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恋愛にもAI導入、翻訳アプリ・オンラインデート… 国境と言葉の壁を乗り越えた二人

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
人工知能を活用したリップダブ・アプリがあれば、言葉の壁も乗り越えて恋に落ちることができる
人工知能を活用したリップダブ・アプリがあれば、言葉の壁も乗り越えて恋に落ちることができる=Gill Button/©The New York Times

リロイ・ロメロは2023年6月、米アリゾナ州の地元ピオリアからメキシコのメヒカリ市にあるアップルビーズ(訳注=米国を中心に展開するファミリーレストランチェーン)まで、車で4時間かけて向かった。ブレンダ・オチョアとの初デートのためだ。

それは、相性が良さそうだとみた共通の友人が取り持ってくれたブラインドデートだった。出かけていったロメロは、住宅ローンのオリジネーター(起案者)の仕事をしており、カジノディーラーとして働く29歳のオチョアが魅力的で、自分よりずっと背が高いとわかっていた。

ロメロは、もう一つちょっとした問題があることも予見していた。オチョアの母語はスペイン語で、彼は話せない。そして、彼女は英語を話せなかったのだ。

ロメロは彼女と一緒にマルガリータを飲みながら、お互いを知るために「Google Translate」や「DeepL Translate」といった翻訳アプリを使おうと提案した。

アプリのおかげで、あまり無駄話はしなかった。二人は心を動かされたことについて語り、1年後、3年後、そして5年後の自分たちがどうなっているかを話し合った。「無駄なおしゃべりがなくなって、いい感じだった」と45歳のロメロは振り返る。

しかし、その月の後半、ロメロはもっと簡単にコミュニケーションがとれるかもしれない手段があることに気づいた。彼は職場で、「Captions」というアプリを使って動画を作成し、顧客の疑問に答えている。

そのアプリはAI(人工知能)を使い、ユーザーが動画を編集したり、録画したり、また脚本を書いたり、字幕を追加したりするのを助けてくれる。友人が、オチョアとの会話にこのアプリを試すように勧めてくれたことを思い出した。「君さぁ、翻訳ボタンがあるよね。それを使って翻訳し、彼女に動画を送ったら」と。

昨年、同じようなソフトを発表し、ベンチャーキャピタルから数百万ドルの資金を集めた「HeyGen」「Verbalate」「Zeebra」のように、Captionsを使えばユーザーは自分の動画に字幕を付けられるだけでなく、翻訳やリップダブ(訳注=既存の歌や音声に合わせて口パクとダンスなどのパフォーマンスをする)、多言語の字幕の追加もできるし、スペイン語、ヒンディー語、イタリア語、日本語などの目標言語に音声と唇の動きを同期させられる。

リップダブ機能はそれ単体のアプリもあり、人の自然な唇の動きを模倣し、その人の声の調子や口調を反映させることができる。つまり、ロメロの動画は、彼そのものに見え、聞こえるのだ。それもスペイン語を話しているかのように。

午後4時2分、シューッという音。メッセージが送信された。

テクノロジーは長い間、恋愛の対象や求婚相手になりそうな人とのコミュニケーションの仲立ちをしてきた。気になる相手にしれっとダイレクトメッセージを送り、マッチングアプリで「いいね」を押し、承認されたら一日中延々とメッセージをやり取りするのがふつうになっている。

AIを恋愛に取り入れることに慎重な人もいるが、チャットボットを使ってラブレターの下書きをつくったり、オンラインデートの退屈さを軽減したりするためにAIを受け入れ始めた人もいる。一部の専門家らは、ロメロとオチョアのような恋物語がさらに一般的になり得ると言っている。

サイバーデートの専門家で、回顧録「The Perils of Cyber-Dating(サイバーデートの危険)」の著者ジュリー・スピラは、「人が『おお、私たちってAIの世界でデートしているんだね』と言うとき、私なら『Google Translateを使ったことがない人なんている?』と思う」。「だから、AIはデートに必要な小道具の一部になっていると思う」と言った。

