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【会見全文+動画】羽生結弦選手「引退ではない。さらにうまくなる」4回転半も意欲

World Now 更新日: 公開日:
記者会見する羽生結弦選手
記者会見する羽生結弦選手=7月19日午後5時7分、東京都港区、角野貴之撮影

フィギュアスケートの羽生結弦選手が7月19日、東京都内で記者会見し、競技から引退することを表明した。今後はプロに転向し、羽生選手が北京オリンピックで公式戦初の記録認定を実現した4回転半ジャンプ(クワッドアクセル)にも挑み続けるという。

「決意表明の場」とされた記者会見はこの日午後5時に始まった。スーツ姿の羽生選手は冒頭、「たくさんの人の応援のおかげで、ここまでこれました。フィギュアスケート選手として全うできるのが本当に幸せでした。プロのアスリートとしてスケートを続けることを決意しました」と話した。

その上で、次のように述べた。

「本当に緊張してます。かんだりしても許して下さい。競技者としてのほかの選手と比べられ続けることはなくなりますが、自分を認めつつ、自分の弱さと、過去の自分をみつめつつ、4回転半ジャンプにも挑戦する」

羽生選手は、2月に北京で開かれた冬季オリンピックで、シングル3連覇は逃したものの、4回転半ジャンプ(4A)に挑戦。回転不足とされたが、国際スケート連盟(ISU)公認大会で初めて記録された。

羽生選手は平昌オリンピックで2連覇した時点で競技からの引退を考えていたが、「別に競技会ではなくても自分の理想の滑りは追及できると思うようになっていた」と話した。

会見の全文

こんにちは羽生結弦です。このたびは、このような場に皆さん集まって下さって、本当にありがとうございます。最初にもう一つだけ感謝を述べさせていただきます。

先の一部報道であった通り、色んなことを言われてしまいましたが、その中でも自分のこと、そしてここまで応援してくださっているファンの方々を含め、色んなことを考えながら気持ちを大切にしていただきながら、自分が決意を表明することを、常にメディアで発信してくださった方々に対し、深く深くお礼をさせてください。本当にありがとうございました。

これまでたくさんの応援のおかげで僕はここまで来られました。ここまで頑張ってこれました。そして、ここにいてくださっているメディアの方々、カメラマンの方々も含めて本当にたくさん応援していただきました。

そういった皆さんの応援の力の中で、羽生結弦としてフィギュアスケートを全うできるのが、本当に幸せです。まだまだ未熟な自分ですけれど、プロのアスリートとして、スケートを続けていくことを決意いたしました。

本当に、いやー、本当にあの、緊張してます。しがない自分なので、言葉遣いが悪かったり、噛んだりしても許してください。

これからもプロのアスリートとして、競技者として他のスケーターと比べ続けられることはなくなりました。

ただこれからは自分のことを認めつつ、また自分の弱さと、そして過去の自分とも戦い続けながら、これからも滑っていきたいと思っています。

そして4回転半ジャンプにもより一層取り組んで、皆さんの前で成功させられることを強く考えながら、これからも頑張っていきます。どうか戦い続ける姿をこれからも応援していただけたらうれしいです。

そして一人の人間として、自分の心を大切にしたり、守っていくという選択もしていきたいなと思っています。

僕がこれまで努力してきたこととか、そういったことが応援してくださる方々に評価していただいたり、見てもらいたり、そこで何かを感じていただけたり。そんなことが本当に僕は幸せです。その幸せも大切にしていきたいなと思っています。

色んな選択をしていく中で、失望したなとか、もう見たくないなとか思われてしまうと、とても悲しいですけど、それでも自分のスケートがやっぱり見たいなとか、見る価値があるなって思っていただけるように、これからも、もっともっと頑張っていきますので、どうか応援していただけたらうれしいです。

これまで応援して下さったたくさんの方々、今回もどんな決断でも、どんな時でも、今回のこんな会見でも、「頑張れ」って、「緊張するだろうけど応援してるよ」って、応援してくださるコメントを寄せて下さっていて、本当に僕はいつも救われています。本当にありがとうございました。

