットGPTの答えは「偏差値50だよ」とよく言っている。それを「すげえ」と言っているうちは、自分は50以下。研究とかビジネスだと偏差値60や70、あるいはそれ以上の答えを見つけなきゃいけない、と自分で意識した方がいいという意味です。
アブダビについていえば、高度成長期の日本みたいな勢いがある。そういうところで研究を一心不乱にやってみたい、という方にはすごく合っている。【後編へ続く】