斎藤さんによると、差別のメカニズムの根底には、生物の自己保存本能がある。長い進化の過程で、自身を襲う敵(捕食者)から逃れるために目や耳といった感覚器官を発達させてきた。その結果、脳神経系をそなえた脊椎動物は、敵だけでなく仲間内でも、感覚器官をフル稼働させながら、ほんの小さな「違い」を常に探すようになったという。
違いを見分けると、どちらが好き・嫌いという感情が必ず伴う。だから、「区別」と「差別」との間には、決定的な違いはないという。「脳神経系が発達すれば差別が出てくるのは当然のことで、避けようがない」。
犬や猫も感覚器官を使い、「差別」しながら子孫を残す相手を選ぶ。人間の場合、肌の色の違いによる人種差別など歴史的、文化的な刷り込みによって増幅される部分もあるが、本能に比べれば、「程度の違いに過ぎない」とみている。
ただ、「差別はなくせない」とする一方で、「低下させることはできる」とも考えている。国籍による差別をなるべくなくすよう行動したり、男女差別につながる言葉を換えたり。「なくならないからこそ、少しずつ減らしていくことが重要だ」と強調する。
これに対し、京都大学前総長の山極壽一さんは「違いを否定するのではなく、尊重し、人のつながりをつくることが求められている」と訴える。10月に開かれた差別に関する日本学術会議のオンラインシンポジウムで発言した。
山極さんはゴリラ研究の第一人者として知られる。ゴリラはいったん所属する集団を離れると、戻ることはできないという。これに対し、人間はいくつかの集団を渡り歩いた後、再び元の集団に所属することも可能だ。「だからこそ、いろいろなつながりの中で、助け合いながら生きていくことができている」という。
ただ、集団で生きるにはアイデンティティーをつくる必要がある。それが信頼をつくることになる半面、その信頼が弱ってくると、「外部に敵をつくり出して、自分たちの集団のつながりを強化することが起きる」と指摘する。
例えば、政治家が国の外に大きな脅威があると訴えて、国民に団結を求めることがしばしば起こる。「ずっと歴史上、政治家たちがやってきた。根本的な解決にはならない」と懸念する。
最近はインターネット上でフェイクニュースが拡散され、SNSでの誹謗(ひぼう)中傷も大きな問題となっている。「そういうことをなるべく排除し、正確で、科学的な情報を根拠としながらつながりあっていく世の中をつくらないといけない」と呼びかけた。(中村靖三郎、藤崎麻里)
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