最後になりますが、羽生結弦として、一人の人間として、ここまで育てて下さった幼稚園、小学校、中学校、高校、大学と色んな先生方、そしてフィギアスケートを教えてくださった先生方、たくさんの先生方、本当にありがとうございました。

また自分の心を、自分のことを大切にしてくれた人たち、本当に、本当に、本当にありがとうございました。

僕は自分の口から決意を言いたいなと思っていたので、事前に大切な人たちに言うことができなかったんですけれど、それでも何も言わずに自分のことを大切にしてくれて、僕も大切な方々が本当に大切だなと思ったし、またこれからも大切にしていきたいなって思いました。本当に僕なんかのことを大切にして下さり、本当にありがとうございました。

これからもより一層頑張っていきます。まだ今までスケートを生で見たことがない方も含めて、「見てよかったな」って、「絶対見る価値があるな」とか、そう思っていただけるように、これからもさらに頑張っていきますので。

そして4回転半ジャンプを含めて挑戦を続けて、これからもさらに高いステージにいけるように頑張っていきます。

これからはプロのアスリートとして、そしてスポーツであるフィギアスケートを大切にしながら、加えて羽生結弦の理想を追い求めながら頑張っていきます。

どうかこれからも戦い抜く姿を応援して下さい。今日は本当にありがとうございます。まだまだ自分の口から自分の考えてきたことだけだと話せない事はいっぱいあるので、どうか質問いっぱい下さい。そしたらしゃべれると思うので。どうかよろしくお願いします。ありがとうございました。

記者会見で笑顔を見せる羽生結弦選手
記者会見で笑顔を見せる羽生結弦選手=7月19日午後5時31分、東京都港区、角野貴之撮影

(以下、質疑応答)

――競技者として勝負の場から離れる決断に至ったのは何故でしょうか。またその決断に対して、寂しさはありますか。

寂しさは全然ないです。むしろ、今回この会見の案内文を考えていた時に、今後の活動についてとか、今後の活動に関してとかみたいなことを書いていただいたんですけど、自分の中でなんかそうじゃないなーって思って。

もっと決意に満ちあふれたものですし、もっと希望に満ちあふれたものだなぁと、自分の中で思っていたので、むしろ今は自分としてはこれからも期待してやってくださいって、胸を張って言えるという気持ちでいます。

なので寂しさは特にないです。これからさらに頑張っていきたいと思いますし、試合という限られた場所だけではなくて、もっと色んな方法で自分のスケートを見ていただく機会があるかなと思ってますし、作っていきたいなと考えているので、ぜひ楽しみにしていただきたいなと、自分では思っています。

――羽生選手と言えばオリンピックに3回出場して二つの金メダルを獲得して、夢や感動希望を与えたと思います。ご自身が得たものも非常に多いのかなとも思います。今改めてオリンピックと言うものを振り返ってみて、一言で言うとどういうものでしょうか。

オリンピックはそうですね、もちろん自分にとっては2連覇できた、今の自分のこういう立場や、こういう発言をさせていただく場所だったりとか、そういうものを作ってくれている大切なものたちだなと思うんですけど、それプラス、北京オリンピックでもちろん、挑戦が成功したわけではないんですけど、それでも自分が夢を追い続けたりとか、頑張り続け、ある意味、それを証明できた場所でもあったと思うので。

そういう中で、そういう姿を見て下さり、「あーかっこいいな」とか、「応援したくなるな」とか、また自分自身がほんの一歩でもいいから前に進もうとか思っていただけるような機会になったことが、何よりもうれしいなと思ってます。

もちろん一つずつオリンピックに意味付けをしてしまうと、オリンピックというものに対して全部意味付けをしてしまうと、長くなっちゃうんですけど、僕にとっては自分が生きている証というか、そして皆さんと共に歩み続けた、頑張った証でもありますし、これから頑張っていくための土台でもあるかなと思います。

