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新幹線開業60周年、日本の鉄道にほれ込んだ英国人ジャーナリストが旅した北陸ルート

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東京駅前に立つポール・カーター氏=BBC提供
東京駅前に立つポール・カーター氏=BBC提供

東海道新幹線(東京~新大阪間)が2024年10月、開業60周年を迎えた。新幹線は今もそのスピードや正確な運行で訪日観光客たちを驚かせている。新幹線の大ファンだというイギリス公共放送BBCレポーターのポール・カーター氏がこのほど日本を訪れ、東京から北陸、関西を鉄道で旅する新番組を収録した。カーター氏が見た日本の良さとは何か、聞いた。(聞き手・渡辺志帆)

――世界の鉄道の旅をテーマにした新番組の第1回に日本を選んだ理由を教えてください。

まず、今年が(新幹線開業60周年の)記念の年だからです。アニバーサリーはいつだっていいことですし、番組を作る際の良い出発点になりますが、それだけではありません。

私が、日本と、日本の鉄道の旅が大好きだからです。これまでIT情報番組などで日本を3度取り上げましたが、その収録ではいつも鉄道で移動しました。だから、新番組で最初に取り上げるなら日本しかないと思いましたし、新幹線開業60周年で今年は一層特別です。

インタビューに応じるポール・カーター氏
インタビューに応じるポール・カーター氏=2024年9月13日、東京都千代田区、渡辺志帆撮影

鉄道は日本の文化の中心にあると私は考えています。鉄道に乗るだけで、様々な発見があります。鉄道が様々な地域に連れて行ってくれ、様々な人々に出会わせてくれます。

それに鉄道の観点から、日本は歴史と現代的なものが融合していると思います。だから今回、「新ゴールデンルート」(東京~大阪間を北陸経由で巡るルート)を探索することにしました。

――何度も来日したことのある日本通だそうですね。今回訪れて、何か驚きはありましたか。

日本を訪れるのは通算5度目です。東京オリンピック・パラリンピックの前年になるはずだった2019年に初めて来ました。コロナ禍だった2021年にも来ましたし、昨年も来ました。

二つ、予期していなかった驚きがありましたよ。

一つは「ドクターイエロー」(東海道・山陽新幹線の点検車両)に出会えたことです。収録初日に東京駅のプラットホームでインタビューを撮影していたら、私たちの真後ろに止まったんです。なかなかお目にかかれない「大きな謎」として番組でも取り上げる予定でしたし、来年の引退まであと数カ月だったかと思います。周囲の人も驚いて写真を撮っていましたし、特別な瞬間でした。

東京駅前のプラットホームに停止したドクターイエローを見るポール・カーター氏
東京駅前のプラットホームに停止したドクターイエローを見るポール・カーター氏=BBC提供

二つ目は、能登半島地震の被災地を訪れた際に、(石川県)穴水町で、ポケモンのラッピング列車(のと鉄道)を見たことですね。地震で被災した地元・輪島地方の子供たちを元気づけるために走らせていると知って、うれしい驚きでした。

――鉄道の乗車体験だけでなく、日本文化も満喫したそうですが、途中下車をしたのでしょうか。

もちろんです。いろんなところへ行きましたよ。

宇奈月温泉(富山県黒部市)では初めて温泉に入りました。お湯がすごく熱くて、足を入れてみてびっくりしました。お風呂から黒部峡谷と峡谷にかかる鉄橋が眺められて美しかったですね。

そのあと、金沢に行ってたくさん「金」を食べました。金箔がのったアイスクリームを食べて、金の入った緑茶を飲みました。楽しい体験でしたが、何より金沢の滞在を特別なものにしたのは、地元のツアーガイド、のぞみさんの存在です。エネルギーと情熱に満ちあふれている人でした。

金沢市で金箔入りのソフトクリームを食べるポール・カーター氏と地元ガイドののぞみさん
金沢市で金箔入りのソフトクリームを食べるポール・カーター氏と地元ガイドののぞみさん=BBC提供

金沢から輪島市へ行きました。(能登半島地震の)深刻な現状も伝えたいと思ったからです。

輪島に行ってみると、家々は破壊されていて、多くは片付けられずにそのままになっていました。大きなビルも横倒しになっていて、自分がとても小さく感じられる経験でした。

でも、私たちはそこから希望と復活、再建の物語も描きたいと考えました。

実際、すばらしいストーリーがありました。観光地として有名だった輪島朝市の焼け跡の中に木が1本残っていて、人々はその木を復活と希望の象徴として保存しようとしていました。とてもいい話だと思いました。

