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足りない物は全部AIが買ってくれる時代が来る 「中国のアマゾン」京東の戦略

World Now 更新日: 公開日:
京東集団の梅涛・技術部門担当副総裁=目黒隆行撮影

「『予測』という名の欲望」連続インタビュー#4 「京東集団」技術部門担当副総裁、梅涛氏 AI(人工知能)を用いた産業・科学技術振興で国力を世界のトップレベルに引き上げ、2030年までに世界のイノベーションの中心になる――。中国政府が2017年に公表した「次世代AI発展計画」で掲げた目標だ。中国国内を歩くと、スマホを使ったQRコード決済やタクシーの配車アプリなど、テクノロジーを駆使した新しい技術が市民生活に急速に浸透していることを実感する。こうした変化の先には、どんな未来が「予測」されるのか。国内最大の小売事業者で「中国のアマゾン」とも呼ばれる「京東集団」の技術部門担当副総裁、梅涛氏(42)に聞いた。(聞き手・目黒隆行)
京東集団が運営するネット通販サイト

アマゾンのようなネット通販サイトを展開する中国の京東集団。近年はAIを使った業務の効率化に注力しており、消費者の「欲しい物予測」や、問い合わせへの対応などにも応用を進めている。また、倉庫や宅配といった物流分野でも「無人化」を一部で導入していて、日本では楽天と提携して宅配ドローンなどの研究も行っている。巨大な利用者を抱えるネット企業がAIを活用する狙いは、いったいどこにあるのだろうか。

「京東には3億2000万人のユーザーがいます。ネット企業の収益額としては中国でトップ、世界でもアマゾン、アルファベットに次ぎ3番手です。世界で3番目に多くのデータが集まってくる企業というわけです。ユーザーのデータというのは、会社の資産と言っていいくらい、非常に重要な存在です。この資産を活用することで、消費者の好みにあわせたおすすめ商品を予測し、提案できるようになっています。データを分析することでスマート物流も可能になります。AIが購買履歴や配送などのデータを学習することで、よりスマートに、早く効率的に配達できるようにしています。京東は地域ごとに配送拠点の倉庫を作っていますが、その地域では何をどれくらい保管しておくべきかなど、在庫管理にも使われています」

「中国はまず人口が多いですから、データ収集の規模に関して言えば他の国とは全く違うスケールでできます。しかし、そのデータと個人とを結びつけるとプライバシーの問題にも関わってきます。私たちは消費者のトレンドの分析には使っていますが、特定の個人と結びつけて使っているわけではありません。政府も立法の面から、いかに個人情報を保護するべきかについて検討を進めているところです」

■欲しいものを撮影するだけで「おすすめ商品」が

京東の強みの一つは、AIの画像認識技術を使った「欲しい物予測」だ。アプリで欲しい商品の写真を撮ると、同じものや似たテイストのものなどを即座に表示する。アマゾンなどにも同様の機能はあるが、京東は高い認識精度が売りで「ショッピング体験をより楽しくできる」としている。梅は以前、米マイクロソフトで画像認識の研究もしていたこの分野のスペシャリストだ。珍しい柄の服やバッグなど「言葉での説明が難しい商品」を手軽に見つけることができるというこの技術。いったいどうやって分析しているのか。

「例えば、街を歩いていて、あの人の洋服が素敵、こんなもの欲しい、と思ったことありますよね。そういった場合に使えるのがこのアプリです。写真を撮って投稿すると、京東が保有している10数億枚の商品の画像データなどから、消費者が何を望んでいるのかを予測して、おすすめを提案します。もちろん、同じものがあれば全く同じ商品も見つけることもできます」

「人間が世界を認識する上で、視覚から得られる情報というのは全体の70~80%と言われています。欲しいものを言葉で正確に表現して検索するのは難しいときもありますが、画像にしてしまえば、言葉で言い表すことのできない消費者の希望をすくい取り、予測することができます。いま、この画像認識を使ったビジネスが急速に拡大しています。1年で10倍になるほどです。消費者からの投稿が増えれば、私たちの持つデータもそれに伴って大きくなり、検索の精度も高められていくのです」