男子フリーで演技をする羽生結弦選手
北京オリンピックのフィギュアスケート男子フリーで演技をする羽生結弦選手=2月10日、北京・首都体育館、角野貴之撮影

――競技会にはもう出ないという決断と考えてよろしいでしょうか。その決断に至った経緯、揺れ動いたのかも含めて聞かせてください。

これから競技会というものに出るつもりはないです。僕がこれまでやってきた中で、もう競技会に対して、結果ということに対して、取るべきものは取れたなと思ってますし、そこに対する評価をもう求めなくなってしまったという気持ちもあります。それがここまで至った経緯です。

そして、自分が揺れ動いたことはもちろんあったんですけど、そもそも平昌オリンピックの時点でもう引退しようと思っていて。

引退という言葉が好きじゃないのであまり使いたくないんですけど、僕が16歳か17歳のときのインタビューで、「2連覇したらどうするんですか」と言われたときに、「いやそこからがスタートです」って、本当に自分の心の中から言える時期があって、今本当にそういう気持ちでいます。

自分の中では平昌オリンピックからプロのスケーターとして、プロのアスリートとしてスタートするんだって思ってたんですけど、4回転半だったりとか、四大陸選手権も含めて、金メダルを取れていない試合が何個かあったので、それを取りたいと思って続けました。

4回転半にこだわり続けた結果、北京オリンピックまでついたんですけど、今の自分の考えとしては別に競技会じゃなくてもいいじゃんて思ってしまっています。

自分でこれから努力したい方向だったりとか、自分が理想としているフィギュアスケートという形だったりとか、そういうものを追い求めるのは競技会じゃなくてもできるなって。

むしろ競技会じゃないところの方が皆さんに見ていただけるんじゃないかなと思っていて、こういう決断をしました。これからも4回転半を含めてよりアスリートらしく頑張ってきたいなと思います。

男子フリーの演技を終えた羽生結弦
男子フリーの演技を終えた羽生結弦=2月10日、北京・首都体育館、瀬戸口翼撮影

――これだけ実績を残されて、社会の中でも羽生選手の言動だったり、ものすごく影響与えたり、色んな人を喜ばせたりしている中で、そのような存在になれた、自分にしかない特徴、自分の中で持っているものは何でしょうか。

自分で実感があまりないのでわからないんですけど、ただ、今この場所にいる羽生結弦としては、客観視して本当にすごく遠くから、例えば今カメラさんがいる場所からとか、上から見たら、羽生結弦ってどういう存在かなとか….。たくさん応援してくれるからこそ、ここにいられるんですね。

別に羽生結弦が何かを持っているからとか、僕自身が何かをしてきたからとか、そういうのではなくて、色んな環境の変化があったりとか、色んなことで自分の演技を見ていただいたり、発言をさせせていただく場所があったり、聞いていただける場所があったりすることによって、僕は特別応援していただける、本当に運のいい人間なんだなと思っていて。

それが僕自身も、もっと頑張っていかなきゃいけないとか、より色んなことを考えたりとか、どんな言葉がいいのだろうかとか、どんなことを考えていけばいいのだろうかとか、そういうことを考えさせて下さるきっかけになっていたので。

別に作り上げているわけではないんですけど、そうやって皆さんに応援していただけるからこそ、たくさんの方々が応援してくれてるからこそ、僕はここで発信できる、発言できるんだなと強く思いますし、その上で、僕自身もその期待に応えられるように、その期待をさらに越えていけるようにしていきたいなと思えたので、そんな感じでやってこれたのかなと思います。

ただやっぱり、僕はアスリートでしかないと思っていて、これから色んな演技をしていったりとか、スケート続けていくにあたって、色んな面が見えてりすると思うんですね。その中で、やっぱり芸能人とかアイドルでも何でもないですし、やっぱりアスリートとして格好いいなと、アスリートとして色んな希望とか夢とかを見せてもらえるなって思ってもらえるような存在として、これからも努力していきたいなと今は思っています。

会見に臨む羽生結弦選手
会見に臨む羽生結弦選手=7月19日午後5時55分、東京都港区、角野貴之撮影

――競技者として羽生さんがこれまで貫けたなと思うこと、そしてこれからも貫いていきたいなと思うことを改めて教えてください。

常に挑戦し続けることは、これからも続けていきたいなと思います。正直、僕の中では線引きがとても難しいなと思ってしまっているんですけど。

競技者としてのアスリートなのか、プロとしてのアスリートなのかに関しては、すごく線引きが曖昧で、じゃあここで僕が「プロになりました」と言ったらプロなのかといったら、そういう世界なのでそうとしか言い切れないところがあるんですけど。でも僕は気持ちとしてはそんなに大きく変わったつもりはないです。

