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外交と内政、両面で苦労したバイデン政権。2022年に控える課題を点検しよう【後編】

これだけは知っておこう世界のニュース

■原油価格高騰と温暖化対策のジレンマ

中川:前編では、民主主義サミットなどを取り上げました。後編では、経済面の話に移ります。

今回の民主主義サミットでは、世界最大の産油国の1つ、サウジアラビアも排除されました。私が先月、仕事で出張した際にサウジ要人と意見交換して感じたことがあります。それは、バイデン政権の「脱・中東、対中国シフト」という外交政策が、アラブ諸国の中には所与のものとしてあるということです。中東におけるアメリカのプレゼンス低下と、それに伴うアメリカに対する期待の後退も感じられました。

2020年夏にイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が国交正常化するなど、いま中東は経済を中心にダイナミックな動きを見せています。中東の域内の地政学も変わりつつありますし、今後も大きな変化があるかもしれません。

原油価格高騰を受けて開かれた関係閣僚会合
原油価格高騰を受けて開かれた関係閣僚会合=2021年11月、首相官邸、朝日新聞社

最近、原油価格の高騰が世界で大きな問題になっています。日本も11月に、初めての石油国家備蓄の放出を決めました。12月2日に行われたOPEC(石油輸出国機構)プラスの会合では、増産維持が決まり、2022年1月4日に再度会合が開かれます。その中で、サウジアラビアは脱石油依存の経済、脱炭素社会の実現を急いでいます。一方で、石油は急にはなくなりません。将来のビジョンを見据えつつ、今サウジにある石油を最大限のカードにしたい、国家の将来にとって今が勝負どころ、という緊張感が伝わってきました。

この原油価格の問題は、バイデン政権にも大きな影響を与えています。アフガニスタンからの撤退をはじめ、2021年はアメリカが中東から中国やアジア太平洋へ、外交パワーを大きくシフトさせた年でした。しかし、湾岸産油国をないがしろにすると、こういった原油価格の問題などで、アメリカが中東に影響力を及ぼせなくなる。それがアメリカ経済を苦しめる悪循環にもつながっています。

中川浩一さん
中川浩一さん

アメリカは今回、やむなく石油の国家備蓄放出を決定しました。ここにバイデン政権のジレンマがあり、気候変動政策が要の中で、資源開発規制をあまり緩めるわけにもいかない。この点、トランプ前政権の場合、気候変動のパリ協定を脱退し、原油もどんどん国内で消費することができました。一方でバイデン政権は、原油高による国民の生活苦と、気候変動という世界的なコミットメントのはざまで、苦しい状況ですね。

パックン:イスラエルとUAEをはじめとするアラブ諸国の国交正常化は、パレスチナ問題とか人権問題を考えなければ、中東の平和と安定に貢献するものですし、重要な進展だと思います。パレスチナ問題をないにがしろにしていいのか、という疑問は残りますが、トランプ政権下の成果とも言えると思います。しかし、人権問題を気にするのが民主主義の基本的なスタンスの1つです。そこに触れずにイスラエルを民主主義サミットに招待したことは、しこりとして残ると思いますよ。

アメリカのケリー気候変動担当大統領特使、中国の解振華・事務特使、欧州委員会のティマーマンス上級副委員長
国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)での会談を終えて出てくるアメリカのケリー気候変動担当大統領特使(中央)、中国の解振華・事務特使(右)、欧州委員会のティマーマンス上級副委員長=2021年11月、イギリス・グラスゴー、朝日新聞社

温暖化対策、エネルギー政策に関して、中東や中国とのバランスをどう取るかは大変難しい問題だと思います。OPECについて言うと、バイデン大統領はアメリカの石油・エネルギー開発にブレーキをかけて、原油の減産を促す国内政策をしながら、OPEC各国には供給量を上げるように頼んでいる。これは格好悪かったなと思います。(原油産出国である)アメリカは本当は増産できます。もし本当に原油価格を下げたいなら、例えば「1年後にアメリカは増産する」と発表するだけで市場価格の下方圧力になるはずです。

