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バナナの皮をむいて食べることを独学した動物園のゾウ 幼い頃の珍しい経験に由来?

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
A still image from a handout video shows Pang Pha, an Indian elephant at the Berlin Zoo in Germany, peeling a banana. Pang Pha, who grew up at the zoo, may have learned to peel bananas from observing zookeepers do the same. (Kaufmann et al./Current Biology via The New York Times)  ム NO SALES; FOR EDITORIAL USE ONLY WITH NYT STORY SLUGGED ELEPHANT BANANA PEELING BY EMILY ANTHES FOR APRIL 10, 2023. ALL OTHER USE PROHIBITED. ム
ドイツのベルリン動物園にいるアジアゾウのパン・ファーは、鼻でバナナの皮をむく=Kaufmann et al./Current Biology via The New York Times/©The New York Times

パン・ファーはグルメなゾウだ。彼女に黄色かまだ緑色のバナナをあげると、皮ごとまるまるのみ込むようにして食べてしまう。茶色のバナナを差し出すと、長い鼻を上に向け、さりげなくポイと放り出す。

ところが、ドイツ・ベルリン動物園にすむこのアジアゾウに茶色の斑点がある黄色いバナナを与えると、ゾウの仲間が誰もしないことをする。皮をむくのだ。彼女は鼻の先を使ってバナナを半分に折り、中の果肉が滑り落ちるまでバナナを振り回す。それから、皮を残して果肉を夢中で食べる。

「絶妙の技だ」。ベルリンにあるフンボルト大学の神経科学者ミヒャエル・ブレヒトは指摘する。パン・ファーが皮をむく能力に関する新しい論文の筆者の一人だ。論文は4月10日、学術誌「Current Biology」に掲載された。「パン・ファーは明らかに行動を最適化した」と彼は言っている。

ブレヒトと同僚たちは、動物園で育ったパン・ファーは飼育係が彼女のためにバナナの皮をむくのを見て、そのやり方を会得したのではないかと推察している。

この行動には前例がないわけではない。他のゾウが果物の皮をむく事例報告やオンラインの動画があり、今回の研究チーム外の専門家の一部はパン・ファーが人間から習性を学んだという見方に納得していない。

しかし、科学者たちは、パン・ファーの行動は興味深く、ゾウが物をいかに巧みに操るかを見せつけていると指摘する。

「バナナの皮むきは、ゾウの鼻の器用さを示す一例だ」とジョシュア・プロトニクは電子メールで答えてきた。ニューヨーク市のハンター・カレッジの比較心理学者で、「鼻は、ゾウがさまざまな目的に使うすばらしい『ビルトイン・ツール(生来の道具)』なのだ」と言っている。

今回の研究はゆっくりとした滑り出しだった。飼育係が、ゾウの行動と神経生物学を研究しているブレヒトにパン・ファーのことを話した後、研究者たちはパン・ファーのもとを何週間も訪れてバナナを与えた。しかし、飼育係が言っていた特徴的な皮むき行動はまったく見られなかった。「彼女のために、いつもできるだけ最高のバナナを持って行ったのだけれど、その皮をむくようなことは決してしなかった」とブレヒトは振り返る。

最終的に、研究者たちはパン・ファーが適度に熟したバナナだけ、その皮をむくことに気づいた。とりわけ、黄褐色になったバナナを好むようだった。それは恐らく、よく熟したバナナは皮から果肉が滑り出やすいからだとブレヒトは言ったが、他にも理由があるかもしれない、と付け加えた。「私たちがもう一つ考えたのは、茶色くなった皮は嫌な味がするからかもしれないということだ」と彼は言った。

研究者たちはまた、パン・ファーがバナナをめぐって他のゾウたちと競い合わなければならないとき、彼女の行動に変化が起きることを突きとめた。パン・ファーは集団でえさを食べるときは、バナナをまるごと、できるだけ素早くのみ込む。科学者の計算だと、2秒ごとに1本の割合だった。そして、最後に1本だけ、皮むき用に残した。

「時間が許せば、パン・ファーは皮をむいたバナナの方が好きなのだ」とブレヒトは言う。

ベルリン動物園で育ったパン・ファー(左)は、飼育係がバナナの皮をむくのを見て、その行動を学んだのかもしれない=Kaufmann et al./Current Biology via The New York Times ©The New York Times
ベルリン動物園で育ったパン・ファー(左)は、飼育係がバナナの皮をむくのを見て、その行動を学んだのかもしれない=Kaufmann et al./Current Biology via The New York Times ©The New York Times

ベルリン動物園の他のゾウたちは、バナナの皮をむくところを目撃されていない。何頭かは、パン・ファーが繰り返し皮むき行動をするのを見ているにもかかわらず、である。

研究者たちは、パン・ファーの行動は彼女が幼かったころの珍しい経験に由来する可能性があると考えている。パン・ファーがベルリン動物園に連れてこられたときに手塩にかけて育てた献身的な飼育係は、バナナの皮をむかずにまるごと与えるという一般的なやり方をしなかった。

「その飼育係は、ゾウが常に皮つきのままバナナを食べるなんておかしいと思い、パン・ファーにはいつもバナナの皮をむいてやっていた」とブレヒト。「(パン・ファーの皮むき行動は)それから始まったと私たちは考えている」

幼少期の経験によって、パン・ファーはバナナの皮むきを観察する機会を与えただけでなく、ほかのゾウとは違って皮をむいたバナナの味を好むようになったのかもしれない。そうブレヒトは言っている。

それでも、英スコットランドのセント・アンドリューズ大学の認知行動と社会的行動の進化を研究する専門家リチャード・バーンは、観察学習と結論づける根拠は薄弱だと指摘する。

「パン・ファーは、人間がバナナの皮をむくのと同じ運動作用はしないし、できなかった」とバーンは電子メールで回答を寄せた。「私からすると、これは味の好みのようにみえる。その気持ちはわかる。腐った皮を食べないようにするのは、そうする余裕があるところでは栄養学的にも理にかなっている」と彼は書いてきた。

パン・ファーの娘のアンシャリは皮むき行動をしていないが、時々パン・ファーの皮むきの恩恵にあずかっている。

「ちょくちょくあることだが」とブレヒトは言い、「パン・ファーがバナナの皮をむき、娘がその皮を食べているのだ」と続けた。(抄訳)

(Emily Anthes)©2023 The New York Times

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