とにかく、これからも常に夢に向かって目標に向かって努力していきたいなと思いますし、より責任を持って、自分の発言に責任を持って、自分の行動に責任を持ってアスリートとして、これからも自分の活動を全うしていきたいという気持ちでいます。

4回転半ジャンプも成功させて、それを皆さんと共有できたり、皆さんの前で成功させられたりしたらいいなと強く思っています。

――プロのアスリートとして今後の活動を続けられると思いますが、具体的な計画や新たな活動について、現時点で考えられていることはありますでしょうか。

自分の中で考えてることだったりとか、ちょっと話し合った段階でしかないんですけど、具体的には色々と進めているようとしていることがあります。

それを言ってしまうと、まだまだ自分の頭の中の構成を伝えただけなので、実際実現できるかどうかもわからないし、具体的にそれを言うのははばかられてしまうので申し訳ないんですけど。

ただ、例えば競技者としてやってきた時は、試合前の露出だったり、試合で演技をしたりとか、そういったことに限られてきましたけど、もっともっと今の時代に合ったスケートの見せ方とか、ファンの方々であったり、本当にスケートを見たことがない方も含めて、これだったら見たいかなと思うようなショーであったり、応援してくださる方々が納得できるような場所だったり、演技だったり、そういったものを続けていきたいなって思います。

ざっくりとしか言えないんですけども。具体的に期間とかは言うのはちょっと難しいんですけど、ぜひ期待してほしいなって思っています。すいませんこんなコメントしかできなくて申し訳ないです。

――決断に至った時期、競技生活を離れようと思った時期があったら教えていただきたいのと、そこに至るまでの最大の決め手は何でしょうか。

そうですね、競技者としてここで終了というか、プロになりたいなと思うことは多々ありました。いろんな場面でありました。

先ほども言ったように、平昌オリンピックが終わった時に思いましたし、次のステージに向かいたいっていう…。

ネガティブで引退とか、不思議ですよね、フィギュアスケートって、現役がアマチュアしかないみたいな印象があって。

すごく不思議だなと僕は思っているんですけど。実際、甲子園出場したの選手が野球をそこまで頑張っていました、甲子園優勝しました、プロになりましたっていうのは、それは引退なのかなって。そんなこと言われたらそんなことないじゃないですか。

僕はそれと同じだと思っていて。むしろここからがスタートで、これからどうやって自分を見せていくのか、どれだけ頑張っていけるのかが大事だと思っているので。そういう意味では、新たなスタートを切ったなと思っています。

先程の質問の、「いつプロに転向しようと考えたか」っていう話だと、毎試合、毎試合思っていました。平昌オリンピックが終わって、試合が終わるごとに色々考えて、本当に色んなことを考えて。「これ努力してる方向間違っているのかな」とか、「頑張れていないのかな」とか、考えながら競技をしてきました。

結果として最終的な決断に至ったのは北京オリンピック終わってからです。帰ってきて、しばらくして、自分の足首を治すための期間として、治すための期間というか、痛くて滑れなかったので、その期間に、色々考えたときに、もう別にここのステージにいつまでもいる必要はないかなって思って。

より上手くなりたい、より強くなりたいって思って決断しました。実際に最後に先日、ファンタジーオンアイスというものがあったんですけれども、その時に滑らせていただいた時が、自分がアマチュアスケーターとして滑らせいただくのは対外的に最後だったんですけれども、その時にもまた改めて、「より高いステージに立ちたいな」と。「より一層努力したことが皆さんに伝わるステージに行きたいな」と思いました。

アイスショーで演技を披露する羽生結弦選手
アイスショーで演技を披露する羽生結弦選手=2022年5月27日、幕張メッセ、山本裕之撮影

――オリンピックでメダルをとられて、様々な記録を打ち立てられて、どこかで満足するところがあるのかなと、取材する側として思っていたんですが、常に常に先を見続けてより強く、より高くというイメージがすごく強いんですが、羽生選手に何がそこまでかきたてるものがあるのでしょうか。