ただ、温暖化対策の方が優先順位が高いと思うので、バイデン政権には温暖化対策を一生懸命やっていただきたいと思います。トランプ前大統領のように、完全に「アメリカ・ファースト」だと、政策に一貫性は出ますし、分かりやすいです。しかし非道徳的なので、私はそれが正しいとは思いません。

■1月の中間選挙、シェールオイル産地では敗北も

中川:アメリカでは2022年11月に中間選挙が控えています。そんな中でバイデン政権が資源開発を厳しくすると、国民の生活は苦しくなります。シェールオイルの産地である東部ペンシルベニア州などで民主党が負ける可能性は大いにありますよね。

アメリカ・テキサス州で昼夜動き続ける、原油をくみ上げる機械
アメリカ・テキサス州で昼夜動き続ける、原油をくみ上げる機械。トランプ政権時代、アメリカはシェールオイルを増産した=2017年5月、朝日新聞社

パックン:負ける可能性は高いですね。ただ、他方で、シェールガス開発を進めるなら民主党が勝てるかというと、そうではないです。シェールガス開発だけで投票先を決める、いわゆる「ワンイシューボーター」がどれぐらいいるかというと、ペンシルベニア州内のシェールガス関連の労働者数は約3万人です。これが全て民主党に流れたら、確かに1、2議席動くかもしれません。しかし、ペンシルベニア州立大学の学生も約3万人いて、シェールガス開発を進めるとなると、リベラルの学生たちは反民主党の方に動きます。

さらに、シェールガス関連の労働者約3万人の中でも、人工中絶問題とか、最近関心の高い教育問題、銃規制問題とかで、民主党を嫌う人も多いです。結果的に、シェールガス開発を進めても、半分ぐらいしか票にならないかもしれません。さらに、民主党のブランドは「環境にやさしい」なので、それを壊すと他州にも大きな影響が出ます。1つの州だけにこびを売るようなことはしない方がいいと思います。

中川:アメリカの内政も課題が多いですね。来年に向けて、アメリカには「3正面」のリスクがあるという指摘もあります。アジア、中東、ロシアです。アメリカは3正面に同時に向き合うことはできないので、うまく分散して来年を迎えないとピンチになると思います。2021年8月のアフガン撤退後、支持率が急落しました。中間選挙を1年後に控える中で、外交でのリスクはできるだけ和らげたいのが本音ではないでしょうか。内政では2つの大型法案のうち、インフラ法案は大統領が署名しましたが、大型経済政策法案は上院での審議が難航しそうですね。

ロシア外交については、ウクライナ問題が喫緊の課題になっています。今月開催されたG7外相会合では、ウクライナが大きなテーマになりました。実は今年2回目の開催で、異例のことです。バイデン大統領とプーチン大統領はオンラインで首脳会談を開き、バイデン大統領はウクライナへのロシア軍隊集結の動きについて強い口調で警告し、制裁も辞さないとの立場を示しました。

ロシアのプーチン大統領
バイデン大統領との会談後の記者会見で、ウクライナ問題などをめぐって欧米メディアとやりとりするロシアのプーチン大統領=2021年6月、スイス・ジュネーブ、朝日新聞社

とはいえ、中国と中東に加え、ロシアにまで本気では対応できません。一方でアフガンでの失態もあり、世界にこれ以上、弱い姿勢も見せられないという苦しい状況だと思います。中東については今、ウィーンでイランの核合意への復帰交渉が行われてます。内政と外交が密接にリンクしていることが、まさにこういう局面で表れていると思います。アメリカ大使、いかがですか。

パックン:きついですね。内政では、新型コロナウイルスのワクチン慎重派が相変わらず減らず、オミクロン株も出てきました。下手をしたらコロナは2022年中に収束しないかもしれません。移民問題もありますね。実はアメリカで大変なことが起きています。コロナ禍にもかかわらず、2021年10月までに約170万人もの不法移民がアメリカに入国しました。国境に壁を作ろうという反発が、また高まります。この問題を担当するハリス副大統領はピンチですし、バイデン大統領も然りです。来年はさらに悪化するでしょう。

