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ネコはなぜマタタビに興奮するのか、謎の行動を岩手大の研究者が解明 その意外な理由

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実験室で、マタタビの葉に体をこすりつけるネコ。キャットニップとマタタビは密接な関係にはないが、ネコ科の動物に似たような反応をさせる
実験室で、マタタビの葉に体をこすりつけるネコ。キャットニップとマタタビは密接な関係にはないが、ネコ科の動物に似たような反応をさせる=岩手大学・宮崎雅雄教授提供、The New York Times/©The New York Times

ネコという生き物は、ネコについて最もよく知っている人にとってさえ、しばしばナゾの存在である。

なぜそんなに眠るのか? あなたの注目をたっぷり浴びたがっていたかと思ったら、なぜ次にはまるで違ってしまうのか?

遠く離れた場所に何年も取り残されていたのに、どうやって元いた家に戻る道を見つけられるのか?

小説やエッセーにネコを登場させることで知られる作家の村上春樹は、なぜそうするのかわからないと告白したことがある。「なんとなく自然と入り込んでくる」のがネコなのだと彼は言っている。

もう一つのナゾは、どうしてネコはキャットニップ(訳注=シソ科の多年草、和名:イヌハッカ)が好きかということ。

ミント系のこの植物があると、飼いネコのほとんどがそれをなめたり、こすったり、しゃぶったり、転げ回ったりする。多幸感にあふれ、気分が高ぶるのだ。

他の植物、とりわけマタタビ(訳注=マタタビ科)にも夢中になる。マタタビは、キャットニップと密接なつながりはないが、ジャガーやトラのような大型猫を含むネコ科の動物も同じように反応する。

この行動は、長年にわたるネコについてのナゾの一つにすぎなかった。

しかし、2022年6月14日の科学誌「iScience」に掲載された新しい研究は、キャットニップやマタタビに対する反応について、そうした植物が含む高揚感を誘発する化学物質イリドイドの防虫効果から説明できる可能性があることを示唆している。

岩手大学の動物行動科学者の宮崎雅雄が率いる研究者たちは、植物が放出するイリドイドの量はネコがその植物を傷つけると2000%以上も増えることを突き止めた。

したがって、ニャンコのハイな気分はおそらく、吸血昆虫を寄せ付けないように進化した成果かもしれない。

ネコを抱く宮崎雅雄教授
ネコを抱く宮崎雅雄教授=岩手大提供

(米メーン州)ユニティ・カレッジのネコ行動の専門学者クリスティン・ビターレは、今回の研究にはかかわっていないが、この研究がこれまでの有力な研究に基づいていることに注目する。

岩手大学の宮崎研究室が昨年発表した研究で、ネコはDEET(除虫剤)のようなイリドイドの上を転がるか、立ち上がって頰をこすりつけるかして、この化学物質で体を覆うことに懸命になることがわかった。

「これは、ネコが化合物を体になすりつけることで効果を得ている可能性を示す」とビターレは指摘する。

ペンシルベニア大学の動物行動学者カルロ・シラクーサも、この研究には関与していないが、同じ見解だ。「エビデンス(科学的な証拠)は、ネコが自分の体に匂いをしみこませたいと望んでいることを示している」と言っている。

しかし、彼は以下のように付け加えた。

「かなりの数のネコはこの行動を示さないことにも注意する必要がある。とすれば、なぜそうなのか?」

虫よけのイリドイドは、ネコの虫刺され回避に役立つ以上に、おそらく草食性の昆虫からも植物を防護する助けになっている。

植物は傷がつくとしばしば刺激物を放出するが、それには攻撃的な存在を追い払う役割があり、周辺に危険を伝える他の化学物質も放つのだ。

「植物は化学戦争の達人だ」とマルコ・ガリオは言う。米ノースウェスタン大学の神経生物学者で、今回の研究には関与していない。

ガリオと彼の同僚は昨年、キャットニップに含まれる主な防虫物質であるネペタラクトンと蚊や近縁関係にある昆虫に刺激を引き起こす受容体のタンパク質とを関連付けるリポートを発表した。

その受容体はヒトにもネコにも存在し、催涙ガスによって誘発される可能性がある。

しかし、ガリオは以下のことを突き止めた。ネペタラクトンはヒトには悪影響を及ぼさず、ネコ科の動物にエクスタシーの痙攣(けいれん)をもたらす。

そして、多くの昆虫の場合はTRPA1と呼ばれるこの特定の受容体を活性化させる。お気に入りの周りで転げまわるのはネコにとって余禄なのだ。

宮崎と彼の同僚は、今回の研究で、キャットニップとマタタビの葉――無傷の葉と傷をつけた葉の両方――の直上に漂う空気の化学組成を測定した。

次に、葉っぱのイリドイドのレベルを測った。ネコが傷つけたキャットニップの葉は無傷の葉よりも少なくとも20倍のネペタラクトンを放出し、傷ついたマタタビの葉は無傷の葉と比べて少なくとも8倍の似たようなイリドイドを放出したことを突き止めた。

ネコとマタタビとの相互作用は、植物の虫よけ効果がある成分を変化させて、より強力にするのだ。

ネコはこれらの植物に顔や体をこすりつけると、防虫成分の強力な層で覆われるのだ。

この発見は、宮崎と彼のチームによる以前の研究とともに、子猫がキャットニップに夢中になるのは、少なくとも一部に蚊やハエを寄せ付けない効果があるからだとする初期の主張を裏付けている。

「self-anointing(自ら聖油を塗る)」と呼ばれるこうした行動は、動物界で初めて判明したわけではない。

メキシコ・スパイダーモンキー(クモザル)はおそらく社会的あるいは性的な目的でさまざまな種類の葉を自分の体にこすりつけるし、ハリネズミはしばしば毒素を背骨にこすりつけることが知られている。

しかし、多くの疑問がまだ残っている。なぜネコ科の動物だけがキャットニップやマタタビに多幸感を示すのか、なぜネコ科の一部の動物だけなのかといった疑問だ。

ガリオは、今回の新研究に熱い視線を向けながらも、慎重なアプローチを提案する。「私がわかっているのは……」と切り出し、「進化の現場を目撃したわけではないということ」と続けた。(抄訳)

(Oliver Whang)ⓒ 2022 The New York Times

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