当初は、地震の被災地に行くべきか、どうバランスを取るべきか悩みました。被災の度合いがあまりにもひどく、我々が収録に訪れることが「のぞき見」しているような、見るべきでないものを見ているように思われたくなかったからです。

でも私たちが現地で出会った人々は、私たちに「来てもらいたかった」と言ってくれました。来て、何が起きたか見て、自分たちの話を多く人に伝えて欲しいと言ってくれました。非常に心に響く体験でした。

その後、大阪へ向かいました。美しいものを見て、たくさんの経験をして充実した旅でした。その間、日本の伝統的な旅館に泊まったりして、古いものと新しいものが融合した私の大好きな日本が見られましたし、これは番組でも強調したいと思いました。

金沢市で金箔を使った漆の工芸品作りに取り組むポール・カーター氏
金沢市で金箔を使った漆の工芸品作りに取り組むポール・カーター氏=BBC提供

――北陸地方はいま世界でどのくらい注目されているんでしょうか。

多くの外国人訪日客は、東京や京都に行きたがりますが、私たちの番組は、そうした人たちが当初は行こうとは考えていなかった、旅行ガイドの上位リストに載っているわけではないけれど、新幹線を使えばとても簡単に、とても短時間で行けるようなすばらしい場所を知る機会になればと思っています。

――日本は人口減少が進んでいて、60周年を迎えた新幹線は老朽化も指摘されています。それでもまだ海外の人にも訴える魅力がありますか。

もちろんです。先日も会議の後にその話題になりました。欧州やイギリスの人にとって、新幹線が60周年というのはいまだにちょっと衝撃です。なぜなら、60年たっても、とても未来的だし、新しい。

1964年10月1日、東海道新幹線が開業。石田礼助・国鉄総裁(中央)のテープカットで出発する「ひかり1号」。右は大橋・東京駅長、左は加藤・新幹線支社長
東海道新幹線が開業。石田礼助・国鉄総裁(中央)のテープカットで出発する「ひかり1号」。右は大橋・東京駅長、左は加藤・新幹線支社長=1964年10月1日、東京駅、朝日新聞社

私たちは日本と同じようには高速鉄道を整備できていません。イギリスには一部に整備されましたが、第2期区間の高速鉄道は、政治的に非常に議論を呼んでいて、計画通りに建設できていません。日本では60年も前からあるのに、イギリスではわずかしか整備できていない。だから新幹線はちっとも古くないですし、とてもわくわくするものです。

多くの人にとって、日本はまだまだ未来を見すえている国に思えます。テックジャーナリストとして活動していても、サステナビリティーの分野などで特に日本には伝えるべきすばらしい技術がまだまだたくさんあります。鉄道の旅に関していえば、次回はぜひリニアモーターカーも取り上げたいと思っています。

――日本の技術の受け止めについてはよく分かりました。では日本の人々の考え方はどうでしょうか。たとえば、日本では、障害がある人たちの「移動の自由」がたびたび問題になっています。行きたいところへ行くのに鉄道会社に電話したり、予約をする必要があったりします。社会のインクルージョン(包摂)については、イギリスや欧州と比べてどうですか。

これは私自身が日本を旅した経験からしか申し上げられませんが、私自身はあちこち出かけていくにも、全般的に非常に便利だと感じました。東京のような大都市で多くの時間を過ごしたからかもしれませんが、駅は完璧にアクセシブルですし、スロープやエレベーター、エスカレーターがたくさん設置されています。物理的なアクセスでいえば、日本は、世界のほかの多くの場所よりずいぶん先を行っていると思います。

新幹線車内のポール・カーター氏
新幹線車内のポール・カーター氏=BBC提供

私は世界中を旅してきましたが、特に(日本の)鉄道では、プラットホームとの間に段差や隙間なく乗り込めます。小さなことに思えますが、イギリスの鉄道にはプラットホームとの間に段差があるため、車椅子の人は乗り込むのに介助が必要です。イギリスよりは進んでいます。

私自身が何もネガティブな体験をしなかったので、(日本の)人々の態度の部分についてあまり言及することはできません。今回の収録は同僚2人といっしょだったので、幸運な面もあったと思いますが、日本の人たちがいつも親切で、控えめながら必要があればいつでも手伝いを申し出ようとしてくれることに気づきました。誰かの(困難な)経験を矮小化するつもりはありませんが、私自身は本当にすばらしい時間を過ごせました。

日本はすべてが完璧だとは言いたくはありませんし、問題を感じている人がいるのも確かだとは思いますが、2019年に初めて日本に来た時から比べたら、この5年で改善していると思いますし、少しずつ良い方向へ向かっていると思います。ただ、変化にはとても長い時間がかかります。一夜に起きるものではなく、世代をまたいでいきます。でも、まずは良いスタートを切れていると思います。