■ロシアがウクライナに侵攻したら、アメリカは……

パックン:もう1つはインフレの問題です。賃金が上がり、失業率は下がっているので、アメリカ経済は一見好調に見えます。しかし、例えば国民が毎週買うガソリンは昨年や数年前に比べて高いですし、食料品も高い。レストランを見ても、スタッフの賃上げの分だけサービス料に転嫁されているとか、みんなインフレを実感しています。とにかくバイデン政権に影響を与える要素は盛りだくさんです。

パックンさん
パックンさん

世界の人権問題についても、例えばアフガニスタンについては中国が関係を深めているので、今後はアフガン政権が国民の人権を守っているのかを、アメリカではなく中国が監視し、指導していくことになる。こんな馬鹿げたことはないです。今後「アメリカがアフガンから撤退したから、アフガン人の人権はこんなことになったじゃん」と悲惨なニュースが出てくると、バイデン政権にとっては苦しくなります。

ウクライナについても、この数カ月、国境近くにロシア兵が配備されている。10万人規模の侵攻がありうるという見方もあります。しかし、バイデン大統領は強い表現でロシアをけん制したものの、ロシアがもしウクライナに侵攻したらヨーロッパのアメリカ軍の配置を考え直す、としか言っていません。アメリカ軍がウクライナを守るとは言っていないんです。正直、抑止力のある威嚇(いかく)なのか、分からないです。

中川:そんな中でも、やはりプライオリティは中国にあります。経済面でもTPP(環太平洋経済連携協定)加入問題があり、RCEP(東アジアの地域的包括的経済連携協定)は来年発効します。バイデン政権の実務当局は焦っていて、インド太平洋を覆う新たな経済圏構想に動き出しました。「インド太平洋経済フレームワーク」という名称で、レモンド商務長官、米通商代表部(USTR)高官らが日本やアジア諸国を訪れ、ブリンケン国務長官もインドネシアとマレーシアを訪問しました。要はアメリカと日本を含む(中国を除く)アジアの経済圏構想ですが、新味はないとの見方もあります。TPPについては韓国が2021年12月、参加表明しましたね。

韓国がTPPに加盟する意向を示したことを伝える2021年12月16日付朝日新聞朝刊(東京本社版)の記事
韓国がTPPに加盟する意向を示したことを伝える2021年12月16日付朝日新聞朝刊(東京本社版)の記事

パックン:今日のテーマは「バイデン政権にとって2022年がいかに苦しい1年になるか」になりましたね。確かに苦しくて、特効薬が見つかるような病ではありません。でも、目指す方向性は合っていると私は思います。民主主義サミットで、政治理念の共通する国々と「価値観共同体」を作れたら、それが中国へのけん制になります。

インド太平洋で経済連携を強める計画も非常に大事だと思います。民主主義、資本主義、人権保護主義、環境保護主義を有する「A」という枠組みと、専制主義、権威主義という「B」の枠組みがあって、アジアの国々がどちらに入るのか。中国は「経済力」はあるかもしれませんが、アメリカ側はそれに加えて「イメージ力」と「アイデア力」で優れていると思うんです。

中川:今年の世界のニュースについて、様々な角度からパックンと意見交換できて有意義でした。来年早々には、北京オリンピックの外交的ボイコット問題がありますね。バイデン政権の外交、内政からも目が離せません。来年も引き続きよろしくお願いします。

パックンさんと中川浩一さん
パックンさん(右)と中川浩一さん

(中川さんとパックンさんの写真はいずれも上溝恭香撮影)

中川浩一さんとパックンの対談は12月17日にオンラインで実施しました。

(この記事は朝日新聞社の経済メディア『bizble』から転載しました)