新型コロナで観光客激減のタイ ゾウも失業の危機
![Elephants are bathed by their handlers, known as mahouts, in Baan Thung Luang, Thailand, on March 22, 2020. These three, owned by Amnuai Charornsuksombat, were taken back to his village because of the dwindling number of tourists at the parks where they worked. (Adam Dean/The New York Times)](http://p.potaufeu.asahi.com/4bd2-p/picture/21369129/09e108548ac34e9c5a036e0c57050bee.jpg)
10年以上前のことだが、飼い主がタイの都市にゾウを連れて行き、路上で物乞いをする光景がふつうに見られた。他には、ミャンマーとの国境沿いで違法伐採業者たちが木材を切り出し、森から運び出すのに使われるゾウもいた。
タイでは徐々に、そうした慣行を減らし、飼いならされたゾウの暮らしの改善に成功してきた。ところが今、世界中で人びとをうんざりさせている新型コロナウイルスが、その進展を脅かそうとしている。
外国人観光客の突然の減少で、数十のゾウパークや同様の観光施設が閉鎖を余儀なくされ、1千頭以上のゾウが仕事を失い、将来の危機に瀕(ひん)している。そう観光施設の運営者たちは指摘する。
近年、タイに数多くあるゾウ観光施設について動物愛護の活動家たちが提起したのは、観光客がゾウに乗ることは虐待にあたるかどうかという問題だった。
だが、多くのゾウの飼い主にとって、ゾウを養うことこそが今やより喫緊の重大事なのだ。ゾウ1頭のエサ代は1日40ドルもかかる。タイの1日の最低賃金の3倍以上にあたる金額だ。
ゾウ観光オペレーターの団体「タイ・エレファント・アライアンス・アソシエーション(TEAA)」の会長ティーラパット・トルンプラカンは、政府が介入しない限り、一部のゾウは以前のように路上に追いやられたり、違法な木材伐採に投入されたりするのではないかと懸念していると言っている。
「生き残るための選択肢が逆戻りしてほしくない」とティーラパットは言う。「ゾウがバナナやサトウキビをねだりながら道路を歩き回るようなことをすれば、ゾウの命を危険にさらすだろう」
中国で(新型コロナウイルスが)最初に発生したことで、タイへの訪問者が突然減少した。両国が旅行を制限したのだ。2019年にタイを訪れた観光客4千万人の4分の1以上が中国人だった。
2月のタイ全体の観光客は、前年比で44%減った。旅行や活動に対する新たな制限で、3月は観光業がさらに打撃を被った。
観光業はタイ経済の大きな部分を占めている。ウイルスの攻撃を受ける前は、旅行と観光はタイの国内総生産(GDP)の20%超をはじき出し、労働力の16%近くを雇用してきた。
悪影響は全国に及んでいる。ホテルの部屋は空いており、タクシーは稼働していない。主要な催しは延期か中止になった。通常4月に行われるタイの新年の祭りや、3月に首都バンコクで開かれることになっていた第1回「WBCムエタイ世界大会」などだ。
オペレーターによると、ゾウを使ったアトラクションは大打撃を被った。
タイ北部では、客不足のため、そうしたアトラクションビジネスの85社が営業を停止した。チェンマイ市の北部にある「メーテーン・エレファントパーク」の総支配人ボーピット・チャイラートは、そう言っている。
ボーピットの話だと、タイ大手の一つであるメーテーンパークはまだ開いてはいるが、客は90%減少し、会社は従業員の勤務時間を短縮せざるを得なかった。同パークは、これまでは1日平均1千人の入園客がいた。ところが土曜日でも客はわずか4人だった。
タイには約3800頭の飼育ゾウがいる。ざっと3千頭の野生ゾウが生息する森に、そうした飼育ゾウを放すという選択肢はない。タイの法律で禁じられているからだ。森では、飼いならされたゾウは野生のゾウと争いになってしまう可能性がある。
「飼育されたゾウはエサを与えてもらうことに慣れているから、森の中ではエサを見つけられないのだ」とボーピットは言う。「3千頭ほどのゾウを同時に森に放した時のことを想像してほしい。すべてのゾウを養えるエサはないだろう」
ゾウはタイの国のシンボルだ。森林の急速な破壊に直面した1989年、商業目的の木材伐採はほぼ全面的に禁止されたが、それまでは、一部のゾウは何世代にもわたって木材伐採に使役されてきた。
動物愛護活動家たちは、観光事業でのゾウの訓練や扱いはしばしば虐待にあたると指摘し、ゾウをサーカスや観光客を乗せることに使うのをやめるよう求めている。彼らは、安全地帯や保護区でゾウを観察するだけの方が観光客にとっても好ましいし、ビジネスとしても成長すると言っている。
タイにおけるゾウの待遇改善に関わっている団体「フレンズ・オブ・アジアン・エレファント・ファウンデーション(FAEF)」は、以前から政府に対し、この種の観光業の緊急事態に対応するための基金を創設するよう催促してきた。
「この基金は重要だ。収入がなければ、ゾウの飼い主やパークのオーナーはゾウのエサを買う資金をどこから得るのか?」とFAEFの共同設立者で事務局長のソレイダ・サルワラは言う。「私はこうした状況をとても心配している」
TEAA会長ティーラパットによると、タイでアトラクションに使われているゾウの大半はそれぞれゾウの飼い主から借りている。もしパーク側がそうしたゾウを返してきたら、飼い主たちは路上で物乞いをするしかないと思い詰めるかもしれない。
あるいは、ミャンマーやラオスとの国境沿いで木材を引く使役をさせられる可能性がある。ティーラパットが言うには、そうした場所には地域紛争で使われた地雷が遺棄されており、ゾウがそれを踏む危険がある。
「ゾウたちは危険な地域で生きていかなければならない」とティーラパット。「ゾウが戻るにしても、場所によってはいまだに違法な木材伐採が行われている。飼い主の蓄えが底を突けば、彼はそれを(苦境からの)逃げ道と考えるかもしれない」(抄訳)
(Richard C. Paddock、Muktita Suhartono)©2020 The New York Times
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