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2021年の世界の動きを振り返る。民主主義サミット、狙いはいいけどやり方がいまいち?【前編】

これだけは知っておこう世界のニュース

■アフガン撤退、中ロを排除……来年に火種残す

中川:パックン、ドラマ「日本沈没」(TBS系)での駐日アメリカ大使役、おめでとうございます。お疲れ様でした。そして今回が7回目のこの対談、来年も継続が決まりました。パックンには世界のニュースを解説する中で、より外交的な視野を広げていただければと思います。

パックンさん(右)と中川浩一さん
パックンさん(右)と中川浩一さん

私は元外交官で、現在はシンクタンク(三菱総研)研究員とビジネスコンサルタントの二刀流をしています。先月はサウジアラビアに出張しました。外務省時代はアラビア語が専門だったので、日本企業の中東進出を促進するため、アラビア語を駆使してアラブのネットワークを構築したいと思います。三菱総研は今年3月に、日本の総合シンクタンク・コンサルとして初めて、中東のドバイに支店を開設したんです。ビジネスパーソンにより役立つ情報をこのコラムで発信したいと思っています。

今年最後となる今回は、2021年の世界の動きを振り返りたいと思います。2021年1月に発足したアメリカ・バイデン政権の外交・内政は、良くも悪くも世界に影響を及ぼしました。その意味で、アメリカの影響力はまだまだ大きいと感じました。

バイデン大統領の就任式前夜、警戒態勢が敷かれた米連邦議会議事堂
バイデン大統領の就任式前夜、警戒態勢が敷かれた米連邦議会議事堂=2021年1月19日、ワシントン、朝日新聞社

バイデン大統領は2月4日、就任後初の外交演説を行いました。その中で、中国やロシアが(民主主義に対比する形で)「権威主義」だと言及し、いきなり外交姿勢を明確にしました。一方、同じ演説の中で、中東で最大の同盟国であるイスラエルには一切触れませんでした。中東での「テロとの闘い」から対中国へのシフトを鮮明にした形です。

さらに4月中旬にはアフガニスタンからの無条件・完全撤退を発表しました。それが結果的に8月中旬、タリバンによる全土制圧と政権奪取を招きました。スピード感を持ってやったのでしょうが、外交において「拙速」は必ずしも良い結果をもたらさない、と感じました。そして12月9、10日には、バイデン大統領主催で「民主主義サミット」がオンライン開催され、改めて中国、ロシアを排除しました。

バイデン政権の特徴の1つは、民主主義や人権など、アメリカの民主党政権が元来大事にしている「価値観」に基づく外交を、1年目から強烈に打ち出したことだと思います。ただ、それが結果を伴ったのかというとそうではなく、むしろ来年に向けた「火種」になるという印象を持ちました。パックン大使はいかがでしょうか。

パックン:本当に駐日アメリカ大使になったら「バイデン政権はよくやっている」としか言えないじゃないですか。でも本当の大使ではないから自由にしゃべらせていただきます。

中川さんが指摘した「拙速」という表現は正しいと思います。バイデン大統領は30年以上、上院議員を務め、外交委員会の委員長もやりました。「外交大統領」と自ら名乗ったわりには、いろいろ不得手に見えるんですよね。

一番分かりやすいのは、アフガニスタンからの撤退です。撤退自体はアメリカ人が望んでいたものだし、どう頑張っても簡単かつきれいに終われるものではないでしょう。それにしても、もっとうまくできたはずだと思います。

演説するバイデン米大統領
演説するバイデン米大統領=2021年11月23日、朝日新聞社

また、前回触れたオーカス(AUKUS=オーストラリア、イギリス、アメリカ間の安全保障協力の枠組み)における潜水艦販売契約も、一番古い同盟国であるフランスのメンツをつぶした側面があります。オーカス自体は必要ですけど、もっとうまくできたはずです。

バイデン大統領もこれらを振り返って、「ぎこちないやり方」、確か英語で”clumsy”(不器用な、ぎこちない)という表現を使い、反省しているようです。

今回の民主主義サミットも同様です。民主主義サミットは必要だと思うんですけど、やり方がちょっと雑で、招待国について批判されています。もう少し招待基準を明確にすればよかったと思います。例えば(各国の社会の自由度を数値化しているアメリカのNGO)フリーダムハウスを使ってもいいから、招待国を一定のスコア以上の国に限定すればよかったと思います。しかし、実際には人権侵害や独裁要素のある国が入っていたりして、批判を浴びました。

