1. HOME
  2. Brand
  3. 立命館アジア太平洋大学(APU)
  4. 子どもの気持ちを引き出すコツ、まず「今日どうだった?」をやめてみる
presented by 立命館アジア太平洋大学(APU)

子どもの気持ちを引き出すコツ、まず「今日どうだった?」をやめてみる

アグネスの子育てレシピ 更新日: 公開日:
写真はイメージ(gettyimages)

香港、中国、日本で新しく本を出版することになり、その材料集めのために親御さんやと教育者の方からの質問を募集しました。
そこで見えてきたみなさんの悩みは、いろいろあります。
分類してみると、20種類以上の悩みがありました。
パンデミック下での子育ての問題、子供の注意力不足にどう対応するか、子供に死をどう教えればいいか。このほか、兄弟関係、学業、道徳、などなど。
どれも、若い親たちにとって、身近で深刻な悩みでした。

その中に、近年の香港らしい悩みがありました。
それは親と10代の子供たちとの間で衝突や争いが起きている問題でした。
「子供が私たちの意見を受け入れてくれない」
「子供たちは聞く耳が持てない」
「話をしてくれない」

香港では特に最近、親子の間にコミュニケーションが途絶えているというのです。
勝ち負けを重視する風潮が一時期香港に流行り、自分と意見が異なる人に攻撃的になることを勧めた思想が若者の間に広まりました。
政治思想の違いを色にたとえ、「自分と違う色の人は仲間ではない」と、敵視するようになったのです。
それが親であっても、同じクラスの友達でも、街を歩いている知らない人でも。
そのために、親子関係がねじれ、いまだに修復できない家庭が多くあるといいます。

写真はイメージ(gettyimages)

香港では大学卒業まで、通常は子供は実家に住むのです。
10代の子供たちとどう向き合えばいいのかが多くの親の悩みになっています。しかし、これは香港だけの問題とは思えません。
10代の子供を育てている家庭なら、共通な悩みであると思います。
実は、このような状況は防げるのです。

大事なのは話し合う習慣です。
子供が小さい時から、話し合うことを日課にすることです。
ただ単に「今日はどうだった?」ではなく、
もっと心の声、頭の中の考えが分かるような話し合いが必要です。
話し合いには子供を理解する目的だけではなく、子供が親を理解する狙いも含めないといけません。
子供に素直に話して欲しいのなら、親も平等に自分の考え方や、悩みなど子供にわかるように話すことが大事です。
多くの親はそれを抵抗するかもしれませんが、それを子供が小さい時から始めて、理解し合う関係を築くのが肝心です。

やり方は簡単です。
「今日はどうだった?」から話すのではなく、
「今日はね、ママが買い物の途中にこんなことがあったの」
「今日はね、ママがちょっと自分に失望したことがあったのよ」と自分の話から始めるのがコツです。
自分の話をした後に、「君はどう思う? 同じようなことを経験したことある?」と感想を聞き、自然に子供の意見を引き出すのです。

一緒にニュースを見て、「どう思う?」から聞くのではなく、
「ママはこう思うよ。でも、そう考えない人もいると思う。あなたはどう思う?」と別の考え方も存在することを否定しない態度を示しなから、子供の考えを引き出すことが大事です。

親が最初から「自分だけが正しい」と言い切ると、親とは話にならない、と思ってしまい、子供たちは自分の意見を言わなくなります。
世の中にはいろいろな信念や意見があるけれど、自分と意見が違っても、その人を敵視する必要はないということを教えるのです。
しかし、小さい時に話し合う習慣がなく、10代になって、我が子と気まずい関係になってしまった親がいます。

思春期にさしかかった子供たちとのコミュニケーションは難しくなります。子供と対立してしまったら、どうすれば関係が修復できるでしょうか?
解決方法として、まずはやはり違いを認め合うことからスタートです。
親は、子供に自分と同じ考え方を要求しないことです。
子供には子供の考えがあります。その考えに同意できなくても、その違う考えを認めないといけません。
その考えが、他人に害を与えたり暴力的になったりしないように、自分の行動に責任を持つことを教えながら、子供の気持ちを大事にすることが必要です。
「君は間違ってる」「ママが正しい」という論調は避けて、できればまず自分の考え方を述べて、「でも、君が違う考え方を持っているのは分かる」と冷静に話すことが大切です。
違う考え方を持ちながらもお互いの人間性を否定する必要はない事を、とことん子供に話すのです。
議論することは喧嘩することではなく、お互いに理解し合う、学び合う機会なんですと教えます。

アグネス・チャンが出した絵本
アグネス・チャンさんが出した絵本

我が家は、いつもいろんな話題で議論します。
例えば、今朝も長男と人間性について議論しました。
長男は人間は基本的にワガママである、と言います。
性善説を信じながらも、彼は「人は生まれながら自分と自分の家族を守る習性がある」と言います。だからモラル以前に、この人間の本来の習性を受け止めないといけないと言うのです。
私は人間には幸せを求める欲求があり、その道は人によって違う。場合によっては自己を犠牲にしても、それが幸せに繋がると思えば、そういう行動をとる人もいると反論しました。
決して答えが出ない議論ですし、両方とも正しいのです。
お互いの考え方をより理解するために、熱く議論しました。
話の中から私が長男から学ぶものもあるし、彼も私の話によって自分の考えを少し変えるかもしれない。
でも、相手を説得するための議論ではないのです。
お互いの考えを知るためのコミュニケーションなのです。
親子で議論をできる時間、機会を作ることによって、
「違って結構、違って当たり前、違うから面白い」と自分と異なった人と付き合うのを当たり前のように受け止め、時には楽しめるようになるのが理想です。

