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「台湾」「経済連携」で火花散らすアメリカと中国 バイデン政権下の国際情勢を考える【後編】

これだけは知っておこう世界のニュース

中川 前編では、アメリカのバイデン大統領が直面する内政上の課題について触れました。後編では、バイデン大統領が得意とする外交について話したいと思います。

(編集部注:中川浩一さんとパックンの対談は11月4日にオンラインで実施しました。)

■COP26でヒーローになれなかったバイデン大統領

アメリカのバイデン大統領
国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)への参加を総括して記者会見するアメリカのバイデン大統領=11月2日、イギリス・グラスゴー、朝日新聞社

中川 バイデン大統領は10月末からヨーロッパを訪問し、イタリアで主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)、その後、イギリスで国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の首脳会議(最初の2日間)に出席しました。COP26では冒頭、気候変動に関するパリ協定について、トランプ前大統領が脱退したことを謝罪したのが印象的でした。

パックン バイデン大統領はそろそろ、前任者の話を出さない方がいいと思います。前編で話題にしたバージニア州知事選挙も同じですが、アメリカ人はそろそろトランプ前大統領の話に飽きてきています。

本来は、前編でも触れた大型インフラ法案や大型経済対策法案を議会で通してからCOP26に参加し、アメリカのリーダーが戻ったことをアピールすべきだったんです。

バイデン大統領はG20首脳会議で、気候変動について参加国の間で合意をする成果を得てからCOP26に出席する考えだったと思います。COP26ではバイデン大統領がヒーローになるはずだったのですが、蓋をあけてみると、さえない結果という印象が否めないものになりました。

単にアメリカがパリ協定に復帰するだけでなく、バイデン政権には先進国全体で年間1000億ドルの資金支援を行う目標を達成できるよう、せめてロードマップを描ける成果がほしかったですね。手土産が全くないのは残念でした。前任者の謝罪だけではダメです。

G20サミット終了後、総括会見に臨む議長国イタリアのドラギ首相
G20サミット終了後、総括会見に臨む議長国イタリアのドラギ首相=10月31日、イタリア・ローマ、朝日新聞社

中川 G20首脳会合については、この6月にG7首脳会合が開かれた際にも触れましたが、ビジネスパーソンにとっては、扱われるテーマを抑えておくことが世界の動きを手っ取り早く知るコツです。

今回の議長国のイタリアは、「人(people)」、「地球(planet)」、「繁栄(prosperity)」という3つの優先課題を設定しました。G20はG7よりは経済について議論することが中心の会合なので、今回のテーマも、国際保健、世界経済、気候変動、環境、SDGsでした。

このうち、気候変動について、さきほどのパックンが指摘した先進国全体で年間1000億ドルを支援する目標に関連して言うなら、日本からは岸田文雄首相がCOP26の場で途上国に最大で100億ドルを追加支援する考えを表明しました。

■台湾の国連参加で火花 「絶対認めない」中国、支持するアメリカ

中川 G20首脳会合については、今年前半までは、この機会に初の米中首脳会談が開かれるのではないかとの見方もありました。しかし7月には事務レベルで、年内にオンラインで首脳会談を開くことが合意されました。(注:11月16日〈日本時間〉にオンライン会議が実施されました)

だから今回は、中国の習近平国家主席も、またロシアのプーチン大統領もオンライン参加でした。

岸田首相も衆院選と重なった結果、オンラインでの参加ということになり、G20の重みも随分下がってきているという印象があります。

アメリカと中国との関係については、このシリーズでパックンと何度も取り上げていますが、10月の動きで注目すべきは、26日にアメリカのブリンケン国務長官が台湾の国連参加を支持する声明を出したことです。

これに対し、中国は強烈な不満を示し、「絶対に認めない」と猛反発しました。

この中国と向き合う包囲網という切り口では、前回のコラムでQUAD(クアッド)やAUKUS(オーカス)について触れました。今回の声明も、その包囲網の一環だと考えられます。

パックンさん
パックンさん

パックン バイデン大統領は、中国との関係は「競争(competition)であって紛争(conflict)ではない」と強調しています。

バイデン大統領が目指す外交戦略としては分かりやすいのですが、中国からすれば、アメリカが協力してほしい分野に協力する価値があるかどうかは中国の立場から考えるわけで、見返りなしにアメリカの狙いに従うはずはありません。