それはアスリートだからなのかなと強く思います。現状に満足した事は基本的にないですですし、とにかくうまくなりたいなと思ってました。

それが例えばジャンプであったとしても、フィギアスケートで求められている音楽的な表現であったとしても、常にうまくなることが楽しみというか、それがあったからスケートをやっていられるなと今になって思ってます。

自分の中では「スケート=生きている」というイメージがあって、生きる中でうまくいったり、いかなかったりということがあったり。

そこに対して何か言われたりとか、喜んでもらえたりとか、色々あったりもしますが、逆に何か停滞したりということも色々あったり、そういったことがスケートの中で感じられるなと思っていて。

それこそが自分にとってのフィギアスケートなのかなと思っているので、だから記録が取れたからとか、最高得点出せたから、難しいジャンプ飛べたからとかではなくて、普通に生きている中で、もっと難しいことをやりたいとか、単純にちっちゃい頃だったらもっと褒められたいとか、そういった気持ちだけで頑張ってこられた気がします。

――昨年あたり、「今の自分が一番うまい」とおっしゃっていたことが印象に残っています。実際そうだとも思います。勝手ながらもったいないなとも思うんですが、競技会の緊張感が恋しくなったりすることはありませんか。

競技会の緊張感が恋しくなることは絶対ないと言い切れます。それは先ほどお話しした中で、今後の活動について色々と考えている中で、競技会の緊張感を味わったりしてもらいたいなと思っているので。

競技会や大会を作ったりとか、そういうことは考えていないんですけど、皆さんが応援したくなるような羽生結弦って、挑戦し続ける姿だったり、独特の緊張感があったりとか、そういった中での演技だと思っているので。そういうのを感じてもらえるような、競技者じゃなくなったから気が緩むなと見られるようなスケートではなくて、より毎回緊張できるような、全力でやってるからこその緊張感をまた味わっていただけるようなスケートをしたいと思っているので、それはないかなと。

むしろもっと緊張させてしまうかもしれないですし、僕自身もっと緊張するかもしれないですし。一つ一つの演技を全体力と全神経をそそいで、ある意味では死力を尽くしたい。

――羽生選手が戦ってこられた時代というのは、4回転が過熱して、それでもチャンピオンとして高いレベルで、4回転アクセルに象徴されるように、ひっぱってこられたと思いますが、チャンピオンでありながらリードしてきたことについてどう思っているのか、また今後、ほかの選手も4回転に挑戦したり、もしかしたら5回転ということも出てくるかもしれませんが、これからの期待と感想をお願いします。

僕がフィギュアスケートを始めてすごくあこがあこがれを持ったトップの選手の時代は、4回転ジャンプがプログラムの中に2本入っていたらすごいことでした。

今みたいに4回転ジャンプが何種類も跳べるわけではないですし、1種類で2本とか、トリプルアクセルがあったりとか、そういう時代でした。それから4回転がなくなったりとか、4回転を跳ばなくても勝てる時代が来たりとか、色々あって現在に至っています。

でも僕が好きだった、僕が好きなフィギュアスケートは、やっぱり僕自身があこがれた時代のスケートなんですね。

あの時代、4回転ジャンプ3本跳んだら優勝なのかと言われたらそんなこともなくて。トリプルアクセルいっぱい跳んだから勝てるのかと言われたら、そんなこともなくて。

もっともっと心から何かを感じられるような演技、この人の演技見たいなって思えるような演技をこれからもし続けたいなと思っています。

そういう演技を自分がやってこられたかどうかは自分では評価しきれないんですけど、これから僕自身がそういう演技をもっとしたいなと思ってますし、これからの競技フィギュアスケート会というのがまたルールが変わって、毎年ルールがちょっとずつ変更があるんですけど、またいろんなことがあるかもしれないですけど、僕が大好きだった時代の、僕が追い求めている理想の形のフィギュアスケートをさらに追い求めたいなと思います。

