ジェフ・ベゾス(訳注=米アマゾン創業者)は、アマゾンのドローンは4年から5年以内に歯磨き粉やキャットフードを米国の家庭に運ぶだろうと語っていた。おっと、この発言は9年ほど前のことだった。
そのアマゾンは6月中旬、米国初のドローンによる宅配を今年中に始める計画だと発表した。最初の場所は、おそらくカリフォルニア州のある町になると言っている。
その際のニューズレターは、次の二つの疑問に答えている。なぜドローンの宅配開始にこれほど長い時間がかかったのか? ドローンによる宅配は、他の方法よりも優れているのか?
要は、こういうことだ。当分の間、ドローンによる宅配は特定の条件の下で、少数の商品を限定された場所に運ぶなら使い勝手がいい。しかし、技術的かつ財政的な制約があるため、将来、大規模に展開する可能性は低い。
ドローンによる宅配は、遠隔地にいる人に薬を届けるといった用務には意義のある進歩である。だが、ベゾスらが世間にぶち上げたドローンの大きな夢と比べると、それはさほど野心的だとは言えない。
■なぜ、それほど難しいのか
人の手を借りずに飛ぶ小型飛行機は、二つの重大な障壁に直面している。テクノロジーが複雑で、各政府が多くの煩雑な手続きを求めることだ。それにはしばしば、もっともな理由がある(米国の場合、規制問題はおおむね解決されている)。
経験豊かなドローンエンジニアで、米ハドソン研究所の研究グループの上級研究員ダン・パットによると、誰でも1週間ほどあればガレージで、5千ドル未満で自前の配達用ドローンを製作できる。基本は、それほど難しくないというわけだ。
ところが、現実世界は限りなく複雑で、ドローンはそれに対応できていない。ドローンは高速で建物や電線、樹木、他の飛行機や人を正確に「目視」して航行し、着地したり、高所から荷物を下ろしたりする必要がある。GPS(全地球測位システム)の一瞬の狂いが、ドローンを墜落させてしまうかもしれない。エラーを許容する余地はほとんどないのだ。
「問題の最初の部分を解決するのは実に簡単だ」とパットは言い、「問題をすべて解決してドローンの配達を完璧にすることは非常に難しい」と指摘する。
典型的な科学技術者のアプローチは、より小さく思考することだ。つまり、それはドローンの利用を比較的単純な状況に限定することを意味する。スタートアップ企業の「Zipline(ジップライン)」は、車を運転して行くのが困難な(アフリカの)ルワンダとガーナの比較的広い場所にある保健所に血液や医薬品を届けるためドローンを活用することに用途を限定した。一般的な郊外や都市はもっと入り組んでおり、車での配達の方がより便利だ(アマゾンが米国での最初の宅配を計画しているカリフォルニア州ロックフォードは人口が数千人で、そのほとんどの住宅は点在している)。
それでも、これは信じられないほどの成果であり、ドローンは時を経るにつれ、他の条件下でも配達ができるようになりつつある。
パットによると、それ以上に厄介な問題がある。ドローンによる宅配にはほとんどの場合、経済的な利点がないかもしれないことだ。UPS(米国の貨物運送会社)の配達トラックは、もう一つの荷物を積み込んでも安くすむ。しかし、ドローンはそれほど多くを運べない。1回の飛行で何カ所も行くことはできない。ドローンだと、飛び立つ場所まで人と車がキャットフードや歯磨き粉を持っていく必要がある。
「今後10年間、それは小さな市場、小さな構想、ニッチな活用に限られると思う」とパットは言い、「すべてをドローンに置き換えるほどの規模にはならない」とみる。ドローンに取り組んでいる人の中にはパットより楽観的な人もいるが、私たちは他の分野でも同じような楽観論が挫折するケースを見てきた。
■過剰な約束と期待外れ
記者はドローンと無人運転自動車との類似性が、ずっと気になっていた。ドローンの科学技術者が記者に語ったのは、無人車と同様、彼らはコンピューターが操縦する乗り物の課題についての判断を誤り、その可能性を過大評価したということだ。
信頼性の高いドローンによる宅配や無人車はグッドアイデアではあるが、科学技術者たちが想像したほど普及しないかもしれない。
私たちは、自動化されたテクノロジーに関して同じ過ちを犯し続けている。過去何十年間にもわたり、科学技術者たちは無人車や、人間やロボット工場の労働者のように推論するコンピューターがすぐにユビキタス(どこにでも存在する)になり、これまでよりすばらしいモノになると言い続けてきた。私たちは、それらを信じたい。だが、展望が開けなければ、失望に転じてしまうのだ。(抄訳)
(Shira Ovide)©2022 The New York Times
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