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サーモンの陸上養殖は、EX・DXで進化する

PR by 三菱商事 公開日:
(左から)アトランドの丸山赳司氏、御手洗誠氏、入善町の田中良一氏、マルハニチロの春日尚久氏、三菱商事の森本健吾氏

「水」の豊かな恵みあふれる、富山県入善町

──今日は、サーモン陸上養殖施設が建設される富山県入善町にお邪魔しています。まず、入善町がどんな地域なのか教えてください。

田中 富山県北東部に位置する入善町は、日本海に面しており、黒部川が作り出した広大な扇状地にあります。かつては黒部川の氾濫(はんらん)にたびたび苦しめられてきましたが、治水工事や山の赤土を水田に送り込む「流水客土」事業によって、いまや全国に誇れる水田地帯となりました。入善町で育てたお米を黒部川の湧き水で炊いたごはんは、本当においしいですよ。

2001年からは、日本で最も水深が深い湾の一つである富山湾から海洋深層水の取水を開始しました。この海洋深層水は、飲料水や食品、化粧品などの製品に使われるほか、カキの蓄養・浄化やアワビの養殖、さらにパックごはんの製造などでも活用されています。

入善町は、先人の努力によって水を「恵み」へと変えてきた地域であり、いまもこうして新たな恵みが私たちに潤いを与えてくれているのです。

入善町役場の田中良一氏

よりおいしく、より上質なサーモンを目指して

──そんな入善町で2025年から陸上養殖事業が始まるわけですね。サーモンをはじめとする養殖業は、いまどのような状況にあるのでしょうか。

春日 世界の水産物の水揚げ量は、1990年代から「天然」の漁獲量が横ばいの状態が続いている一方、「養殖」の生産量は伸びています。事業概要のご説明(Vol.1参照)でも申し上げた通り、世界的なサーモン需要の高まりに伴い、養殖サーモンの生産量もノルウェーやチリを中心に増えています。

ただし、いま主流の「海面養殖」の場合、海流や水温の変化、赤潮や台風の発生、ウイルスや寄生虫等による病害の影響といった外部要因に、ある程度左右されてしまうという一面があります。

それに対して「陸上養殖」の場合、水の温度や塩分濃度、さらに魚の成長を良くする光の波長調整などに至るまですべての環境を人工的に制御し、「サーモンの理想的な育成環境」を人為的に作り出すことができるため、安定した生産が可能になります。加えて近い将来、海で育てるよりもおいしくて栄養価が高く、成長が早く、そして、より環境負荷の低い養殖を陸上で実現することを目指しています。

マルハニチロの春日尚久氏

マルハニチロは、漁業や養殖、水産物の輸出入や加工などを中心に143年にわたる歴史があり、おいしく安全・安心な水産物を持続的に届けることを社会への責務としてきました。この長年の蓄積から得られた様々な知見は、アトランドのサーモン陸上養殖事業にも生かせると思っています。

「グリーン」な陸上養殖 EXで実現 

──今回の陸上養殖を「グリーン」な養殖事業と打ち出していますね。どういうことでしょう。

森本 三菱商事が掲げるEX(エネルギー・トランスフォーメーション)にもつながる部分ですが、主に3点あります。

第一に、養殖サーモンはこれまで、ノルウェーやチリなど遠隔地にある生産拠点から船や航空機を使って輸入しています。それを日本国内で作る、いわば「地産地消」を推進することで、「カーボンフットプリント」(※)を削減できます。

第二に、アトランドでは、富山湾の海洋深層水を使って養殖水を低温に保つことで、電力使用量を減らすことができます。

そして第三に、アトランドで使う電力については、可能な限り再生可能エネルギーを活用することも目指しています。

(※)カーボンフットプリント=商品・サービスのライフサイクル全体(原材料調達から廃棄・リサイクルまで)で排出された「温室効果ガス」の量をCO₂に換算して表したもの

海洋深層水の取水施設のイメージ図。下が既設の取水管、上が2024年に新設される2本目の取水管=入善町提供

──海洋深層水は先ほど田中さんから説明がありました。この事業にとって非常に価値のあるものなんですね。

丸山 その通りです。黒部川扇状地の伏流水に加えて、この富山湾の海洋深層水の存在にひかれ入善町で事業を進めさせていただくことになりました。富山湾の水深384メートルからくみ上げた海洋深層水は、年間を通じて約3℃と非常に冷たい水です。