全日本選手権表彰式で優勝した宇野昌磨選手(左)の腕をつかみ、語りかける羽生結弦選手
全日本選手権表彰式で優勝した宇野昌磨選手(左)の腕をつかみ、語りかける羽生結弦選手=2019年12月、 代々木第一体育館

――北京オリンピックの時、「報われない努力だったかもしれないけど」という発言があったと思います。競技者としての努力をどのように振り返りますか。また、それはプロスケーターとしてどのようにつながっていくと思いますか。

平昌オリンピックで連覇した時点で競技を終えて、プロとしてさらに上手くなっていきたいなと思ったという時期があったという話をしましたが、あのままの自分だったら、今のこの自分の努力の仕方だったりとか、自分がどうやったら上手くなるかとか、それを感じられないまま終わってしまったかもしれないなと。本当の意味で終わってしまったかもしれないなと思いました。

あの頃は、まだまだ4回転ジャンプをルッツ、フリップという、ある意味、今の新時代を象徴するようなジャンプが増えてきている段階でもありましたけども、ジャンプたちを追い求めて、またフィギュアスケートの、いわゆる一番うまくなれる時期っていうか、フィギュアスケーターってこれぐらいの年齢で競技終えるよねって、これからうまくならないよねとか、停滞したりとか、維持するのが大変だよねっていう年齢が、大体23歳とか24歳で切り替わってしまうというのが定番みたいなものでした。

だけど僕自身は、23歳で平昌オリンピックを終えて、それから今の今まで本当にジャンプの技術も含めてかなり成長できたと思っているんですね。

それはどういう努力をしたらいいかとか、どういう工夫をしていけばいいのかとか、そういうのが分かったからこそ今があるんだなと思ってます。そういう意味で今が1番うまいんじゃないかなと思ってます。

その経験があったからこそ、これからもたとえ自分が30になろうとも、40近くなることも、40までスケートやっているかちょっとわからないですけど(笑)、今まではこの年齢だからできなくなるなって思ったことが、なくなるんじゃないかなって、ちょっとワクワクします。

そういう意味ではやっぱり、北京オリンピックまでやり続けてきて、本当に努力し続けて、これ以上ないくらい努力したと言えるくらい頑張ってきて本当に良かったなと思いますし、これからも改めていろんな努力の仕方だったりとか、頑張り方だったりとか、色々試行錯誤しながら上手くなっていけたらいいなと思っています。

――競技者としては絶対王者と呼ばれて、日々の言動からも、人間性を高く評価されたアスリートだと思います。我々から見ると、いつも完璧に映って見えるんですが、競技人生の区切りを迎えた今、正直に言って、羽生結弦として生きてきて大変だったこととか、今だから明かせる自身の存在について、重荷になったことというのはなかったのでしょうか。

僕という定義が分かんなくなっちゃって難しいんですけど、僕にとって羽生結弦という存在は常に重荷です。すごく重たいです。

こうやって会見でお話しさせていただく時も、登壇させていただく時とかも、決意表明して下さい言われた時とかも、ものすごく緊張して、今まで考えてきたことが全て吹っ飛んでしまうぐらい、手足も真っ青になってしまうぐらい緊張していました。

自分自身も完璧でいたいって強く願いますし、これからも完璧でいたいって、もっといい羽生結弦でいたいって思ってしまうので、これからもまた重いなって、色んなプレッシャーを感じながら過ごすことになってしまうと思うんですけど。

でもその中で、こういう姿を見て応援してくださる方々がたくさんいらっしゃいますし、また北京オリンピックのように、自分がちょっと心が崩れてきてしまった時とか、あの時努力が報われなかったとか、報われない努力があるんだとか、幸せって本当に心の中から言えないとか、色んな言葉を言ってしまいましたけど、そういった自分がいることも皆さんにわかっていただいたり、そういう自分を応援してくれる方々がいることもうれしいなとは思います。

いつもいつも羽生結弦って重たいなと思いながら過ごしていますけど。それでも羽生結弦という存在に恥じないように生きてきたつもりですし、これからも生きていく中で羽生結弦として生きていきたいなと思いますし、先程の決意表明の中で話したように、自分の心を蔑ろにする事はしたくないなと。これまで演技をしていくに当たって、本当に心が空っぽになってしまうようなこともたくさんありましたし。

