イヌは人間の親友だ。社交的で、忠実で、従順である。一方、人間とネコとの関係は、しばしばより取引型として説明される。よそよそしく、神秘的で、独立心の強いネコは、私たちヒトが餌をやるから私たちと一緒にいるのだ。
あるいは、そうではないかもしれない。研究者たちは9月23日、ネコはイヌや幼児と同じように私たちと固く結びついていると報告、各地のネコ好きたちの疑念を晴らした。
「私は『そのことに気づいていた。ネコは私と触れ合うのが好きだということを知っていた』といった声をたくさん聞いている」と米オレゴン州立大学の動物行動科学者クリスティン・ビタールは言う。米科学誌「カレントバイオロジー(Current Biology=最新生物学)」に掲載された今回の新しい研究の筆頭著者であるビタールはこう続けた。「しかし科学でそのことを試してみるまでは分からないのだ」
ネコの行動に関する研究はイヌについての研究より遅れていた。ネコは社交的ではないと多くの科学者は考えていたし、ネコを使った研究はそう簡単でない。だが最近は、ネコの社会生活の深さを探る研究が始まっている。
「ネコは実際にはヒトのことを気にかけないとか、ヒトに反応しないといった考え方は、持ちこたえられない」とビタールは言っている。
ビタールと彼女の同僚は2017年の研究で、ネコの多くは、食べたりオモチャで遊んだりすることよりもヒトとの触れ合いを好むことを発見した。19年の研究では、ネコはヒトがどれだけ自分に注意を払ってくれるかに応じて振る舞い方を調節していることを突きとめた。
別の研究者たちは、ネコは人間の感情や気分に敏感で、自分の名前を知っていることを発見した。
しかしながら、ネコが飼い主への愛着を形成するかどうかについては、研究者たちは矛盾する結論を得たため、ビタールたちは仮説をより明示的にテストする研究を企画した。
イヌや霊長類がそれぞれの世話人との間で形成する絆の測定には一般的に「セキュアベース・テスト(secure base test)」という実験が使われているが、研究者たちはこの実験に参加してくれる79匹の子ネコと38匹のネコの飼い主たちを募った。
これと似たテストは人間の幼児の実験にも使われる。幼児は世話をしてくれる人と生来の絆を形成し、それはその人の近くにいたいという強い欲求として表明されるとの理論に基づくテストだ。
実験は6分間で、まず飼い主たちがそれぞれネコや子ネコと一緒になじみのない部屋に入る。2分後、飼い主たちは部屋を出て、ネコや子ネコだけが部屋に残される。これは、動物たちにとってストレスがかかる可能性のある経験である。そして2分後に飼い主たちが部屋に戻るのだが、研究者たちはその時のネコたちの反応を観察する。
ネコや子ネコの約3分の2が飼い主のもとにあいさつに来て、その後また部屋の中を探索し、周期的に飼い主の方に戻って来た。こうしたネコたちはそれぞれの飼い主としっかり結びついており、なじみのない状況下においてネコたちが飼い主を安全な基地とみなしていることを意味する。研究者たちは、そう結論づけた。
「これは、幼いころに両親との間で結んだ絆への順応かもしれない」とビタール。この行動が意味することの可能性について、彼女はこう付け加える。「すべて大丈夫だ。飼い主が戻ってきてくれ、なだめてくれ、安心を得られた。(だから)今また探索に戻れる」
ネコと子ネコの約35%は、結びつきの不安定さを見せた。部屋に戻ってきた飼い主を避けるか、しがみつくかした。だからと言って、それは飼い主との関係が悪いという意味ではない。ビタールによると、そうしたネコたちは飼い主のことを安心や緊張緩和の源とはみなしていないのだ。
この研究結果は、イヌや人間の子どもについての研究の結果を反映している。人間の場合、幼児の65%が世話をしてくれる人に対して安定した愛着を示し、イヌは58%がそれを示す。
「この結果は、人間と愛玩動物の社会性の類似を示唆している」と上智大学の行動科学者、齋藤慈子(さいとうあつこ)(訳注=総合人間科学部心理学科准教授)は指摘する。彼女はこの研究には関係していないが、「この現象の研究は私たち人間を含む動物の社会性の進化についての理解を深めることに役立つだろう」と言っている。
最初のテストの後、研究者たちは研究対象にした子ネコの半数を訓練し社会化するコースに入れた。残りの半数は(比較するための)制御グループとして使った。
各週1回ずつ計6週間にわたり、子ネコ同士で遊ばせ、お座りや、そのままじっとしていたり芸をしたりする訓練をほどこした。このコースの修了後、研究者たちは子ネコを相手にセキュアベース・テストを繰り返した。
この実験でも同じ結果が得られた。つまり、訓練をほどこされた子ネコでも、飼い主に対する態度には影響がなかったのだ。ネコはひとたび絆を形成すると、それは長期間、安定して維持されるらしい。そうビタールは言う。
幼児やイヌと同様、ネコについて、研究者たちは、その飼い主との関係を形成する要因のすべてを理解しているわけではないが、それは遺伝子や性格、経験の複雑な組み合わせによるものらしい。
カリフォルニア大学デービス校の動物行動科学者ミケル・デルガドによると、今回の新研究が示した以上に多くのネコが飼い主と安定した絆を結んでいる可能性がある。彼女は今回の研究には関係していない。
彼女が言うには、イヌや幼児とは違って、多くのネコはほとんどの時間を屋内で過ごすので、目新しい環境に置かれることは異質で怖い体験になり得る。従って、ネコによっては緊張を強いられる状況に対するおびえた反応が飼い主との安定した絆よりも優先される可能性がある。このため、研究結果は一部のネコについては必ずしもその愛着をとらえきれないかもしれない。
飼い主だけではなく、見知らぬ人に対するネコの反応を調べることで、ネコが特定のヒトと絆を結んでいるのか、あるいは人間一般に対して社交的なのかが分かるかもしれない。そうデルガドは言い添えた。
ビタールたちは、ネコと人間との関係をさらに深く突きとめ、特定の介入が保護施設にいるネコが絆を早めに形成することを助け、より安定感を抱き、より早く誰かにもらわれることに役立たないか、調べる計画を練っている。
「ネコについてもっと知れば、ネコが社会的な生き物で、社会的な絆がネコにとって本当に重要であることがもっと分かるだろう」。そうビタールは言っている。(抄訳)
(Rachel Nuwer)©2019 The New York Times
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