■民主主義原則を前面に。明確な意思は評価

中川:フリーダムハウスは各国を「自由」「ある程度は自由」「自由ではない」の3つに区分しています。民主主義サミットに招待された約110の国・地域のうち、「ある程度は自由」「自由ではない」が29カ国も入っていました。「ある程度は自由」は例えばコロンビア、インドネシア、ケニア、「自由ではない」はイラク、アンゴラ、コンゴ民主共和国などです。

民主主義サミットをめぐる米中の意見の違い
民主主義サミットをめぐる米中の意見の違い=2021年12月6日付朝日新聞朝刊(東京本社版)より

パックン:一方で、アメリカ外務省が、NGOであるフリーダムハウスの基準に完全に従うのもどうかと思いますが。先ほど挙げた事例は必要なことだし、アメリカ国内でも受けのいい政策でした。でも、やり方がいまいちだった。それで支持率がぐんと下がったのは間違いありません。

中国をけん制するためにアメリカが主導するクアッド(QUAD=日本、アメリカ、オーストラリア、インド間の安全保障協力の枠組み)とかオーカス、今回の民主主義サミットのことを、中国はとても気にしていますよね。この点、トランプ前大統領は権威主義国家の首脳によく近づいていました。パレードさえやってくれればどこにでも行く、というスタイルでした。

それと比較すると、バイデン政権は民主主義という原則のほか、先進国やG7との連携を貫いている。いろいろ批判はあっても、です。中国とロシアが対抗軸という明確な意思は、それは「火種」にもなりえますが、評価するべきと思います。

中川:今回の民主主義サミットについて、バイデン大統領は選挙キャンペーン中からアイデアに言及していました。実際、民主主義サミットを12月に開催すると発表したのは、8月のアフガニスタンからの撤退前、つまり支持率が下がり始める前でした。一部には「民主主義サミット開催にこだわったのは内政上の理由」という見方がありますが、少し無理があるように思います。どうでしょうか。

パックン:外交政策と内政の関係性を精査する必要は常にあります。内政がピンチになると危険な外交に走るリーダーもいるからです。この先も必ず出てくると思います。その最悪のパターンは戦争かもしれません。最近のアルメニアとアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフをめぐる領土紛争も一例だと思います。

アルメニアからナゴルノ・カラバフ地域に入る途中の道路脇にあった検問所の跡
アルメニアからナゴルノ・カラバフ地域に入る途中の道路脇にあった検問所の跡。砲撃で破壊されたという=2020年11月、アゼルバイジャンのラチン近く、朝日新聞社

この点、今回の民主主義サミットは、ご指摘のように内政から来た動きではありません。数年も前から、イギリスのジョンソン首相主導でD10(democracy 10=G7に韓国、インド、オーストラリアを加えた枠組み)の動きがありました。バイデン大統領はこれに歩調を合わせ、D(democracy)サミットの開催を提唱してきました。アメリカ国内でも結構支持されています。やはり響きがいいんですね。民主主義に反対するアメリカ人はほとんどいませんから。

D10が中国専制主義の拡大をけん制する新たな枠組みになる、中国包囲網を構築できる、という考えもアメリカ人は支持します。民主主義が好きだし、中国は嫌いという偏見も含めて、支持が広がりやすいです。

■民主主義サミットをやるなら国の選別は必要

中川:今回の民主主義サミットを、アメリカ国内のメディアはどう扱ったんでしょうか。実際には、バイデン大統領が冒頭10分間だけプレゼンして、その後は非公開でした。民主主義と言いながら、この点も批判の的になっています。

パックン:「民主主義なら全員参加でいいじゃん」「民主主義ならオープンにやるべきじゃん」ってよく言われます。でも、全部オープンにやる外交で、進展のあるものはほとんどないと思いますよ。もし今回の民主主義サミットが全員参加でいいのなら、国連の枠組みを使えばいい、となってしまう。

今回は、アメリカが民主主義国家としてさらに前に進もうとしているのか、招待国も将来的に民主主義を守っていく姿勢を見せているか。そういうところを見て決めるのが正解だと思っています。

民主主義サミットは発足したばかりです。5年後、10年後に続いているかもわかりません。ただ、このサミットに参加すればいいことがある、と感じる国が増えればいいと思います。例えば「外交、安全保障、貿易で利益を得られる」とかです。その利益のために民主主義の基準を満たそうと考える国が増えれば、アメリカやバイデン政権の狙いは成功したことになるでしょう。夢かもしれないですけど、実現できたらいいなと思います。世界のためになると思います。

