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ビジネス、プロ向けAI翻訳も普及 日本と欧州の違いは「後ろめたさ」で使わない?

World Now 更新日: 公開日:
黒いセーター、カジュアルな服を着た男性がこちらを見て微笑んでいる。
AI翻訳サービス「ヤラクゼン」を運営する八楽株式会社社長の坂西優さん=本人提供

人工知能(AI)を活用した翻訳システムが、世界的にビジネスの現場にも普及しつつあります。積極的に導入している欧州に比べ、日本では慎重な企業が少なくないのはなぜか。日本発のAI翻訳ウェブサービス「ヤラクゼン」を運営し、オランダを拠点に活動する坂西優さんに聞きました。(聞き手・玉川透)

ーーAI翻訳サービス「ヤラクゼン」の特徴を教えてください。

ヤラクゼンが提供するAI翻訳サービスは、いわゆる「CATツール」と呼ばれるものです。CATとは、Computer Assisted Translationの略です。

具体的には、プロの翻訳者の仕事をAI翻訳で支援し、編集やデータ管理を容易にするシステムを提供しています。

ーーGoogle翻訳やDeepL(ディープエル)など、一般の方が利用する翻訳エンジンとは異なり、「プロ向け」のイメージですね。

最近では、多くの企業などでプレスリリースやマニュアル、資料作成にAI翻訳を活用するケースが増えています。しかし、AI翻訳された文章を単にコピー&ペーストして使用している企業はまずありません。

翻訳エンジンの性能は向上したとはいえ、やはりプロの翻訳者など人間による最終チェックが欠かせません。そこで便利なのが、CATツールです。このツールを用いることで翻訳の質を向上させることができます。

具体的には、翻訳の抜けや漏れを防ぎ、翻訳の一貫性を保つのにも役立ちます。また、ユーザーごとに使いやすいよう、カスタマイズもできます。

使えば使うほど翻訳データが蓄積され、それを再利用することで、大量の資料を翻訳する際の翻訳スピードの向上につながります。

ーー坂西さんは、オランダを拠点に欧州の企業にサービスを提供されています。日本と欧州では、AI翻訳に対する考え方にどんな違いはあると感じますか?

まず、英語レベルの違いが大きいと感じます。欧州のユーザーがAI翻訳を使う主な目的は効率化、つまり時間の短縮です。

もともと英語が得意な人が多いので、AI翻訳にかけた後、それが間違っていないか自分でチェックすることが容易にできます。

それに比べて、日本人は英語が苦手と感じている人が多いため、AI翻訳された文章を疑うことなく、そのまま使う傾向があるように感じます。

ーー私自身、AI翻訳を仕事で使うとき、ちょっと後ろめたさを感じてしまいます。AI翻訳を導入する企業側の心理は、どうでしょうか?

たしかにそういう心理が、日本では強いように感じます。加えて、AI翻訳の導入に二の足を踏む企業がまだまだ多いように思います。

私たちがターゲットとしている企業の多くは、翻訳業務にバイリンガル社員やプロの翻訳者を雇用しています。こうした企業の中には、AI翻訳システムの導入に抵抗感を示すところもあります。

プロの翻訳者を雇っているのに、どうしてわざわざAI翻訳に置き換えなくてはいけないのか。支援ツールを使うことで、翻訳作業を効率化できると説明しても、なかなか理解されないこともあります。

そうした心理の根っこには、翻訳業務をAIに頼ることをよしとしない日本独特の企業文化が影響しているようにも感じます。これはコストうんぬんというよりは、むしろ、そもそも翻訳は人間がするもの、という考えが根強いのでしょう。

ーーChatGPT(チャットGPT)に代表される生成AIの登場で、AIは新時代を迎えました。生成AIも多言語に対応していますが、今後、AI翻訳システムが取って代わられる可能性はありませんか?

ChatGPTのような生成AIでも、ちょっとした翻訳作業はこなせるのは事実です。「この文章を英訳して、ビジネス向けの文体に変えてほしい」とAIにリクエストすることもできるかもしれません。

しかし、その際に適切な指示を与えなければ、思うような結果が得られないケースもありますし、場合によっては誤ったデータが作成される危険性もあります。

その点、翻訳機能に特化したAI翻訳はまったく別物です。一般的な翻訳業務だけでなく、翻訳を生業とするプロフェッショナルにとっても、AI翻訳は欠かせないツールになると思います。今後もAI翻訳独自の機能を開発することで、その需要はさらに高まっていくでしょう。