恋愛とテクノロジーとの接点を研究し、この業界に30年間携わってきた交際コーチとして、スピラは、デジタルデートが新しい方法で技術を取り入れ変化するのを見てきた。たとえば、AIを搭載した出会い系アプリや、ユーザーがより良い写真を選べるようにAIを活用するプラットフォームなどだ。

「愛を見つけるということは、どんな形式であれ、AIからの提案と自分の直感を信じることの組み合わせだと思う」と彼女は言っている。

「オンラインデートはもはやオンラインデートではなく、ふつうのデートになったことを認識する必要がある。AIデートもまた、ふつうのデートとして知られるようになる。なぜなら、それはすでにあらゆる出会い系アプリで使われているからだ」

ロメロは、ほぼ月に1回、メキシコにいるオチョアのもとを訪れる。しかし、二人が離れている時は、AIを搭載したアプリがオチョアをロメロの台所に連れて行ったり、ロメロが10代の息子をコーチしているレスリング大会に連れて行ったりする。

二人はWhatsAppでメッセージをやり取りし、オチョアが仕事の準備をしている時にビデオチャットをしている。リップダブ機能に加えて、オチョアはよくiPadを使って二人だけの会話を翻訳する。一方、ロメロは双方向同時通訳機能を備えたイヤホンTimekettle WT2 Edgeの助けを借りて、瞬時に会話を理解している。

二人の勤務時間が違うため、オチョアはふだん、ロメロが寝ている間に仕事をしている。「でも、朝はいつもリロイ(ロメロ)から、良い1日を送ってねという動画と一緒に『おはよう、いとしい人』というメッセージが流れてくるの」と彼女は言う。

ハイテクアプリは常に完璧というわけではないが、ロメロによると、それがいい方に働くこともある。

「何度も動画を撮影しない限り、撮り直しはない」と、ロメロはリップダブ・アプリについて語った。「それはコミュニケーションの不完全さを完璧に引き出してくれ、それが成長に役立つのだと思う」と彼は言っている。

ロメロは2023年10月、新たに翻訳されたビデオメッセージをオチョアの祖母に送信し、オチョアに直接結婚を申し込む前に、祖母の許可を求めた。彼は、婚約までの数週間、AIの助けを借りずにスペイン語の表現をしっかり暗記したという。二人は2024年夏にメキシコのロサリートで結婚式を挙げる計画を立てている。

彼らは、ずっとAIに依存することはないだろうと思っている。二人はお互いに助け合い、昔ながらのやり方でスペイン語と英語の勉強も始めた。

オチョアは、「彼と一緒にいる時は、暗記用の単語カードを1日5枚教えている」と言う。「彼は、『4枚、いや3枚にして』とせがむけど、私は『ダメ。5枚よ』と言うの」

2024年2月にインタビューした時、二人は英語とスペイン語の両方を使っておしゃべりをし、時々話を中断してお互いの考えが同じかどうかを確認した。そうすることで、ロメロはオチョアに「te amo(愛しているよ)」と伝えられるのだ。

企業による人工知能の開発と活用を支援する会社「DataRobot」のグローバルAI倫理学者ハニエ・マフムディアンは、テクノロジーの限界を理解することが重要だと言っている。

「AIは完全無欠だと考えるのは間違いだ」と彼女は指摘する。「AIのリップダブ機能には、他のテクノロジーと同様、限界やエラーがある」

彼女によると、より多くの人びとが「AIのアルゴリズムにさらなる信頼を置き、デートするかもしれない相手がどのようにコミュニケーションを取るか、テクノロジーが割り出すその他の細かい相性に関するAIの判断に基づいて、気の合う相手を見つける」可能性があるので、AIには限界やエラーがあることを念頭に置いておくことが望ましい。

オチョアとロメロのケースでは、テクノロジーは二人の交際のほんの一部にすぎない。彼らが言うには、あとは二人の相性と、関係を築く努力だという。

「難しいことではない」とオチョアは言う。「私たちにはコミュニケーションに使う手段がたくさんあり、それが交際を簡単にする」(抄訳)

(Amanda Florian)©2024 The New York Times

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