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国内総生産(GDP)とは?名目と実質とは?日本が順位を下げる理由、わかりやすく解説

World Now 更新日: 公開日:
写真はイメージです=gettyimages
写真はイメージです=gettyimages

国内総生産(DGP)とは

GDPの定義について教科書などを読むと「国内で生み出された付加価値の総額」などと書いてある。もちろん、この説明は間違っていないのだが、付加価値の総額と言われてもほとんどの人がピンと来ないのではないだろうか。

付加価値の総額について、もう少し具体的に説明すると以下のようになる。

ある事業者が80円で商品を仕入れて100円で売った場合、その事業者は20円の利益、つまり20円の付加価値を生み出したと判断できる。事業者の売上高は100円だが、生み出した付加価値は20円と考えてよい。そしてこの事業者に80円で商品を売った事業者は、仮に50円で商品を仕入れていたとすると30円の付加価値を生み出したと考えることができる。

このようにして、あらゆる事業者が生み出した付加価値を合計したものがGDPである。

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だが、ここで言うところのGDPは、事業者の生産面に着目したものであり(生産面のGDP)、同じGDPでも異なる方向から見ると、その定義は変わる。

事業者が商品を売ったということは、買った消費者が存在することを意味している。事業が生み出した付加価値の総額がGDPならば、消費者が購入に使ったお金の総額も同じ金額なはずであり、これもGDPとみなせる(支出面のGDP)。

さらに言えば、事業者は販売で得た利益を従業員の賃金として支払ったり、銀行や投資家などに利子や配当として還元したりしている。企業が生み出した付加価値は最終的に誰かに分配されるので、GDPというのは国民が受け取ったお金の総額と考えることも可能だ(分配面のGDP)。お金を受け取った人は、そのお金をもとに支出を行うので、お金はグルグルと世の中を回っていく。これを経済学の世界ではGDPの「三面等価の原則」と呼ぶ。

生産面と支出面、分配面のGDPが等しくなる「三面等価の原則」=GLOBE+編集部作成
生産面と支出面、分配面のGDPが等しくなる「三面等価の原則」=GLOBE+編集部作成

つまりGDPとは、その国全体で1年間に使われたお金の総額なので、この金額が大きければ大きいほど、多くのモノや人が動き、経済活動が活発であると見なせる。GDPが経済状況を示す最も重要な指標と位置付けられているのは、こうした理由からだ。

名目GDPと実質GDPの違い

GDPを使って経済を分析するにあたって、最も大事なのは名目と実質の違いである。

日本のGDPは約550兆円だが、この数字は、実際に使われたお金の額であり、これを「名目値」と呼ぶ。名目値は実際にやり取りされた金額そのものなので分かりやすいが、物価が上がったり、下落していたりする時には少々厄介な問題を引き起こす。

たとえば、ある商品の値段が100円で、国内で当該商品が1回だけ取引されたと仮定すると、理屈上、GDPは100円と計算される(原価はゼロ円と仮定)。だが、その商品の値段が120円に上がった場合、使った金額をそのまま使用する名目GDPは120円になってしまう。GDPは年間20%も上昇し、経済活動が2割も増えたことになるが、現実には商品は1個しか売れていないので、価格が100円だった時と何ら違いはない。

つまり、実際の取引量が増えていないにもかかわらず、物価だけが上がってしまうと名目GDPは増えるもの、実態は何も変わらないという状況に陥ってしまう。

これを是正するには、物価上昇分を差し引くという作業が必要となり、結果として得られた数値が実質GDPということになる。このケースでは名目GDPは2割増えたものの、物価も2割上がっているので、その分は相殺され、実質GDPの数字は変化していないという結果になる(つまり実質成長率は0%)。

名目と実質の違いは非常に重要なのでよく理解しておいてほしい。

GDPプラス成長=「経済成長している」とは限らない

近年、日本でもインフレ(物価上昇)が顕著となっており、多くの商品の値上がりしている。値段が上がると、見かけ上、GDPが大きくなって税収が増えるという現象が発生するが、実質的な経済活動が変わっていななければ、経済が成長したとは言わない。

一部の論者はインフレが進み、名目上の税収が増えているので日本は景気が良くなっていると主張しているが、全くの誤りである。商品の値段が上がればその分だけ税収も増えるものの、政府が支払わなければならない経費の金額も増えているので、物価を考慮した実質ベースでは何も変わっていないからだ。

岸田文雄首相は定額減税の実施にあたって増えた税収を還元すると説明しているが、これは正しい説明ではないと考えてよいだろう。

GDP比較の物差しは米ドル

GDPを国力の比較に用いる場合には、為替レートについても注意を払う必要がある。仮に日本円ベースでGDPが伸びても、円安が進んでしまえば日本の実質的な購買力は変化しないからだ。

各国のGDPを比較する際には共通の物差しが必要であり、現時点ではドルが用いられる。日本円は過去2年間で、1ドル100円から150円まで3分の2ほど価値が下がってしまった。日本円ベースでのGDPに変化がなくても、日本円の価値が下がっているので、ドルで見た時の日本のGDPは下落する一方である。結果として、かつては先進国で最もGDPが大きかった日本が続々と各国に抜かれる状況となっている。

日本は相対的に貧しくなっている

GDPが他国に抜かされるたびに、必ずと言っていいほど「一喜一憂する必要はない」「日本の実力はGDPでは測れない」などといった感情的で、勇ましい意見が出てくるのが、こうした議論にはほとんど意味がない。

前述のようにGDPほど、その国の経済力を端的に示す指標はなく、中国とドイツに抜かれ、やがてインドにも抜かれるというのは、単純に日本の経済力が低下しただけの話であり、それ以上でもそれ以下でもない。GDPが小さくなるというのは、簡単に言えば、貧しくなっていることと同義であり、この状態は一刻も早く解消する必要がある。