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洋上風力と「オール銚子」の力で、未来を変えていく

PR by 三菱商事 公開日:
(左から)黒田かおり氏、山㟢(やまざき)偉広氏、坂尾英彦氏、佐久間快枝氏、信太(しだ)孝之氏、花﨑亮氏。犬吠埼灯台を望む銚子市の犬吠埼ホテルにて

洋上風力発電プロジェクト③ 水揚げ量が11年連続で日本一となった銚子漁港を抱える千葉県銚子市。だが、銚子の魅力は漁業だけではない。クラフトビールの醸造や、特産であるキャベツの規格外品を使った商品開発など、若手起業家たちの活動が目立ってきた。さらには新たな再生可能エネルギーとして注目される洋上風力発電も沖合で始まろうとしている。このプロジェクトは銚子の魅力をどのように広げ、まちが抱える課題の解決にどう貢献するのか。銚子市と商工会議所、地場産業に関わる起業家、三菱商事グループ社員が銚子の未来について語り合った。

現代に物々交換? 銚子人の語る銚子の魅力

──銚子といえば「漁業の町」として知られていますが、ほかにも様々な魅力があると思います。銚子出身の皆さんが感じる地元の良さを教えてください。

山㟢 私は高校進学を機に銚子を一度離れ、社会人になって戻ってきました。銚子の魅力は、まず気候がよく住みやすいこと。冬は雪が降らないし、夏は風があって涼しい。我が家は子どもが生まれる前までエアコンもなかったほどです。海にすぐ遊びに行けるのも、子育ての環境としてはいいですね。

銚子の人は穏やかで、損得なしに人付き合いをする温かさがあります。知人からおすそ分けをもらうんですが、量がすごい。野菜なら1ケース丸ごととか、水揚げされたばかりのカツオを21本もらったこともあります(笑)。

銚子商工会議所の山㟢偉広氏

佐久間 分かります。私は子どもの頃、野菜や果物は「買うもの」でなく「もらうもの」だと思っていたくらいですから(笑)。銚子は「灯台キャベツ」をはじめ、大根、スイカ、いちご、メロンなどの一大生産地で農産品も豊富なんですよね。それから、日本一早く初日の出が見られる犬吠埼灯台があり、屏風ケ浦があり、人気の銚子電鉄も走っている。私も一度離れたことで改めて銚子の豊かさに気付きました。

チョウシ・チアーズCEOの佐久間快枝氏

坂尾 銚子の良さはやっぱり「人」だと思います。この土地で育った人ならではの人情というか、人と人とのつながりを大事にする文化があります。物々交換もその一つで、うちは農家なので、キャベツや大根、枝豆などをよく近所の漁師さんのところに持っていくんです。すると、ある日突然、玄関先にカツオやサバがドンと置いてある。名前も書かれていないので「多分、あの人からだな」と思ってありがたく食べたら、後日、別の人から「この前の、うまかったか?」って聞かれて「あ〜……」みたいなことも、たまにあります(笑)。

へねりーふぁーむ代表の坂尾英彦氏

人口は右肩下がり 町の課題も浮き彫りに 

──では逆に、銚子が抱えている課題はどんなことでしょう。

信太 やはり人口減少ですね。銚子は市制施行こそ千葉市に次ぐ県内2番目という歴史のある町ですが、昭和40(1965)年の9万人超をピークに人口はずっと右肩下がり。 いまは6万人を切っています。人口減少は町の活力の減退を引き起こしており、肌感覚でも働く場所は減りつつあります。特に若い世代の望む働き口が少なく、進学で東京に出た後、地元で働こうと思っても仕事がないから戻れない、という声も聞きます。市でも「銚子市しごと・ひと・まち創生総合戦略」を打ち出し、集中的な対策を講じているところです。

個人的には、銚子のゆったりとした雰囲気は好きなんですけどね。仕事などで都内に一日いたりすると「ああ、早く銚子に帰りたい」と思うほどです(笑)。

銚子市洋上風力推進室の信太孝之氏

山㟢 後継者不足も深刻になっています。事業をされている年配の方は、「自分の代で廃業すればいい、子どもは都会に出す」という考えの方も少なくありません。銚子に住んでいる人自身が、銚子の魅力や可能性に気づいていない、ともいえるかもしれません。