中川さんが指摘するように、バイデン政権はQUAD、AUKUSという包囲網を構築したことに続いて、台湾の国連参加を支持しました。

トランプ前大統領が蔓延するコロナウイルスを「中国ウイルス」と言及したようなレトリック上の批判はありませんが、バイデン政権の対応を見て、中国が環境問題はアメリカも含むみんなと一緒に取り組もうとはならないですよ。

中国がほしいものをアメリカは何もやろうとしない中で、「融和なしで協力あり」が実現可能なのかが注目ポイントだと思っています。

私は、これからは、G20首脳会議よりも、12月の民主主義サミット(G7+インド、韓国、オーストラリア)の方が中心的役割を果たすような気がします。また、G20首脳会議と同じタイミングで、アメリカとEUが双方の貿易障壁の撤廃を決定しました。

これも結局は中国けん制の一環です。民主主義国どうしが経済安全保障の面で協力しあい、中国をけん制するという構図が、徐々に明らかになってきました。

この先の環境問題に対する取り組みも、もしかしたらそういうことになるかもしれません。鉄鋼をEU、アメリカに輸出したいなら、低炭素の鉄鋼を製造しないとだめだよとか、そういう条件を押し付けることになるのではないかと思います。

中国は石炭を使い続けたい、石炭の発電から卒業したくないならば、われわれの側が炭素制限をつけて、関税制度を考えていこうということになります。

そうすると、中国は競争力を失って、必然的に石炭火力発電から、天然ガス、原子力、クリーンエネルギーにシフトすることになるのではないかと思います。

アメリカとしては中国に「協力してもらう」というより、「協力させる」方向に変わるかもしれないと、一連の動きをみて思いました。

■「人権」に目をつむるアメリカ 価値観外交の難しさを露呈

中川浩一さん
中川浩一さん

中川 今回のG20首脳会議には、中国、ロシアはオンライン参加でしたが、12月の民主主義サミットを控え、バイデン政権は民主主義と人権という「価値観外交」を強調し、民主主義対専制主義の場になる可能性はありました。

この点、G20メンバーにはトルコやサウジアラビアなど、バイデン政権にとっては人権問題を巡って中国以外にも「やっかい」な国が含まれています。

トルコのエルドアン大統領は、反政府運動に関与した疑いで拘束された実業家の釈放をアメリカなど10か国が求めたことに激怒し、それらの国の大使をトルコから追放する決定を先日下しました。

その後、アメリカは矛先を収め、G20ではバイデン大統領はエルドアン大統領と首脳会談を行いました。

アメリカとトルコとの関係はけっこう繊細ですけが、今回はアメリカが折れた形でトルコと向き合いました。これを見ても、人権という価値観だけで外交を展開する難しさが分かると思います。

サウジアラビアについても、2018年に政府を批判しているサウジアラビア人ジャーナリスト殺害事件(カショギ事件)がありました。バイデン政権は2月、サウジアラビアのムハンマド皇太子を事件の首謀者として批判しつつ、皇太子個人への制裁は見送りました。「価値観外交」にもきしみが見えますね。

パックン そのとおりだと思います。トルコはNATOのメンバーであり、NATOの中でアメリカの次に規模の大きい陸軍を持っています。アメリカにとっては安全保障上で欠かせない国です。

ヨーロッパと中東の間に位置しており、地政学的にも重要です。ヨーロッパ移民問題、クルド問題、シリア問題しかり、トルコの協力なしにアメリカの外交はうまく進まないと言えるでしょう。

だから多少は目をつむらなきゃいけない問題もあります。

同じことがサウジアラビアにも言えますね。アメリカの民主党出身の大統領は、オバマ氏もバイデン氏も、みんな人権を重視すると言って当選しています。

だから中国のウイグル問題に口を出していますが、一方でクルド問題ではトルコに口を出さないとなると、ダブルスタンダードになる。民主党の大統領は、この矛盾を抱えながらの政権運営になるわけです。

この点、トランプ前大統領は、他国の内政には一切干渉しませんでした。何をやってもいいよと。ある意味、トランプ氏の方が一貫性があったかもしれません。バイデン大統領は、言動不一致が目立ちますが、やむをえない面も多いと思います。

