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飲酒はほどほどの量でもがんリスク 健康に良いはもはや「神話」若者の罹患率が急増中

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
「ほどほどの量の飲酒でも発がん性は高まる」と聞いても、あなたはお酒を飲み続けますか? それともやめますか?
「ほどほどの量の飲酒でも発がん性は高まる」と聞いても、あなたはお酒を飲み続けますか? それともやめますか?=2022年11月17日、米ニューヨーク、Karsten Moran/©The New York Times

50歳未満の成人が乳がんや大腸がんになる割合が過去数十年の間で急増している。その原因のひとつは飲酒かもしれない。そんな内容の報告書が2024年9月18日に発表された。

全米がん研究協会がまとめたこの報告書は、科学における重大な発見により特効薬が開発され、全体の生存率が高まっていることを強調している。しかし、この報告書の著者たちによれば、その一方で困ったパターンがあるという。

がんの死亡率そのものは下がっているけれども、いくつかのがんの発症率が全体として不可解なほど高まっている。特に、若い人の間で大腸がんのような消化器系のがんが恐ろしいほど増えているのだ。

報告書の推計によれば、がん全体の40%はそのリスクを軽減できるという。推奨されているのは、アルコールの摂取量を減らすことである。そして生活習慣を改めることだ。具体的には禁煙し、健康な食生活を送り、体重をコントロールし、運動し、紫外線を避け、汚染物質になるべく接触しないようにすることなのだ。

報告書の著者たちは、公共広告を通じて飲酒の危険性に対する意識を高めることや、アルコール飲料に発がん性があることを表示するよう求めている。

このような勧告が出された背景には、ほどよい飲酒が心臓病予防に効果があるとしてきた長年にわたる一般常識が、近年根本的に見直されてきたことがある。

2024年8月に出されたばかりの大規模な調査結果がある。13万5千人以上の年配の英国人を10年以上追跡調査したところ、ほどほどの量飲酒する人と軽めに飲む人は、たまにしか飲酒しない人と比べて心臓病になりにくいわけではないことが分かったのだ。

そして、ほどほどの量飲酒する人と軽めの飲酒を楽しむ人たちは、たまにしか飲まない人よりも、がんで死ぬ人が多かった。この傾向は、低所得の高齢者や持病のある人ではさらに深刻だった。

この報告書を中心となってまとめた米ロサンゼルスのシダーズ・サイナイ医療センターにあるサミュエル・オスキン総合がん研究所の公衆衛生の研究者ジェーン・フィゲリードは、「51%、あるいは過半数の人びとは、アルコールががんの罹患(りかん)リスクを高めることを知らない。これは重大な問題だ」と語っている。

「赤ワインが心臓や血管に良い効果を与えるかもしれないという神話が語られているが、心臓を健康に保つやり方はたくさんある。赤ワインの持つプラス効果の可能性よりも、赤ワインを飲んでがんになるリスクの方がずっと深刻だ」とフィゲリードは指摘する。

この報告書によれば、過度の飲酒により発症のリスクが上がる悪性腫瘍(しゅよう)には六つのタイプがあり、食道扁平(へんぺい)上皮がん、そして、ある種の頭部、頸部(けいぶ)、乳房、大腸、肝臓、胃のがんを含む。

もっとも最新の統計である2019年をみると、米国人のがんの約5.4%、つまりがんと診断された人のうち20人に1人強は、飲酒に原因がある。

しかし、一般人の問題意識は低い。ある研究によれば、18歳から25歳の女性のうち、飲酒が乳がんの罹患(りかん)リスクを高めることを知っている人は、3分の1以下だった。

報告書によれば、30代の成人のがんの割合は2010年から2019年にかけてかなり高くなった。2019年にもっとも増えたのは、乳がん、甲状腺がん、結腸がん、直腸がんだった。若年発症大腸がん(50歳未満の成人における悪性腫瘍)は、2011年から2019年にかけて毎年1.9%増加しており、報告ではそれを裏付ける公開データを多数引用している。

幸いなことに、新しい治療法が開発されたおかげでがん患者の生存年数は延びている。51歳以上の乳がんの女性の死亡率は下がった。高齢の大腸がん患者の死亡率も下がっている。

しかしながら、報告によれば、若い人の間ではこうした乳がんや大腸がんの罹患率は上がっている。胃がんやある種の血液がんも増えている。また、白血病、悪性黒色腫(メラノーマ)、腎臓がんの患者の生存期間は長くなっているものの、これらの病気の罹患率は全体として増えているのだ。

若年発症大腸がんがなぜ増えているのかについては、よくわかっていない。だが、多くの研究は、青年期や中年期における頻繁かつ定期的な飲酒が高齢期における直腸がんや結腸がんのリスクを高めていると指摘する。

中年期や高齢期におけるアルコール摂取量の増加もがんのリスクを悪化させる。フィゲリードによれば、人体の表面および内部に存在する微生物やカビ、ウイルスの集合体である「マイクロバイオーム」にアルコールは悪影響を与えるという。飲酒は腸内細菌を変化させ、がん細胞を増やし、拡散させる役割を果たすのだ。

また、アルコールが乳がんのリスクを高めるとも考えられている。女性ホルモンのエストロゲンの分泌量を増やして、乳がんの増殖を促進してしまうからだ。したがって、飲酒量を減らすことが、女性が乳がんの発症リスクを下げる数少ない方法のひとつなのである。

また、妊娠中の女性は様々な理由から飲酒を控えるように以前から言われているが、全米がん研究協会の報告によれば、もうひとつ理由がある。様々な研究結果によれば、妊娠中にアルコールを摂取すると、子どもが小児白血病にかかるリスクが高まるという。大酒だけではなく、ほどほどの量を飲んでもそのリスクは高まるのだ。(抄訳、敬称略)

(Roni Caryn Rabin)©2024 The New York Times

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