1. HOME
  2. World Now
  3. 世界の関心を効率的に知る方法。G7首脳会合をわかりやすく読み解こう【前編】

世界の関心を効率的に知る方法。G7首脳会合をわかりやすく読み解こう【前編】

これだけは知っておこう世界のニュース 更新日: 公開日:

いま海外で起きていること、世界で話題になっていること。ビジネスパーソンとして知っておいた方がいいけれど、なかなか毎日ウォッチすることは難しい……。そんな世界のニュースを、コメディアンやコメンテーターとして活躍しているパトリック・ハーラン(パックン)さんと、元外交官の中川浩一さんが、「これだけは知っておこう」と厳選して対談形式でわかりやすくお伝えします。

■これからのビジネスに必要な「地政学」。この視点を持って世界のニュースを見よう

中川 パックン、今日は6月に起きた「世界のニュース」というドラマの続きを見ていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

対談する中川浩一さん(左)とパックンさん
対談する中川浩一さん(左)とパックンさん

私は、世界のニュースは、ただ漠然と見る、読むのではなく、その「視点」が重要だと思っています。特に、ビジネスパーソンにとって、これからのビジネスの世界を生きていく上で、「三種の神器」と言われるものがあります。それは、「地政学」、「エネルギー革命」、「DX」です。これらは企業のトップの方も大変重視しておられます。

1つ目の地政学は、世界の国家間の関係、地域情勢が国家に与える政治的、経済的、軍事的影響を俯瞰(ふかん)すること。

2つ目のエネルギー革命は、今まさに旬の「カーボンニュートラル」、「脱炭素社会」が世界の潮流となる中で各国が再生可能エネルギーも含め、どういうエネルギー政策をとっていくのかということ。

3つ目のDXは、広義では、IT、AI(人工知能)、半導体、サイバーなどの先端技術も含めています。

中川浩一さん

いずれも、その分野だけで何冊も本が出ていますし、読者の皆さんがどの業界で働かれているかで、3つのプライオリティ(優先順位)は変わると思いますが、前回取り上げたユニクロの綿製シャツがアメリカへの輸入を差し止められた問題など、いまや日本国内だけでビジネスが完結することはない。

日本国内のことにしか関心を持っていないとビジネスでも痛い目に合うということだと思いますので、世界の動き、特に「地政学」は大事になっています。

この対談コラムでは、地政学を中心としつつも、この3つの視点が同時に学べるように意識していきたいと思います。

■G7首脳会合を読み解くコツ。扱われたテーマ、首脳宣言をチェックしよう

中川 6月のトップニュースは「G7首脳会合」です。また、6月末にはG20外相会合も開催されたので、このG7、G20について取り上げたいと思います。

英国コーンウォールで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)は13日、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」などを盛り込んだ首脳宣言を採択して閉幕した。人権などの分野でも権威主義的な姿勢を強める中国の問題点を指摘。G7を中心に「民主主義国家」が一致して対抗する姿勢を明確にした。G7が閉幕 首脳宣言に「台湾海峡」の文言、中国を牽制:朝日新聞デジタル

G7サミットのセッション
G7サミットのセッションに臨む(左端から時計回りに)メルケル首相、マクロン大統領、ジョンソン首相、バイデン大統領、トルドー首相、ドラギ首相、フォンデアライエン欧州委員長、EUのミシェル首脳会議常任議長、菅義偉首相=2021年6月11日、イギリス・コーンウォール、朝日新聞社

G7首脳会合については、どういうテーマが扱われたかを知ることが、その年の国際社会の関心を知る効率的な方法です。

私は外務省時代に、仕事でもG7に関わりましたが、そのテーマ設定を大変参考にしていました。

今年の首脳宣言を見ると、コロナの関係で保健、経済・貿易、先端領域、これは先ほど触れたDX、サイバー空間、宇宙空間も入ります。それから気候変動、ジェンダー平等、そして、地政学では中国、ロシア、北朝鮮、ミャンマー、イラン、インド太平洋。このようにG7の声明を見ると、今の国際社会でホットなテーマが分かるので、そういう見方をするのがコツかなと思います。

パックン 中川さんの指摘した3つの視点は私も大事だと思います。G7については、G20や国連と違って、同じ価値観を持った先進国のメンバーシップなので、正確に言えば、先進国の今を表していると思います。