中川 気候変動に関するパリ協定については、バイデン大統領はCOP26で離脱したことを謝罪しました。

実は今回、G20首脳会談の場で、イランの核合意にアメリカが復帰することについても話をしました。アメリカとイギリス、フランス、ドイツの4カ国首脳が会談し、「危険な緊張が激化するのを避ける唯一で確実な方法は、交渉妥結のために誠実に努力する方針に戻ること」と強調し、イランに対してプレッシャーをかけています。

イランの核合意からの離脱については、バイデン大統領は謝罪はしていません。イラン側も8月に強硬派の政権が誕生し、ワシントン筋の話によると、お互い核合意に戻る道はますます閉ざされつつあるようです。

バイデン大統領はイスラエル首脳との会談では、外交以外のオプション、つまり制裁の更なる強化もありえることを示唆しました。その一方で、6月以降中断となっていた核合意への復帰交渉が11月29日には再開されることになりそうです。

しかし、私はこれはパフォーマンスに過ぎないと見ています。完全にドアを閉じることへの抵抗は、まだすべての当事者にあるようです。バイデン政権は中国シフトやアフガニスタン問題、それにアメリカ内政の問題もあり、イランに時間をかける余裕はないのが現実です。しばらくは大きな決断は下さずに、時間稼ぎをしてくると思います。

パックン いまのバイデン政権の置かれた状況をみると、イランの核開発が本当に進んでしまい、ヨーロッパ各国に危機感が高まるまでは動きがないかもしれません。

イランの核合意はアメリカ国内では「罠」なんです。イランが核合意に復帰したからといって与党が得られる票は少ないですが、反対に復帰しないままだと得られる票が増えるんです。

TPPもイランの核合意も、共和党との関係を考えると、バイデン政権が復帰することは内政上も困難だと思います。

■アメリカ抜きのRCEP発効へ 中国の存在に懸念強めるバイデン政権

中川 TPPへの中国、台湾の加盟申請問題は前回話しました。日本政府は11月3日、RCEP(地域包括的経済連携)について批准をすでに終えている日本や中国など10か国で2022年1月1日に先行発効すると発表しました。

RCEPはもともとアメリカ抜きの枠組みですが、署名国の経済規模は世界のGDPの3割を占めます。経済安全保障上、中国が入ってアメリカが入らない協定がアジアを中心とした地域で動き出すことはバイデン政権にとっても悩ましい問題になりそうですね。

パックン バイデン政権は大変懸念していると思います。一本取られた感じだと思います。中国がRCEPを通じて日本との貿易環境を整えるようになれば、中国がTPPに加わる必要性が見えてこなくなります。

また、TPPには反するルールを維持していてもRCEPには参加できるので、中国の主導でRCEPがアジア経済の中心的な役割を果たすようになったら、TPPを含む自由貿易の大きな後退にもなりかねません。

中川 またもASEANが「草刈り場」となりそうですね。TPPにもRCEPにも両方参画しているのがベトナムやマレーシア、ブルネイ、シンガポールです。

バイデン大統領は10月、ASEANとオンラインで首脳会議を開きました。毎年10月末は、このASEAN関連会議が開かれるのですが、いろんな枠組みがあって、ASEANメンバーだけのもの(今回はミャンマーが欠席したことが大きなニュースになりました)、それにASEAN+3(日本、中国、韓国)もあり、また東アジア首脳会議(EAS)といって、アメリカ、ロシア、インド、ニュージーランドなども加わる会合もあります。

ASEAN各国とのオンライン会議に出席後、取材に応じる岸田文雄首相
ASEAN各国とのオンライン会議に出席後、取材に応じる岸田文雄首相=10月27日、首相官邸、朝日新聞社

アメリカとASEAN、日本とASEANの会議も開かれています。私も外務省勤務時代は、この会議のために出張していました。枠組みが本当にたくさんあるのですが、逆に言えば、それだけ各国がASEANを重視している証しだと言えます。

パックン とにかくアメリカはRCEPがTPPを凌駕してしまうことを恐れているのです。そのためにも、アメリカがTPPに復帰することが重要なのですが、お話したとおり、内政上、それは大変厳しいのが現実ですね。(中川さんとパックンさんの写真はいずれも上溝恭香撮影)

(この記事は朝日新聞社の経済メディア『bizble』から転載しました)