1. HOME
  2. World Now
  3. ジョージア大使が絶賛の水色ワイン「ケサネ」を実飲 誕生の背景に「脱ロシア」?

ジョージア大使が絶賛の水色ワイン「ケサネ」を実飲 誕生の背景に「脱ロシア」?

World Now
ジョージア大使のティムラズ・レジャバ氏も絶賛するワイン「ケサネ」=2021年6月、東京のジョージア大使館、関根和弘撮影
ジョージア大使のティムラズ・レジャバ氏も絶賛するワイン「ケサネ」=2021年6月、東京のジョージア大使館、関根和弘撮影

「水色は、天然の色素を使っています。8千年の歴史を持つ、最古のワインの国だからこそ生み出せた色だと思っています」

レジャバ大使はそう胸を張ってケサネのボトルを見せてくれた。2021年、ジョージアの代表料理シュクメルリについてインタビュー取材した時のことだ。

ケサネとはジョージア語で「ワスレナグサ」の意味だという。水色の可憐な花を咲かせるこの植物から命名したのはぴったりだ。透明感のある水色からは、それがワインだとはとても想像できない。

「甘さが特徴的で、氷を入れるなどして、夏場にお勧めしたいですね」。大使のそんな言葉に、がぜん興味を持った私は早速、ネットで注文することにした。

ジョージアから輸入することもあって、かなり時間がかかったがようやくこのほど、手元に届いた。

それにしてもこの鮮やかな水色はどのように着色しているのだろうか。口に含むと甘さがスーッと広がり、水のように消えていく。最後はキュッと収れん感のある苦味で締め、あと口は残らない。蜂蜜やリンゴ、桃のような果物の甘い香りが感じられる。

大使によると、ジョージアを代表する白ワインの品種「ルカツィテリ」に、赤ブドウに含まれる水色の色素で着色するらしいが、「非常に特殊な製法で、詳しくは秘密だそうです」(レジャバ大使)とのことだった。

ケサネを紹介するティムラズ・レジャバ氏のツイート

ケサネを輸入・販売する会社「Shizuku Japan」(山口県)の原田康嗣社長は次のように話す。

「人工着色では出ない色ですよね。ケサネのような水色は見たことがないです。ブドウの皮由来の成分の青色であの色ができたということは、科学の進歩でしょう。香りも独特ですが、これも自然のものです」

水色が特徴のジョージアワイン「ケサネ」=ジョージ・グレイワイナリーの公式YouTubeチャンネルより

生産業者「ジョージ・グレイワイナリー」(ジョージア・ムツヘタ)によると、水色は当初、黒ブドウの花から抽出される色素を使って着色していたが、現在は花ではなく皮から抽出した色素を使っているという。発売1年で技術も変化しているのだ。

そして、ケサネのもう一つの特徴は、その甘さだ。実はジョージアのワインと言えば甘口は定番で、キンズマラウリなど半甘口ワインの人気商品がたくさんある。

神秘的なこのワインについて、ジョージ・グレイワイナリーのジョージ・ルハジェ(George Rukhadze)氏に詳しく聞くことができた。

――なぜケサネと名付けたのですか。

ケサネはジョージアにも咲いており、オーナーであるジョージ・グレイのパートナー業者が思いついたのをきっかけに生産することにしました。ジョージアのワイン製造技術とヨーロッパの専門家の力によってケサネの生産は実現したのです。

――ワインを水色にしようと思ったのはなぜですか。多くの人は、水色は食欲を想起しないと考えています。

ケサネの色は海やリラクゼーション、楽しい記憶と関連しています。ジョージ・グレイは「ケサネは『忘れられない印象』があるユニークなジョージアワインだ」と言っています。

――開発をめぐるエピソードを聞かせて下さい。

この独特なワインの作るために編み出した新製法も含め、商品化にいたる過程では多くの困難と挑戦がありました。地元内外のワイン製造の専門家たちと何度も話し合って助言をもらい、新しいワイン作りに必要なあらゆる関連情報を集め、実際の製造へと着手しました。