パックンさん

「世界の今」とか、「発展途上国の今」とは少し違って、先進民主主義国の集まりであるG7でなければ「ジェンダー平等」などはアジェンダにはならないでしょう。

1つのスナップショット写真として、今、G7、主要先進国は、何をやって、何を考えているのか、何を優先しているのかがこの声明で分かります。

日本のビジネスパーソンは、国内で頑張っていても、このG7の国とつながりは必ずあります。海外に発信しよう、飛躍しようと思えば、必ずこのG7が重要な位置を占めているでしょう。

でもこれだけに集中して、中国の姿勢とか、ロシアの姿勢とか、あるいは発展途上国、ASEANの姿勢を無視してしまったらそれも偏った意見になるので、ちょっと注意しなければならないと思います。

中川 そのとおりだと思います。しかし、G7は、そもそも去年は、ホスト国はアメリカでしたが、トランプ前大統領のもと、アメリカでは開催されませんでしたね。

パックン トランプ前大統領時代のG7は問題が多かったと思います。昨年は開催されませんでしたし、その前はトランプ前大統領がロシアのG7への復活(いわゆるG8)を呼びかけたり、首脳宣言が発出されなかったりしたこともありました。

中川 今回はそういう意味では、いろんな評価はあると思いますが、やっぱりバイデン大統領が主役で、しかも初外遊でしたね。バイデン大統領は、多国間協調、国際協調主義を主張しましたが、それだけでも、だいぶ変わったと思います。

アメリカのバイデン大統領
アメリカのバイデン大統領=朝日新聞社

でも、私はバイデン大統領は少し中国を意識しすぎて、“G7の「民主主義」対中国の「覇権主義」”という構図を鮮明にしすぎたのではないかと心配していますが、パックンは今回のバイデン大統領のパフォーマンスをどう見ていますか。

■G7に反発する中国。中国とアメリカの駆け引きの裏側は

パックン バイデン大統領は、中国に対する強硬な姿勢はトランプ前大統領から受け継いで、それをそのまま貫こうと公言しているので、びっくりはしませんでしたが、それがこの先、環境問題とかそれこそパンデミック対策とか、こういう中国と協力しなければいけないところで、一方でけん制しながら、一方で協力しなければいけない、難しい綱渡りというか、バランスをとるのは結構「絶妙な技」だと思うんです。これができるかが今後の注目点です。

でも、私はこの半年のバイデン政権の動きを見ると、強硬なカードを先に切っておいて、後で緩和するスタイルにしていると思います。これは評価していいかな、と。

私は、中川さんが懸念するように、強く出過ぎたとは今のところ思っていないです。中国がG7の首脳宣言に反発して、台湾に対する威嚇行為を少しは増やしていますが、一線を越えることは今のところしていません。

中国はパフォーマンスというか、ポーズはとっていますが、今のところはバイデン氏側が引き金を引いたというようなことにはなっていません。

今回のG7首脳会合の全体の印象としては、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」から、「みんなで協調しよう」とのスタンスに戻っただけでも結構功績はあるかなと思います。これといった花形選手の登場はあまりなかったと思いますが、とりあえず安全運転に戻しただけでも評価できると思います。

中川 日本の菅義偉首相は初の国際外交の舞台でしたが、パックンから見て菅首相のパフォーマンスはどう映りましたか。

対面によるG7サミットを終えて会見をする菅義偉首相
対面によるG7サミットを終えて会見をする菅義偉首相=2021年6月13日、イギリス・コーンウォール、朝日新聞社

パックン 菅首相は、就任当初から「外交」はそんなに期待されていなかったと思います。首相候補になったころから、興味ある分野は割と限られていて、そこにすごく注力するし、「仕事人」として頑張るけど、外交が得意とは一人も言っていなかったと思います。

私は今回のG7では、予測通りのパフォーマンスだったと言ってもいいかなと思います。安倍晋三前首相は、私はいろんなところで批判していますが、首相としては多数の国を訪問されているし、首相としての訪問国数は歴代1位ですよね。

国際社会において日本のプレゼンスを増そうとするため、すごく頑張られたように思えます。アメリカ議会両院での演説も良かったし、国連での演説も良かった。

今は、日本の国民感情的に「どうかなあ」と評価されると思うんですけど、2016年のリオディジャネイロ・オリンピック閉会式にマリオ姿で登場したこととか、国際社会ではありだと思いますよ。