佐久間 私は高校卒業後にアメリカ留学をして以来、銚子を離れていたのですが、出産で里帰りする機会が増えると、商店街にシャッターの下りた店が多いことに驚きました。実家も飲食店を営んでいたのですが、宴会やお祝い事の利用が減って商売は徐々に縮小。4年前に廃業しました。実家を含めたそんな銚子の様子を目の当たりにし、「何とかしなければ」という気持ちが芽生えるようになりました。

「農業」で「ビール」で 銚子に新たな風が吹く

──坂尾さんは、キャベツやトウモロコシの農家として「へねりーふぁーむ」を運営されていますね。生鮮野菜の生産にとどまらない、様々な農業のあり方を模索するに至った経緯を教えてください。

坂尾 僕は農家の12代目ですが、農業をやりたくなかったんです。18歳で嫌々ながら就農した後、20歳のとき、家出同然で東京に出てクラブDJになりました。2年ほどで銚子に戻りましたが、従来の農業には魅力を感じなかった。

というのも、農業って、生産者と消費者とのつながりが見えにくいように感じたんです。ただ生産して出荷するだけ。消費者が「おいしかった」と食べてくれたとしても、僕らには見えないし言葉も届かない。このやり方を変えて、手塩にかけて作った野菜を消費者に直接届けられたら、農家として喜びを感じられるのではと考えました。

自宅裏にあるキャベツの苗床で。所有する畑は銚子市沿岸部に計12,000坪ある

そこで、オンライン販売や消費者への直接販売で野菜を売る仕組みを作りました。さらに、農業の大変さも楽しさも味わえる「農業体験」を始めました。
「農業体験」で人が訪れるようになると、今度は泊まる場所や食べる場所も必要です。野菜を買ってくれた人が、銚子で遊ぶ、農業体験をする、食べる、泊まる、お土産を買うなどすれば、地域全体が潤います。人と人がつながるきっかけになる農業、人が自然に集う面白い農業。僕はそういう農業をやっていきたいと思っています。

──佐久間さんは、クラフトビールのブランド「銚子ビール」を立ち上げたと伺っています。

佐久間 廃れたシャッター街を見て考えたのは、「銚子が誇れる」「外から人を呼べる」コンテンツが必要だということでした。そして思い出したのが、アメリカで訪れたクラフトビールの工場のこと。そこは飲食が楽しめるだけでなく、子どもが遊べるコーナーがあったり、キャンピンググッズが売られていたりと、老若男女が集まるテーマパークのような場所でした。

何より、住民が地元のクラフトビールを誇りに思っているところがすごくいいなと思いました。クラフトビールは今後、日本でも人気が出る確信がありましたし、作る際に使用する副原料を選ぶ自由度が高く、色々なペアリングを楽しめるところにも可能性を感じました。

犬吠埼灯台そばにある銚子ビールの醸造所&タップルーム(工場内バー)の前で

レシピ作り、試作、醸造所探しと奔走し、2017年6月に完成したのが、銚子の魚に合うご当地ビール「銚子エール」です。2020年には、犬吠埼灯台そばの「犬吠テラステラス」内に念願の醸造所も完成しました。

銚子電鉄を貸し切りにした「銚子ビール列車」企画をしたり、去年は「CHOSHI GOOD BEER GARDEN」を開催したりと、色々なイベントも仕掛けています。ビールの人をつなげる力ってすごい!と改めて思いますし、地域の様々な魅力を掛け算することが大事だと実感しています。最近は、若い人から「銚子ビールで働きたい」と問い合わせをもらうことも増えてきました。

銚子ビールは、「100年続くブランド」になることを目標にしています。銚子のような小さな町にいても世界にチャレンジできるし、世界に貢献できることがあります。先日はイギリスの国際ビールコンテストで、うちの醸造士が作ったビールが金賞を受賞しました。また、銚子ビールでは、世界の貧困問題解消に少しでも寄与できたらと、原材料のハーブをラオスの無農薬農家からフェアトレードで仕入れています。まだまだこれからですが、100年後も「地域が誇れるブランド」になれたらと思っています。

洋上風力発電 地域への経済効果は

──そんな銚子の町に、どうして洋上風力発電を誘致することになったのでしょうか。

信太 まず、洋上風力はどこでもできるわけではありません。海があること、風が安定的に強く吹くこと、そして今回の事業のように着床式の場合は遠浅(とおあさ:岸から遠い沖の方まで水深が浅く続いていること)の海があることも条件となります。銚子市は実証実験を経て、適した場所であると認められました。