訳もなく涙が流れてきたりとか、ご飯が通らなかったりとか。そういったことも多々ありました。

正直いわれないことも言われたりとか、そんなたたかなくてもいいじゃんということもあったりとか、正直色んなことがありました。

人間としても色んな人が信頼できなくなったり、誰を信用していいのか分からなくなったりすることもありました。

でもそれは多分、羽生結弦だからではなくて、皆さんがそう思っているんだと思いますし、大なり小なり皆さんがつらいんだなと思ってます。

だからこそ僕自身がこれからも生きていく中で、生活していく中で、心を大切にしてもいいんじゃないかなって。

もっと自分の心が空っぽになってしまう前に、自分のことを大切にしてきてくださった方々と同じように、自分自身も大切にしていかなきゃいけないなというふうに今は思っています。

なので皆さんも、自分を応援することで色んなことを感じていただけたり、生活の一部だとか、生きがいだとか言ってくれることはとてもうれしいいですし、それにこれからもやっていくつもりです。ただそういった中でも、自分の心を大切にするようなきっかけの一つであったらいいなと思います。

フィナーレで競演する羽生選手(右)とプルシェンコ選手
フィナーレで競演する羽生選手(右)とプルシェンコ選手=2014年6月、大分県別府市のビーコンプラザ

――プロのアスリートとおっしゃいましたが、アスリートという言葉を使ったということは、気持ちの中で引退でもないし、プロというのはアスリートなんだという強いメッセージだと受け取りました。だからこそアスリートとしての羽生選手に、クワッドアクセルはどれぐらい自分の手中にあり、続けると宣言したからには、手応えが北京よりも(今が)いいとかあると思います。クワッドアクセルについての決意をもう一度お願いします。

正直な話、フィギュアスケートってそんな苦しいところ見せたいけないと自分の中では思っていて。

演技している時、めちゃくちゃ頑張ってるんですけど本当は。「キス・アンド・クライ」という点数が発表されるところがあるんですが、そこで倒れる込むわけにいかないんですけど、僕ら本当に倒れこむぐらい、全力で毎回滑ってます。

そういった中でも、アイスショーってやっぱり、華やかな舞台であったりとか、エンターテイメントみたいなイメージがあると思うんですけど、もっともっと僕はアスリートらしくいたいなって。

もっともっと難しいことにチャレンジしたりとか、挑戦し続ける姿、戦い続ける姿をもっと皆さんに見ていただきたいなと。期待していただきたいなと思って、今回この言葉たちを選びました。

実際4回転半に関しては、北京オリンピックですごくいい体験ができたと思ってますし、実際あの時は痛み止めの注射を打ってしまっているからこそ、何も感じなかったからこそ、何も怖くなかったということがあって、本当に全力を出し切って4回転半に挑むことができたんですけど、今現在、右足首の回復を待ったりとか、あの時は本当に4回転のためにずっと努力していたと言っても過言ではないので、それに比べると最近、アイスショーがあったりとかで、4回転半に時間を取れなかったので、あのこれよりも下手くそになっちゃってるかもしれないんですけど。

今現在、4回半の練習を常にやっています。実際にあのころ得た知見があったからこそ、北京オリンピックとそしてその前にも色んな知見を得られたからこそ、現段階でももっとこうやればいいんだなとか、もっとこうできるんだなという手ごたえがありますし、ここ最近、アイスショーに出させていただいたりとか、そういった中でこういう視点があったんだなということも、毎日のように発見があって、そういう意味で、これからさらにうまくなっていけるんだなっていう自分への期待とワクワク感がある状態です。

実際にはあの頃よりも下手くそになってしまってるかもしれないんですけど、でもきっと北京オリンピックの時はもう伸びしろないのかなと思ったんですけど、今は伸びしろいっぱい感じてます。期待してください。ありがとうございます。

――私は今日、ファンの人の代わりにここに入れてもらったと思っているので、ファンの人というのは羽生選手にとってどんな存在ですか。改めてファンの人に言葉をいただけますでしょうか。

