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ヘビにもクリトリス 性的に刺激し誘惑?古いジェンダー観が阻んできた秘部の研究

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
茶色と黒のしま模様のヘビ
二股に分かれた「ヘミクリトリス」と呼ばれるクリトリスがある「デスアダー」のメス=Luke Allen via The New York Times/©The New York Times

ヘビの二股に分かれた舌を見たことがあるかもしれない。だが、それだけがクネクネ動く動物の二股に分かれた部分ではない。オスのヘビにはヘミペニス(半陰茎)と呼ばれる二股に分かれた性器があり、それはピンク色のサボテンに似ていて、トゲがあったりする。

ヘビ界だって、オスにとって必要なモノは、メスにとっても必要なのだ。

2022年12月、「英国王立協会紀要B」に掲載された論文で、科学者たちは初めて、メスのヘビの二股に分かれたクリトリスであるヘミクリトリス(半陰核)についての適切かつ科学的な記述を提示した。

この研究は生物学における長年の偏見に対する挑戦でもある。偏見は文化的な姿勢やこの研究分野における女性の不足に関連しており、それが多くの種におけるメスの性器に関する解剖学をひどく未開発の状態にしてきた。

今回の研究論文によると、ヘビには半陰核があるだけでなく、この器官には神経や勃起組織もあって生殖機能を果たしており、単なる退化した器官ではない。これに続く研究でヘビのクリトリスの機能が確認されれば、ヘビが仕方なしに交尾しているという仮定に異議を投げかける可能性がある。

オーストラリアのアデレード大学の博士候補で今回の研究論文筆者の一人であるメーガン・フォルウェルは「ヘビの交尾は無理やりではなく、性的に刺激し誘惑し合って行われているのかもしれないと考えられる」と指摘する。

「もしかしたら、オスはメスがもっと(交尾に)積極的になるような何かをしているのかもしれない」と言うのだ。

フォルウェルの半陰核研究は、ヘビの半陰茎についてはさまざまな形やサイズを記述した出版物が多数あるのに、メスの性器についてはほとんど言及されていないことに気づいて始まった。あらゆる哺乳類、あらゆるトカゲ、そして一部の鳥類に存在するクリトリスについても同じことが言える。彼女が見つけた数少ない論文でも、解剖学的な記述は欠落しているか、間違っていた。

調べてみるため、フォルウェルはメスのデスアダー(訳注=体形がマムシに似た毒ヘビ)の尻尾の解剖に取り組んだ。ヘビの性器を覆っている筋肉と結合組織を除去すると、半陰核が顔をのぞかせた。

フォルウェルが調べた結果をパトリシア・ブレナンに見せたら、ブレナンはあまりの衝撃に椅子から転げ落ちそうになったという。ブレナンは米マウント・ホリヨーク大学で性器形態学を研究しており、今回の論文の共同執筆者でもある。

当初の調査結果を確認し、さらに追究するため、研究者たちはさまざまな手法を使って四つの科に属する他の8種のヘビについて解剖学的な構造を調べた。そしてそれらを一つにまとめた分析で、ヘビの半陰核の真正性を確立した。

コネティカット大学の爬虫(はちゅう)両生類学者カート・シュエンクは「ヘビの半陰核については聞いたことがなかったが、それが存在し、機能しているという見立ては完全に理にかなっている」と語った。シュエンクは今回の研究に関与していない。

フォルウェルと論文の共同執筆者たちは、調べた計9種について、サイズと形がかなり違うケースに出くわした。たとえば、毒ヘビのカンティルバイパーの半陰核は最大で長さが1.2インチ(約3センチ)、幅が0.7インチ(約1.8センチ)あり、グアテマラ・ミルクヘビのは長さ0.1インチ(約0.25センチ)で幅が0.006インチ(約0.015センチ)だった。

「半陰核が機能していないとすれば、種によって(サイズや形が)異なるという進化上の理由がない」とブレナンは指摘する。

カリフォルニア大学バークリー校の進化形態学者マーバリー・ウェイクは、半陰核が機能しているという推論は合理的なようだが、「実験をして実証する必要がある」と付け加えた。ウェイクはこの研究にかかわっていない。

フォルウェルによると、この研究の次の段階では半陰核にある神経のタイプや位置について調べ、それから交尾中の半陰核の役割を特定することだと言っている。多くのヘビは、尻尾を巻きつけ合ったりこすり合ったりするなど、官能的な求愛行動をとる。

「この発見は、ヘビの交尾についての理解を大きく変える可能性がある」とブレナンは指摘し、「メスの解剖学的構造をほとんど無視してきたことでどれほど(実態を)見落としてきたかがわかる」と言っている。

トカゲなどのように、クリトリスの存在が疑問視されていない動物群でさえ、その機能の調査は文化的な姿勢によって妨げられてきた。

「ダーウィンは、性別としてのメスを内気で受動的な存在としてとらえていた」とマリン・アーキングは言う。スウェーデンのストックホルム大学の進化生物学者で、ジェンダー研究者でもある。今回の研究には関与していないが、「ビクトリア朝のジェンダー概念がダーウィンに影響を与え、以来、その概念は進化生物学につきまとってきた」と指摘した。

男性中心主義的な極端な例として、ブレナンによると、トカゲの半陰核に関するある研究はその機能が交尾中にオスを刺激することにある可能性を示唆しているという。

「メス側の状態を探求する研究者が増えてきた今では、そこに実際に何があるかをもっと詳しく知ることができるようになってきた」とアーキングは指摘する。

「一人ひとりの視点には限界があるが、今回の研究はより多くの視点を取り入れることでより完全な全体像を得られることを示している」と話していた。(抄訳)

(Alex Fox)Ⓒ2023 The New York Times

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