陸上養殖は、様々な工程で淡水と海水を必要としますが、特に安定して低温が保たれている海洋深層水は、代謝熱や機械熱などで上昇してしまう水温を冷やすのに重要な役割を果たします。通常の陸上養殖では大量の電力を消費しますが、海洋深層水を使うことで電力消費量を大幅に削減することができ、環境にも優しくランニングコストも抑えることができるのです。

アトランドの丸山赳司氏

田中 入善町の海洋深層水は、一次利用、二次利用というように、多段活用をしていることもポイントです。

まず、取水された3℃の水がパックごはん工場の冷却媒体として使われ、そこで10〜13℃に温まった水が、今度はカキの浄化やスジアオノリ、サクラマスの養殖実験に使われています。ここに新たにアトランドの養殖施設が加わることで、さらなる有効活用が進むというわけです。

DXの実装が、陸上養殖を「スマート」に

──最先端の技術を使った「スマート」な養殖事業であることも特徴ですね。

御手洗 陸上養殖施設といってもイメージがわきにくいかもしれませんが、多くのプロセスが自動化されている、工場のような空間です。

というのも、先ほど春日が話したように、アトランドの陸上養殖においては、水の温度や塩分濃度、酸素濃度、pH値、光の波長、餌の量など、あらゆる環境が自動でコントロールされるからです。人が飼育槽に行って餌をやるといったことは基本なく、スタッフはコントロール室にいてモニターをチェックする役割になります。

こういう話をすると、「生き物なのに人の手をかけないなんて」と思われる方もいるかもしれませんが、魚にとっては人間が近くにいること自体がストレスですから(笑)、実は陸上養殖の方が魚にとって“やさしい”生育環境ともいえるのです。

アトランドの御手洗誠氏

森本 DX(デジタル・トランスフォーメーション)によって生育環境をコントロールすることは、生産効率の飛躍的な向上をもたらすはずです。病気の予防はもちろん、魚の成長曲線と実際の成長度合いに応じて水温や餌を微調整するなど、蓄積されたデータに基づいた細やかな対応ができるからです。

春日 そうですね。とはいえ、データをどう分析するか、あるいは予想外の事態にどう対処するかといった部分では、マルハニチロの社員が身につけてきた知識や判断力、対応力が大いに貢献できると思っています。

入善の地から「養殖3.0」を世界へ

──三菱商事は「中期経営計画2024」において、「EXとDXの一体推進を通じた地域創生」を掲げていますよね。今度のサーモン陸上養殖事業もその文脈上にあると捉えていいでしょうか。

森本 その通りです。この事業は、陸上養殖にDXを実装することで環境負荷を最小限にしつつ、安定して生産を行い、入善町の持続的な発展につなげていくことを目指しています。まさに、EXとDXの推進による地域創生を体現しうる事業であると思っています。

三菱商事の森本健吾氏

春日 日本の養殖技術は、30〜40年前まで世界の最先端を走っていました。日本の私たちが海外の国々に技術を紹介していたのですから。ところがその後、ノルウェーやチリは、IoTを活用した技術革新により養殖業界を席巻しました。

日本を「養殖1.0」とすると、いま世界の養殖業をリードするノルウェーとチリは「養殖2.0」といったところでしょうか。

ただし、今回のアトランドの陸上養殖事業は、それを覆しうるイノベーティブな事業です。海面養殖の地理的な制約を乗り越えることで地産地消につなげる。さらに、入善町の自然の恵みを活用することで環境負荷を抑えられる。これは、「入善モデル」ともいうべき、革新的な養殖のかたちだと思っています。

私たちが目指しているのは、世界の誰も到達していない「養殖3.0」です。それをここ入善町で成功させ、世界に発信していこうという意気込みで取り組んでいます。

*[Vol.3]では、座談会の後編をお送りします。
*この取材は、感染症対策に十分留意し実施しました。マスクは撮影時のみ外しています。