改めて、一言で言うのは難しいんですけど、応援してくださる方がいるから、僕がここで話すことができて、スケートをやってくれて、これからもスケートをさらに突き詰めていこうって思えています。

正直、先ほども言ったように、自分が特別な存在とか、自分が特別な力があるとか、そんなことは全く思ってなくて。

人一倍、皆さんに応援していただけるからこそ力があったりとか、応援の力があるから、僕はうまくなってるだけなんだなってすごく思ってます。

これが例えば10人ぐらいにしか応援されてなかったりしたら、きっと10人の方々の気持ちを受け取るだけで目一杯になってしまって、こんなにスケートだけに没頭できる日々はなかったかなと思います。

ただその中で、皆さんがたくさん期待して下さって、その期待に応えると、またより多くの人が期待して下さって。そんな循環が僕が本当に大切だったし、そんな循環をこれからもさらに続けていきたいですし、皆さんの期待に応えれるような演技を続けていきたいなと思うので。

正直、僕の心の底からの今の気持ちは、どうかこれからも期待してやって下さいということと、これからも見てやって下さいという気持ちが自分の本音です。

なんかここで「ありがとうございました」じゃないというのは正直、自分が一番思っていて、全然終わらないので、引退でも何でもないので、ここからさらにうまくなるし、さらに見る価値があるなって思ってもらえるような演技をするために努力していくので。これからもどうか応援してやってください。よろしくお願いします。

会見で一礼する羽生結弦選手
会見で一礼する羽生結弦選手=7月7日午後6時6分、東京都港区、角野貴之撮影

――先ほど、これから「心を大切に」とおっしゃってましたけが、プロのアスリートとなるにあたって、今後人生の最優先事項として三つ挙げるとしたら、どういうものかありますでしょうか。

ありがとうございます(笑)。三つかあ、難しいなぁ。三つ、そうですね…成功させられる努力をまずすること。それが自分とって一番優先、一番上の優先事項ですかね。それは4回転半も含めてです。4回転半も成功させたいですし。

自分自身が目標としている演技たちだったりとか、ここであえて「演技たち」って言っちゃいましたけど、色々な演技をしていくにあたって、絶対にあの頃よりうまいんだぞって、過去の自分よりうまくなったなって、言ってもらえるような、理想としている演技ができるよう努力をしていきたい。それが今の自分にとっての第一の優先事項です。

あと二つ。そうですね。うわあ、難しいなあ。これはプロになったからとか、そういうのではないのかもしれませんけど、人間として美しくありたいと思ってます。

言葉で全部を表現するの難しいんですけど、たとえ明日の自分が、今の自分を見たとしても、ちゃんと「ああ、昨日の自分は頑張ったな」って、思ってもらえるような自分を常に大切にしていきたいなと思いますし、一生胸を張って生きていける生き方をしていきたいなと思います。

そして三つ目は、うーんと、難しいですね。そうですね、うーん、なんかあるかな。あっ、はい。勉強を怠らない、常に勉強し続けるということを三つ目にあげたいなと思います。

もちろんスポーツとしてのフィギアスケートの競技というところからは抜けて、違う新たなステージに、一歩高いところに上がっていくと自分の中で位置づけているんですけど、これからもずっとずっと勉強していきたいなと思ってます。

色んなこと、自分自身、最近ダンスをうまくなりたいなとか、氷上でうまく使えないかなと思ったりとか。力学のことだったりとか、運動学だったりとか、人間工学だったりとか。

またはパフォーマンスの、どういう風に見られるのか、どう評価するのかとか。そういうのも含めてこれからもどんどん勉強して、どんどん深い人間になっていきたいなって、深いフィギュアスケーターとしてなっていきたいなと思うので、常に勉強し続けられる、アップデートし続けられる人間になりたいなと思ってます。

記者会見で花束を受け取る羽生結弦選手
記者会見で花束を受け取る羽生結弦選手=7月19日午後6時1分、東京都港区、角野貴之撮影

ノーカット動画

羽生結弦選手、競技の一線退きプロ転向を表明=代表撮影