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ヘラルボニーが世界的ピッチコンテスト決勝へ 知的障害がある人のアートをマネタイズ

スタートアップワールドカップ 更新日: 公開日:
スタートアップワールドカップ京都予選で1位に輝いたヘラルボニー共同創業者の松田文登氏
スタートアップワールドカップ京都予選で1位に輝いたヘラルボニー共同創業者の松田文登氏(中央)=2024年5月21日、京都大、関根和弘撮影

6回目となるこのコンテストは、スタートアップへの投資などを手がけるベンチャーキャピタル「ペガサス・テック・ベンチャーズ」(本社=アメリカ・カリフォルニア州、アニス・ウッザマンCEO)が主催。75カ国以上の国と地域で予選を開く予定で、コンテストを通じて有望なスタートアップを見いだし、提携を望む大手企業につなぐことも狙っている。

国内予選は京都のほか、東京と熊本でも開かれる予定で、それぞれを勝ち抜いた計3社が日本代表として決勝大会に出場する。

21日にあった京都予選に登壇したヘラルボニーの共同創業者、松田文登氏は、知的障害がある人のアート作品をあしらった商品などを次々と生み出してきた実績を強調。知的障害を持つアーティストの中には「扶養の基準を超えて確定申告する」ほど稼ぐケースがあることを紹介した。

事業を始めるきっかけは、知的障害がある兄の存在だったとし、「小さい頃から兄に対して『かわいそう』と言われることに違和感があった。どうやったら変えていけるのかと考えたとき、支援や貢献という文脈ではなく、ビジネスとしていく」などと述べた。

スタートアップワールドカップ京都予選でプレゼンするヘラルボニー共同創業者の松田文登さん
スタートアップワールドカップ京都予選でプレゼンするヘラルボニー共同創業者の松田文登さん=2024年5月21日、京都大、関根和弘撮影

予選終了後、松田氏は取材に対し、次のように語った。

「国によって障害についての価値観や概念は違うと思いますが、ヘラルボニーが社会に新たな一歩をつくっていくことは、多様な人たちの一歩をつくっていくことでもあると信じているので、そのためにもっととんがっていきたい。社会課題として難しくとらえがちになるが、シンプルに自分には描き出せない、とてつもないアート作品、圧倒的な彩りや美しさの作品を普通に感じてもらえる社会を実現したいです。そうすることが、色んな人たちをエンパワーメントすることにつながると信じているので」と語った。

松田氏のプレゼン内容は以下の通り。

「かわいそう」に違和感

皆さんは障害者と聞いたときに、何を想像するでしょうか。私たちは障害としゃべったときに「欠落」と連想するのではなく、違いや個性という言葉に脳内で変換されていくような未来をつくっていきたいと思っています。

障害がある人たちの月額の賃金は1万6118円というのが現状です。私たちヘラルボニーが根本的に変えていきます。

先日、「鳥肌が立つ、確定申告がある」という意見広告を国税庁の近くに掲示しました。そこには「息子が扶養の基準を超えて、確定申告することになりました」とあります。今ヘラルボニーから続々と確定申告をする作家さんが現れています。支援や貢献の文脈ではなくて、むしろ税金を納める側に彼らは変わっていっています。

ヘラルボニーはアートのデータを用いて、JALのビジネスクラス、ファーストクラスのアメニティー、パラリンピックのプロジェクションマッピング、日本橋三越のアートの装飾、東京駅や成田空港、金沢21世紀美術館の企画展など、様々な形で障害のある方とのタッチポイントを増やしています。

マーケットは現在、国内だけで6兆円あります。今後は海外に向けて強く挑戦していきます。「異才」を世界に羽ばたかせていく未来を実現していきます。アート作家の収益が4年で15倍になっています。国際アートコンペティションを先日開催したところ、28カ国、924人が参加し、約2千点の作品が集まりました。今後は世界の作家ともアートのライセンス契約を結んでいき、世界の中のアートのエージェンシーになっていきます。

ビジネスモデルは、ヘラルボニーが作家と福祉施設の中間に入っています。適切な形で賃金をアップしていくモデルを作っていきます。世界的にも株式会社でこの事業をやっているのは私たちだけです。

なぜこの事業をやるのか。四つ上の兄が先天性の知的障害を伴う自閉症ということがあります。小さい頃から兄に対して「かわいそう」と言われることにすごく違和感があって、社会のそんなアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をどうやったら変えていけるのかと考えたときに、支援や貢献という文脈ではなく、ビジネスとしていく、根本的に収益を渡していく、そういう仕組みを作っていくことを考えました。兄だけでなく、障害のある方たちの強き一歩をつくっていきたいと思っています。