次には生活の中の楽しみを増やし、人生の楽しみ方を親子で見つけることです。
スポーツが好きな子供なら、体を動かすことを一緒にする。
料理が好きな子なら食べ歩きしたり、一緒に料理を作ったりするのもいい方法です。
やったことのないことを一緒に経験することもいいでしょう。
キャンプ、山登り、釣りをしたり、海に潜ったり。家族の絆を言葉ではなく行動で改めて作り上げるのです。
一緒にいる家族の温もり、親の愛を肌や背中で感じていくことです。
子供だけではできない何かを、家族で実現するのもおすすめです。

写真はイメージ(gettyimages)

私の友達は10代の息子が反抗して困っていました。
手に負えないと言うのです。
私はそのお父さんに、息子と一緒にダイビングライセンスを取ることを勧めました。
「自分も一度もやったことがないのに、大丈夫だろうか?」と戸惑いながら、息子さんを誘ってライセンスを取ることにしました。
そのために親子で海に出かけ、レッスンに励み、時間はかかりましたが、2人ともライセンスを取得しました。
今は週末になると親子で潜っています。
最近会った時には、親子関係が改善され、仲のいい親子になっていました。
親子の絆は細くなることはあっても、切れることはないのです。
もう一度その絆を強くすれば、気持ちが通い合うのです。

アグネス・チャンさん=山本倫子撮影

さらにもう一つできることは、目標や夢を家族で一緒に掲げる事です。
ただ「いい大学に入る」「いい就職先を見つける」だけが夢ではないのです。
10代の子供はワクワクする夢と目標が必要です。
とんでもない面白い夢を見ることが、家族だからできるのです。
例えば、我が家では息子たちが最近、一つの家族の夢を掲げました。
「みんなですべての日食を見よう」というのです。
次の日食は来年、その次は再来年、それぞれ違う場所でしか見られないのです。
「今からプランニングして、みんなで観に行こう。不可能ではない」というのです。
なんという素敵な夢でしょう?
全て見に行くことはできないかもしれないが、目標ができて、家族全員、ワクワクしました。
家族で共通の夢を持てば、お互いの違いにエネルギーを注ぐのではなく、夢を実現するためにエネルギーを使うようになるのです。

アグネス・チャンさんの家族写真=山本倫子撮影

私の友達は娘が自分を蔑視していて、コミュニケーションが取れないと相談してきました。
「蔑視?」と私がその言葉にびっくりした。「そうよ、専業主婦のママが恥ずかしいとか。ファッションがダサいとか。リスペクトしてくれない」と友達は怒り心頭です。
私はその友達に娘さんと一緒にボランティア活動に参加することを勧めました。毎週、市場で捨てられる売れ残りの野菜をお年寄りに配る活動です。
最初はお母さんと一緒に出かけるのを嫌がっていた娘さんが、ボランティア活動を続けていくことで、みるみる変わって、本来の優しいお嬢さんに戻りました。
毎週お母さんと楽しく活動するようになりました。
ボランティア活動に励むお母さんの姿を見て、お母さんをリスペクトするようになったようです。
そして自分の夢を相談するようになりました。
将来の目標はその活動をしているNGOに就職することだと言い出し、大学で福祉を勉強すると夢を膨らませています。
笑顔で会話する親子を見て、本当に安心しました。

もう一人のお母さんは厳しいお母さんで、娘さんが大学試験に合格するために毎日のように娘に「勉強勉強」と言い続けました。
残念ながら、娘さんはすべての大学に落ちました。
娘さんは絶望して、「お母さん大嫌い」と言いのこして、家出をしました。
お母さんは後悔しましたが、娘さんにそれをうまく伝えるすべがなく、泣きながら相談に来ました。
私はお母さんに、「日頃、愛していると娘さんに言ったことある?」と聞きました。
お母さんはびっくりして、「ないなぁ」と言いました。
「一度も?」と聞いたら、お母さんは目を丸くして、「ないです」と答えました。
「娘さんを愛しているでしょう?」と聞いたら、お母さんは涙を溢れさせて、「もちろん、愛している」と言いました。
娘さんが住んでいるところを知っているというので、
「それなら、今日、娘さんが好きな食べ物を持っていて、門の外でもいいから、『愛している』と言ってあげてください。一回だけでなく、繰り返し訪ねに行って、繰り返し『愛している』と素直に言えば、娘さんは絶対に理解してくれる」と私は勧めました。

山本倫子撮影

お母さんが本当に行くのかどうか私は予想できませんでしたが、後日、手紙がきました。
「アグネスさんの言う通りに娘が住んでるアパートに行きました。最初はドアも開けてくれませんでした。3回目に行った日、娘さんは泣きながらドアを開けてくれた。抱き合って、泣きました。素直に『愛している』『ごめなさい』と言えました。本当にありがとう。なんで、愛していると言わなかっただろう? 娘は家に戻ってきました。もう受験はさせません。娘は就職して、楽しく暮らしています」と書いてありました。
頭の中で、そのお母さんが娘さんのアパートのドアの外で「愛している」と叫んでいる姿を想像すると、私も涙が出ました。

親子は切っても切れない関係です。
子供は親の愛情をいくつになっても求めています。
考えの違いがあっても、わかりあう方法は必ずあると思います。
諦めずに、愛情を伝える方法を探っていけば、きっと伝わると思います。
飛躍的に変わっていく世の中、子供たちは私たちよりもっと複雑な世の中で生きていくことになります。親の愛情が子供の最後の盾です。
子供がそばにいる時に、ありったけの愛情をかけてあげてください。