数カ月におよぶ試行錯誤をへて、黒ブドウの皮から青い色素を抽出することに成功し、その技術を用いて最終的な産物であるケサネが誕生したのです。

――青い色素はどの段階で加えるのですか。

発酵させた白ブドウ「ルカツィテリ」の液体に、黒ブドウの皮から抽出した青い色素を加えます。

――ケサネはステンレスタンクで製造されたのですか、それとも(ジョージア伝統の)クベブリ(瓶)を使って作られたのですか。

ヨーロッパの技術であるステンレスを使って製造していますが、ヨーロッパの技術と、ジョージアの8千年の伝統技法を融合した一つの理想型です。

ジョージアワインの醸造で伝統的に使われる素焼きの瓶(かめ)「クベブリ」
ジョージアワインの醸造で伝統的に使われる素焼きの瓶(かめ)「クベブリ」=東京のジョージア大使館、吉田佳代撮影

――甘みはどうやって生み出しているのですか。

ブドウから作る添加物を使い、ワインの甘みの割合を増やしています。ケサネは完全に天然の製品であり、欧州連合が認定する研究所の検査も受けています。

――ケサネのように甘いワインはジョージアには多いのでしょうか。

ケサネはさておき、ジョージアでは半甘口や甘口のワインは製造されています。甘口ワインはアイスワインと言われていて、原料となるブドウは糖度が最も高くなる冬の最初に収穫されます。

――ケサネはどんな人やシーンに適していますか。

ケサネはたくましい女性、若者、反甘口のワイン好きに向いています。時々こんな冗談を言います。「1本のケサネとチョコレートがあれば、約束は万全だ」と。

――国内での反響はいかがでしょうか。

ジョージアの人たちは保守的なので、国内市場でこのワインを売り出すことは少しチャレンジングであり、消費者の反応も予測できませんでした。

しかし、幸運なことに、人々はこのワインに「一目ぼれ」してくれ、今ではケサネがジョージアで最も人気のあるワインだと胸を張って言うことができます。

グラスについだケサネ
グラスについだケサネ=吉田佳代撮影

ロシア依存からの脱却で発展

ジョージアがグルジアと呼ばれ、現在のロシアなどとソ連を構成していたころ、ジョージアのワインはソ連における一大ブランドだった。ジョージア出身でソ連の最高指導者スターリンも愛飲した。

ジョージアのワインはソ連時代から人気で、ソ連崩壊後もロシアが販売先のほとんどを占めた。ところが2006年、ロシアが突然、禁輸に踏み切った。理由は「衛生基準の不備」とされたが、この年、ジョージアで誕生したサアカシュビリ政権が反ロシア・親欧米路線を鮮明にしたため、これに対する圧力との見方が有力だ。

ジョージアのワインメーカーの多くが廃業や経営危機に見舞われたが、逆境を逆手にとって輸出先の多角化を進めた。旧ソ連時代の設備をイタリア製の最新機材に替え、国際見本市にも出品するなどした。

その結果、販路は拡大し、ウクライナやカザフスタンといったロシア以外の旧ソ連の国々にとどまらず、東南アジアなどにも広がった。

ジョージアとロシアの関係はさらに冷え込んだ。2008年、ジョージアにある親ロシアの地域「南オセチア」をめぐって両国が軍事衝突、ワインの禁輸が解除されたのは2013年になってからだった。

だが、ジョージアのワイン業界はすでにロシア市場に頼らないだけの国際競争力を身につけている。

今回取り上げた水色ワイン「ケサネ」も、日本で注目を集めただけでなく、発売1年で、香港、スイス、オーストリア、ドイツ、リヒテンシュタイン、アメリカといった国々で取引が始まっており、輸出は全体の7割に達している。

こういった現状も、ジョージアのワイナリーの経営努力の結果とも言えそうだ。

ワインの出荷作業をするジョージアのワインメーカーの従業員ら。それまで最大の輸出先だったロシアから禁輸され、新しい販路開拓を目指していた
ワインの出荷作業をするジョージアのワインメーカーの従業員ら。それまで最大の輸出先だったロシアから禁輸され、新しい販路開拓を目指していた=2011年12月、トビリシ、関根和弘撮影