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米大統領選にカマラ・ハリス氏出馬、トランプ氏再選阻止へ、SNSにあふれる歓喜と中傷

World Now 更新日: 公開日:
バイデン大統領が大統領選撤退を表明後、初めて公の場で演説するカマラ・ハリス副大統領
バイデン大統領が大統領選撤退を表明後、初めて公の場で演説するカマラ・ハリス副大統領=2024年7月22日、アメリカ首都ワシントンのホワイトハウス敷地内、ロイター

7月21日、アメリカ東部時間で日曜日のランチタイム午後1時46分、アメリカ全土に衝撃が走った。ジョー・バイデン大統領が2024大統領選からの撤退を自身のX(旧ツイッター)上で発表したのだった。

続いて午後2時13分、副大統領のカマラ・ハリス氏を自身の後継として民主党からの大統領候補に推すとツイート。

約2時間後の午後4時31分にはハリス副大統領が、バイデン大統領の推薦に感謝し、「ドナルド・トランプを打ち負かす」ために全力を尽くすとツイート

一連のツイートを受け、この日、アメリカのツイッターは大いに盛り上がった。

6月27日に行われたバイデン大統領(民主党)とトランプ氏(共和党)のテレビ討論会は、民主党支持者たちをパニックに陥れた。バイデン大統領のかすれた声、語尾が聞き取れないほどの弱々しい話し方、スローな身ぶりに、バイデン氏の善戦を期待して見守った筆者を含む誰もが顔面蒼白となったのだった。

81歳のバイデン大統領の心身の衰えは討論会の前から心配されており、民主党支持者はそれでもバイデン氏の続投を望む派と、若手との交代を希望する派に分かれていた。だが、討論会を機に交代論が一気に高まった。

そんな折もおり、7月13日に東部の激戦州ペンシルベニア州で選挙演説中だったトランプ氏が銃撃される事件が起きるも、奇跡的に右耳を負傷しただけで事なきを得て選挙戦に復帰。

選挙演説中に銃撃を受けて負傷し、シークレット・サービスの人員に支えられるドナルド・トランプ前大統領
選挙演説中に銃撃を受けて負傷し、シークレット・サービスの人員に支えられるドナルド・トランプ前大統領=2024年7月13日、アメリカ・ペンシルベニア州バトラー、ロイター

一方のバイデン大統領は、17日に新型コロナ陽性となり、予定されていたラスベガスでの選挙演説を中止。民主党支持者の懸念は募るばかりだった。「日曜に何らかの発表がある」と伝えるメディアもあったが、あくまでうわさの域だった。

バイデン氏がオバマ政権の副大統領だった時期を多くのアメリカ人が覚えている。2人のホワイトハウス着任は2009年と、今から15年も前のことだ。バイデン副大統領は生真面目なオバマ大統領の背後で大声で笑い、くだけた物言いとジョークで場を和ませた。

その様子はコメディアンにモノマネされ、人気コメディー番組『サタデー・ナイト・ライブ』の定番コントにもなった。また、「運動促進」キャンペーンの一環でふた回りも若いオバマ大統領と肩を並べてホワイトハウスの回廊を走るパフォーマンスを見せたこともあった。

子どもの運動促進キャンペーンでホワイトハウス内を疾走するオバマ大統領とバイデン副大統領(2014年当時)=Let'sMove公式YouTubeチャンネルより

あの、いつもはつらつとしていた "ジョー" が、かつての活気をすっかり失ってしまったことに支持者はショックを受け、何よりトランプ氏の再選を恐れた。

喜びを抑えきれない民主党支持者たち

そこへ降って湧いた「カマラ・ハリス」の登場。

これに驚き、歓喜した民主党支持層の一般X(旧ツイッター)ユーザー、インフルエンサー、セレブ、政治家などがハリス氏支持のツイートを続々と行った。

真剣に支持を表明するものもあれば、ジョークで笑わせるものもあった。次々と行われる「カマラ・ツイート」に、過去数カ月にわたって気をもみ、鬱々としていた人々の心が一気に晴れた。11月の本選へのモチベーションが瞬時にして爆上がりしたのだ。

「選挙に勝って行こう!」の意味で使われる「Let's Go!」に変わって「Let's Fuxxing Go!」のフレーズも多用された。Fワードが挟まれているためハリス氏本人や、公式選挙チームはもちろん使えないが、支持者たちは勢い付いて興奮が抑えられないのだ。まさに「カマラ・マジック」と言える。

Xインフルエンサーのアレックス・コール氏「私は彼女と共に」

ハリス氏支持者たちは自身のアカウント名に「🥥🌴」(ココナツ・ツリー)の絵文字を付けることもしている。これは、ハリス氏の亡き母親が子供時代のハリス氏と妹を叱る時に「一体何をやってるの?ココナツの木から落ちたばかりとでも言うの?」と言ったとする思い出話が発端になっている。

当の母子以外にはわかりにくい言い回しゆえに支持者の印象に残り、いつしか「ミーム」(ネット上で人々が模倣・改変・拡散する画像などのこと)となったのだった。

支持者の興奮は選挙資金への寄付にも表れている。日曜のハリス氏立候補表明から24時間で、なんと8億1000万ドル(約127億円)の寄付が集まった。ニューヨーク・タイムズ紙によると、88万8000人から寄付があり、うち6割は今回の大統領選に対して初めての寄付。多くの人がバイデン大統領の続投に不安を抱いていたことが分かる。