中川:そのためには招待国はselective(選択的)じゃなきゃいけない。そうでなければ国連になってしまう、というのは分かりやすい説明ですね。

中川浩一さん
中川浩一さん

パックン:国連では、人権委員会に人権侵害国家が入ることがざらにあるじゃないですか。そうすると「いやいや、あんたが人権の審査をやるなよ」となってしまう。この民主主義サミットではそういうことは許さない、というメッセージだと思います。そのためのメンバーの線引きはやむをえないと思います。

もう1つ、読者のみなさんに是非覚えていただきたいのは「共和制リベラリズム」の観点です。国際関係理論におけるリベラリズムの1つの学派で、共和制、つまり民主主義国家が増えれば戦争が減る、という仮説です。

イエール大学の教授が200年以上の紛争の歴史を振り返ったところ、民主主義国家同士の紛争はほとんど見当たらないそうです。そのメカニズムは分かりやすい。民主主義国家、共和制国家には、西欧の先進的な文化などが共通しているから、そもそも紛争をしない。文化的・経済的な交流もあって、市場リベラリズム的な抑止力もある。

そして、国民が望まないことを国がやらない。なぜかというと、国民が止めることができる、つまり選挙という手段を持っているからです。さらに言えば規範として、意見交換を重ね、実力行使せずに国際問題を解決すべきだという考え方が前提にあります。民主主義制度によって普段から国内の問題を解決しているからです。

もし民主主義サミットが来年効果を発揮し始めるなら、平和的な世界にゆっくり進み出す可能性もあると思います。10年、20年、50年経ってみないと分かりませんが、「ああ、あのときやってよかった」という分岐点になったらいいなと思います。

■中国政府も「中国式民主主義」をアピール

中川:一方で、中国の有力シンクタンクは民主主義サミットの前に、アメリカの民主主義を批判する報告書を発表しました。「アメリカの民主主義は多数者のものか、それとも少数者のものか」など、アメリカの民主主義の問題点を10個列挙しました。さらに「民主主義は全人類の共通価値であり、世界には唯我独尊のモデルはない。アメリカ政府には民主主義サミットを開催するにあたり、自問自答してもらいたい」と批判しました。

こういう報告書を開催前に出してくるあたり、中国がアメリカの動きをいかに気にしているかが分かりますね。これはアメリカにとっては「開催した効果」なんでしょうね。

小学校低学年向け「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想学生読本」の1コマ
小学校低学年向け「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想学生読本」の1コマ。「習おじいさんは忙しい中、私たちの活動に参加して成長を見守っている」とある=2021年9月、朝日新聞社

パックン:私もそう思いますよ。中国が民主主義を標榜(ひょうぼう)することで、民主主義というブランドの価値を世界で共有することになる。さらにブランドを拡大できる。その意味で、アメリカの狙いは間違っていないと思います。

中川:中国政府も「中国式民主主義」を誇示する白書を民主主義サミット前に発表しています。

パックン:でも中国は一党独裁国家です。共産党員でないと参政権がない。共産党員が1億人程度だとすると、(約14億人いる)国民の1割以下しか投票できないことになります。一方で、アメリカのシンクタンクは、アメリカでは富裕層にあたる10%の人々にしか政治への影響力はない、という研究結果を発表しました。でもアメリカの理想は、全員参加なんです。

パックンさん
パックンさん

今回の民主主義サミットで、バイデン大統領はもう少し「アメリカの民主主義にも課題がある」と言ってもよかったかもしれませんね。「アメリカも苦労しているから、民主主義をどう守ればよいのか、知恵を出し合おう」というスタンスにすればよかったですね。

バイデン大統領は民主主義サミット冒頭のスピーチで”Democracy needs champions.”と言いました。日本人から見ると「チャンピオン」ってなんだ、お前は「勝ち組」のつもりか、となりますよね。もしかしたら通訳の方も戸惑ったかもしれません。この場合は「優勝者」ではなくて、代表として戦うことを意味します。

例えば旧約聖書に、ダビデと巨人の話があります。ユダヤ軍とペリシテ軍が敵対している時に、全員で戦ってみんな死んだらもったいないから1人ずつ代表を選ぼうよ、となりました。ユダヤ軍代表のダビデは小柄な男ですけど、ペリシテ軍代表の巨人と戦います。要はこの2人がchampionなんです。バイデン大統領は「民主主義は、そうでない制度との競争において、代表として戦う者が必要だ」と言いたかったんだと思います。

(中川さんとパックンさんの写真はいずれも上溝恭香撮影)

この続きの【後編】はこちらからどうぞ。中川浩一さんとパックンの対談は12月17日にオンラインで実施しました。

(この記事は朝日新聞社の経済メディア『bizble』から転載しました)