「他にも、消費者からの問い合わせ電話の声をAIが分析して、どのような感情なのか予測することもしています。これが結構な確率で正しい判断ができています。また、京東はオンラインだけでなく、スーパーなど実際の店舗も展開しています。そういった実店舗向けに、カメラで読み取った顧客の表情を分析して感情の変化を読み取る研究もしています。技術的な見地から言いますと、消費者の声や表情などから感情の変化を判断するというのは、かなりできます。ただ、それをどのように実用化するかについては消費者や社会との対話を経て決めなければなりません。個人情報の保護を考慮しながら、実際にどう活用するべきか考えています」

雑誌のモデルが着ている服をスマホで写真に撮ると・・・
撮った写真から欲しい物を「予測」して、おすすめを提案する

中国ではいま、AI技術を柱とした経済の振興策が国を挙げて進められている。AIを活用するスタートアップが次々と生まれ、巨大な国内市場を背景に急成長する企業も続出。未上場だが評価額が10億ドルを超える「ユニコーン企業」には、トップの米に続き中国企業が数十社名を連ねているが、日本は片手で数えられるくらい、というのが現状だ。政府がここまでAIに力を入れている背景には、一体どんな狙いがあるのだろうか。

「いま、次々に新しいAI技術が発達しています。中国は発展途上国ですので、ここで他の企業や他の国々と競争して、追い抜けるチャンスだと思っています。中国政府も企業も、このチャンスをつかもうという気持ちでいっぱいですよ」

「中国がAI分野で発展できたのには、3つのポイントがあると考えています。まず、政府自体が産業発展のためにAIを活用できるような背景と社会の雰囲気を作ってくれました。2つ目は若い人材です。いま、AIやデータを活用できる若者がどんどん育ってきています。多くの若者がAI関連の研究開発に関わっています。そして3つ目は、産業界の方からもAIを活用したいという要望がたくさん寄せられています。こうした要素が融合して、発展してきたのだと考えています」

戦後、高い技術力をもとに経済大国となった日本。しかし、国内総生産(GDP)ではすでに中国に抜かれ世界第3位。スマホ決済やタクシー配車アプリといった新しいテクノロジーを実生活にどんどん取り入れている中国に対し、日本の変化の速度は比較的ゆるやかに見える。もしかして日本は、この「AI時代」で後れを取ってしまっているのだろうか。

「日本に関して言えば、AI技術を実生活や社会の中で実用化するというところでは、保守的な側面があると思っています。まだ積極的な活用はできていません。しかし、大学や企業の技術力は非常に高い。技術開発の熟練度は、世界的に見ても全然遅れてはいません」

「中国の弱点としては、部品の製造力が低いことが挙げられますが、日本の作るチップなどの部品はとても高品質です。こういった分野で日本の力を借りて、共にできることが多くあると考えています。京東はAIをテーマにしたオープンプラットフォームの構築をめざしていて、ぜひ日本の企業や大学にも入ってほしい。ともにAIを活用して、社会に貢献したいです」

中国・北京にある京東の本社=京東のウェブサイトより

■身の回りのことはすべてAIがアレンジ

このままAI技術がいっそう進歩していくと、「いつか人間の仕事がAIに奪われるのではないか」という不安が頭をよぎる。物流の無人化を進めている京東の北京にある本社には「無人スーパー」もある。このまま人間の仕事が取って代わられていくとすれば、人間の役割は一体何なのだろうか。

「それは本当によく聞かれることですよ。みんな心配しているんですね。これから、AIとともに生きる社会は必ず来ます。必ず来るのですから、早く向き合った方がいいですよ。AIは人間と置き換わるのではなく、人間の代わりに、重い、汚い、やりたくないといった仕事をやってくれるものです。そうした仕事はAIに任せて、イノベーションを起こすような、創造力のある仕事を人間がするべきだ、と考えています」

「今は、例えば何を買うべきかは人間が考えますが、将来は家の中にたくさんのセンサーがあって、暑いのか寒いのかを判断して自動で調整します。冷蔵庫の中身もAIが判断して、足りないものを自動で買ってくれます。それ以外にも、今日は取材を受ける日だから服装はこれにすべきだとか、家を出る時間を知らせてくれるとか、身の回りのことはすべてAIがアレンジしてくれるようになります。人間は、それを見て決断をすればいいのです。AIがどんどん賢くなると、人間もそれなりに賢くないといけません。そう考えると、人類の進歩にも役に立つと思っています」

■10月特集「『予測』という名の欲望」連続インタビューを連日配信します。