注:米国では米国市民と永住権保持者(グリーンカード保持者)が政治献金を行える。それ以外の各種ビザ保持者の献金は違法。

民主党有力政治家やセレブも支援を表明

ハリス副大統領への民主党候補一本化へ、民主党の主だった政治家たちも続々とハリス支持を表明している。

■アレクサンドリア・オカシオ・コルテス連邦下院議員

「カマラ・ハリスが次期米国大統領となる。私は11月の彼女の勝利を確実にするために全力で支援することを誓う。今こそ、私たちの党と国家が速やかに団結し、ドナルド・トランプとアメリカ民主主義への脅威を打ち破ることがこれまで以上に重要です。仕事に取り掛かろう」

■バイデン大統領に代わる大統領候補になるかと注視されたピート・ブティジェッジ運輸長官

「私はカマラ・ハリスが次期アメリカ合衆国大統領に選出されるよう、全力を尽くします」

■大統領選出馬を望む声が多く出たが、ハリス氏の選挙キャンペーン共同議長になると発表したミシガン州グレッチェン・ウィトマー知事

■タイム誌の表紙

左が7月21日発行号の表紙、右がテレビ討論会翌日の6月28日に発行されたデジタル版の表紙

■ジョージ・タケイ氏(人権活動家でもある日系アメリカ人俳優)

「ジョーがカマラを選んだ時は 『DEI (多様性・公平性・包括性)』だったが、カマラがスウイングステート(激戦州)からストレートの白人を選ぶのは『戦略的』だ」

■今回が初の大統領選への投票となる若者たち

「私の名前はミア・トレッタです。19歳で、2024年にはカマラ・ハリス副大統領を支持します。私に賛成する人??」

他にもビル・クリントン元大統領、ヒラリー・クリントン元国務長官、ナンシー・ペロシ元下院議長、民主党大統領候補にも名前が挙がっていたカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事など。

避けられないSNS上のデマや中傷

言うまでもなく、アンチからの根拠のない誹謗中傷ツイートもある。

ハリス氏は母親がインドからの、父親がジャマイカからの移民であり、「大統領の資格なし」とするものがある。ハリス氏はアメリカ生まれなので大統領の資格は当然ある。これはトランプ氏が、母親がアメリカ人、父親がケニア人であるオバマ元大統領に「ケニア生まれで大統領の資格なし」と偽りの中傷を執拗に続けたのと同じパターンだ。

また、HBCU(歴史的黒人大学)の名門、ハワード大学卒業であることなどから一般的に黒人のイメージが強く浸透しているハリス氏に対し、母親側の親族と共にインドの民族衣装サリーを着ている写真を使い、「黒人じゃない、インド人だ」とするものもある。黒人有権者の気を削ぐのが目的だ。

さらに中絶問題を引き合いに出す醜い中傷もある。トランプ氏の任命によってアメリカ最高裁判事が右傾化し、アメリカは今、中絶の権利問題で紛糾している。

次期大統領はこの問題とも対峙せねばならず、自身も女性であるハリス氏は以前より発言を続けている。そのハリス氏に対し、極右のインフルエンサーが「ハリスは中絶を繰り返して子宮を痛め、そのために実子がいない」と根拠のないデマをツイートしている。

オバマ元大統領とファーストレディーだったミシェル氏も、その人間性を根本から貶める誹謗中傷をSNS上で受け続けた。SNSでの中傷は、現代社会においては非常に残念ながら大統領職者が避けて通れない事態となっている。

トランプ氏の「ブラック・ジョブ」発言はね返す「ブラック・ツイッター」

だが、SNSには常にユーモアがあり、わけても黒人X(旧ツイッター)ユーザーたちは人種問題を含むあらゆるイシューを、時には真剣に、だが多くの場合は独特のユーモアを交えてツイートし、社会を変えていくツールとしている。

彼らは"Black Twitter"と呼ばれてきた。

近年、イーロン・マスク氏に買収されて「X」と名を変え、それと前後してインスタグラムやTikTokにSNSとしての王座を揺るがされはしたものの、Black Twitterは健在だ。

「誰かブラック・ジョブ(黒人の仕事)って言った?」

"Black Job"とは6月の大統領選テレビ討論会でトランプ氏が発した造語だ。

移民問題について「(国境を越えてくる不法移民が)ブラック・ジョブ(黒人の仕事)を奪っている」と言い放った。トランプ氏は「ブラック・ジョブ」が何を指すかの説明はしなかったが、低賃金の単純労働職を指しているのは明らかだった。

これに対し、Black Twitterは直ちに反撃に出た。ただし彼らの特性であるユーモアを持って。

一般人から著名人に至るまで、あらゆる職種の黒人が自分の職業が分かるセルフィーを挙げ、プライドおよび皮肉と共に「これがBlack Jobだ」とツイートしたのだった。

■CNNのアンカーパーソン、ヴィクター・ブラックウェル氏

「僕?別にたいしたことじゃないよ。ここで自分のブラック・ジョブをやってるだけ」

■郵便局員(米国市民権、または永住権保持者でなければ雇用されない)

「今朝、ブラック・ジョブに出勤しているところさ」

先のハリス氏の画像を使っての「誰かブラック・ジョブって言った?」は、黒人インフルエンサーによるパロディーだ。アメリカ合衆国のトップの仕事が、黒人となることを確信しての。

別のBlack Twitterは「カマラ・ハリスへの投票がオレのBlack job だ」とツイートした。すると白人男性が「ヘイ、違うよ。それはオレのWhite jobだ」とリプライ。それらを受けて別の女性が「それはね、私たちの『アメリカン・ジョブ』なの!」と締めた。

トランプによる侮蔑の言葉が皮肉とプライドを込めたジョークとなり、ついには人種を超えた有権者の連帯を引き出したのだ。

このカマラ・ハリス氏は来年1月、アメリカ史上初の女性大統領、アメリカ史上初のアジア系大統領、アメリカ史上初の黒人/アジア系ミックスの大統領となるのだろうか。