そして先ほど話が出ていたように、人口減少で街の活力が急激に失われていく中、洋上風力を導入することが、銚子市の“浮上”のきっかけになればということで、市も積極的な誘致を進めてきました。

──具体的には、どのような効果があると考えられますか。

信太 洋上風力発電事業は、構成物資点数が数万点といわれるほど、非常に裾野の広い産業です。ですから、関連産業において地元企業の参画や若い人の雇用創出につながればと期待しています。

山㟢 商工会議所でも地元の企業が少しでも多く受注できるよう、全面的にバックアップしていきたいと思っています。

信太 それから、洋上風力には保守・メンテナンスが欠かせません。銚子市漁協と銚子商工会議所、銚子市は共同で、メンテナンス事業を行う会社「銚子協同事業オフショアウインドサービス」(通称C-COWS、シーコース)を設立しました。ノウハウや知見を地元に蓄積し、銚子の「地場の産業」として育てていきたいですし、「オール銚子」の体制で洋上風力に関わる我々の姿勢を、住民の皆さまにもご理解いただけたらと思っています。

山㟢 いま、洋上風力を検討中の自治体や商工会議所の方が全国から視察に来られています。その受け入れはもちろん、将来的には修学旅行や企業研修などにも発展させていきたいと考えています。

──三菱商事グループは本プロジェクトを展開する企業の1社ですが、洋上風力発電を通してどんな貢献をしていきたいと考えていますか。

三菱商事洋上風力株式会社の花﨑亮氏

花﨑 日本で再生可能エネルギーを主力電源化していくために、洋上風力発電の存在は不可欠です。ですから、本事業を通じた電力の安定供給は非常に重要です。三菱商事グループは欧州で洋上風力事業を10年にわたって展開してきましたから、その経験を銚子にしっかりと生かしていければと思います。

それと同時に、洋上風力のメンテナンス事業をこの地域に根付かせること、さらに、食品や観光といった洋上風力と一見関係のない分野においても、地域の活性化に貢献することを目指します。総合商社ならではの多種多様な業界との関わりを活用し、銚子の皆さんと一緒に成長していければと思っています。

商社が伴走 広がる銚子の可能性

──坂尾さんや佐久間さんは、銚子にやってくる洋上風力事業にどのような可能性を感じていますか?

坂尾 農家の長年の課題の一つに、「規格外」とされて市場に出せず廃棄してしまう野菜の存在があります。そんな規格外キャベツを材料に、餃子(ぎょうざ)製造会社と組んで売り出したのが「アフロきゃべつ餃子」です。アフロというのはアフロへアーの僕の髪形から名付けました。洋上風力事業を通じて三菱商事やローソンと話す機会が出来て、この販売強化にあたって、手厚くサポートしていただき、銚子市内のローソンでも取り扱っていただいています。今後もどんどん新しい取り組みが生まれればと思っています。

三菱商事グループであるローソンの銚子市内の一部店舗で販売中の「アフロきゃべつ餃子」

花﨑 銚子市内ローソンの皆さんが、坂尾さんの取り組みに共感し、売り出し方なども一緒にアイデアを出してくれたんです。ローソンで商品を目にしたことがきっかけで、坂尾さんや銚子ビールに興味を持つ地元の方も増えているというお話を聞き、予想していなかったうれしい効果も生まれています。

佐久間 私たちも、銚子ビールを地域のローソンに置いていただいていることは、販路の拡大という点で本当にありがたいですし、今後、醸造所を拡張したり海外に向けて発信していったりする際には、ぜひアドバイスをいただけたらと思っています。

ローソンの銚子市内の一部店舗で販売中の「銚子ビール」

太平洋側初の洋上風力の完成後、成田空港からほど近い銚子の町の価値は、個人的にとても高まると思っています。環境に関するサミットの開催地や、再エネやSDGsに関する集いの場になれるのではと楽しみにしています。世界中から集まった人が、ここで銚子の野菜や魚やビールに出会えば、「銚子っていい所だな」と思ってもらえるはず。洋上風力の事業が始まるからこそ思い描ける、大きな夢ですね。

黒田 皆様からの期待度の高さに、あらためて背筋が伸びる思いがします。サミットのアイデアのように、こちら側が新たな発想に気付かされることも本当に多いです。これからも、私たちにできることをグループ会社を含めて検討し、地道に実行に移していきたいと思います。初めてのプロジェクトですから手探りの部分もありますが、銚子の皆さまに「一緒にやってこられてよかった」と思っていただけるよう努力したいです。

三菱商事洋上風力株式会社の黒田かおり氏

──銚子では、地域の人材育成にも力を入れているそうですね。

花﨑 地域の課題解決に向き合ってみて、改めてやはり地域を牽引していく「人」の存在が最重要だと考えるようになりました。一方で、三菱商事に何ができるのか思案していたところ、洋上風力事業における協力企業であるキリンホールディングスさんが出資している地域プロデュースを生業とし、リーダー育成プログラムも展開しているInter Local Partners社を紹介していただきました。そして、「銚子ローカルリーダーズスクール」として実証的にビジネススクールを開催したところ参加した皆様に大変喜んでいただけて、その後「継続してほしい」「漁業関係者向けにも開催してほしい」などの声をいただくまでになりました。

佐久間 私や坂尾さんはその1期生のような形で、20人ほどの仲間と一緒に「リーダーズスクール」で学びました。地域で頑張っている事業者や、将来、起業したいと思っている人たちが集まって、これからの銚子について考えたり、成功事例の地域にフィールドワークに行ったり。「銚子でできることはもっとある」と皆で思いを共有できたことは、いまにつながっていると思っています。

花﨑 銚子に来てまもなく2年、この町の課題や可能性についてようやく理解が深まってきた実感があります。私たちは「地域の課題やニーズをビジネスの力で解決したい」と思っていますので、今後も我々を大いに活用していただいて、地域の皆さまと互いにWin-Winな関係を作っていきたい。それが目指すべき「持続可能な地域との共生」のあり方だと思っています。

次の世代の人が、もっと誇れる町であるように

──最後に、銚子への思いと、目指したい未来像をお聞かせください。

山㟢 若い頃の私は「都会にあって銚子にないもの」に目が行きがちでしたが、いまはどこへ行っても「銚子出身です」と堂々とアピールしています。この先、子どもや孫の世代が「風車がある町だよ」と自慢できる町でありたいし、そのために少しでも力になれたらと思います。

坂尾 僕がなぜ農業をやっているのかといえば、それは「次世代に誇れる銚子」にしたいからです。そのためには、まず自分が誇れる仕事をすること、子どもたちに受け継いでほしいと思える仕事をすることが大事だと思っています。それが広がって、いずれ銚子にいる誰もが「銚子はいい町だよ!」「すごく盛り上がってるよ!」と言える、そんな町になっていってほしいと思います。

佐久間 先日、中学生向けの職業体験の機会があり、「銚子は色々な日本一がある、すごい町なんだよ」「諦めずにやれば、いつかたどりつけるから、チャレンジすることを忘れないでほしい」と伝えました。洋上風力をきっかけに、銚子にもっと「未来志向」の子どもや住民が増えてほしいし、少し先の未来のことや、地球社会全体のことも考えられるようになってほしい。そのことが、銚子を誇りに思うことにもつながっていくと思っています。私の会社はまだ小さな会社ですが、そんな町づくりの一端を担えるよう、これからも頑張っていきます。

信太 銚子市は「漁業の町」であると同時に「風の町」でもあるんです。実は銚子には陸上風車もすでに34基設置されており、これは千葉県の陸上風車の約70%が集中している計算になります。ここに洋上風力が加わるわけですから、「再エネの街・銚子」としてさらなる活性化につなげていきたいですね。そのために、銚子市が設立した自治体新電力「銚子電力株式会社」も最大限活用し、再エネの地産地消の取り組みも一層進めていきたいと思っています。

黒田 洋上風力によって、銚子のメディア露出も増えると思うので、そこで興味を持ってもらい、銚子に足を運んでくれる方が増えればと思います。そしておいしい野菜や魚、ビールなどを楽しんでいただいて、より銚子を好きになってもらえるよう、今後も様々な取り組みを考えていきたいと思っています。

花﨑 「銚子がなんかすごいことになってるぞ」と国内外から注目されるくらい、洋上風力による地域創生という点で、世界の最先端になることが夢です。そのために、ここ銚子の地で、皆さまとともにチャレンジを続けていきたいと思っています。

*この取材は、感染症対策に十分留意し実施しました。マスクは撮影時のみ外しています。