リオデジャネイロ・オリンピックの閉会式で、人気ゲームのキャラクター「マリオ」に扮して登場した安倍晋三前首相
リオデジャネイロ・オリンピックの閉会式で、人気ゲームのキャラクター「マリオ」に扮して登場した安倍晋三前首相=2016年8月21日、朝日新聞社

菅首相は正直なところ、G7に関連して、アメリカのメディアではほとんど触れられていませんでした。日本国内のインターネット上ではいろいろ騒ぎにはなりましたが、海外では「恥ずかしい」という声も聞かないし、活躍もあまり目立たなかったです。

まあ、不得意分野の外交をどうするか、これからの力量が気になるところです。もちろん、菅首相が今回、オウンゴールをやってしまったとかそんなことはないです。でも前任者と比較するとプレゼンスがいまいちでしたね。

中川 首脳宣言は、「シェルパ」と呼ばれる各国政府代表が事前交渉をします。日本では外務省の経済担当のナンバー2(外務審議官)がそれを担います。 文書については、今回も台湾を明記するなど、そこは日本としても裏方ではうまくやっています。首脳のパフォーマンスは外務省ではどうしようもないところがあります。

もう1つのG20は、首脳会合は秋(10月30日予定)にありますけど、今回はG20「外相」会合がイタリアで開催されました。G20首脳会合では、バイデン大統領と習近平国家主席が会うか会わないかが注目されますけど、今回、中国の王毅外相はオンラインでの参加だったんです。これに対しアメリカのブリンケン国務長官は現地入りしました。秋の米中首脳会談の実現に向けて、もう米中の駆け引きが始まっているんです。

2019年11月に名古屋市で開かれたG20外相会合で、写真撮影に臨む各国の外相ら
2019年11月に名古屋市で開かれたG20外相会合で、写真撮影に臨む各国の外相ら=2019年11月23日、名古屋市中区、朝日新聞社

パックン 私は中国は必死になっていると思いますよ。トランプ前政権下のように、欧米諸国の間に亀裂が入っているわけではなく、G7が一致して、中国の提唱する「一帯一路」に対抗するような形で、首脳宣言も出ました。

また、G20にも入っていない途上国への支援、ワクチン支援、温暖化対策、インフラ整備とか、そういうところにG7もお金と情熱をかけるぞと宣言しました。今までは中国は競争相手のいないフィールドで戦っていたように見えたんですけど、そこに欧米が手を組んで戻ってきて、対抗するようになったので、中国は面白くないはずです。

中川 中国にとっては、「トランプ時代」の方が良かったということですか。

パックン 全然良かったと思いますよ。トランプ前大統領時代は、レトリックはいろいろありましたし、アメリカが中国に関税もかけました。しかし、アメリカの貿易赤字は増えました。

G7のメンバーでない中国にとっては、G20外相会合だけでも、やっぱり自己主張しないと、ちょっと肩身が狭くなっている気がします。もちろん、中国は自分が世界一の大国だと考えてるだろうし。計算の仕方次第では、GDPがアメリカを抜いたとか強みがありますけど、トランプ前政権に比べれば、バイデン政権の方が手ごわいと感じているでしょうね。

中川 中国の専門家の方がおっしゃっていましたけど、今回、バイデン大統領がジュネーブでロシアのプーチン大統領と会いました。それは中国にとっては、バイデン大統領が習近平国家主席より、プーチン大統領を選んだということで、中国は今孤立感を深めている、と。

中国の習近平国家主席
中国の習近平国家主席=2019年12月、朝日新聞社

中国にとってはロシアは絶対に味方につけなければならないので、中国はロシアには結構ラブコールを送って、もっと中ロ関係を強力にしていきたいという思いでいる。しかし、プーチン大統領はあまり乗ってこない。そのような中で、バイデン大統領がプーチン大統領と会った。

「アメリカ、ロシア、どちらが勝者」みたいなタイトルの記事もメディアで見ましたけど、パックンってロシア人にはどんな印象がありますか。プーチン大統領と会ったバイデン大統領の狙いはどこにあるのでしょうか。

■バイデン氏VSプーチン氏。米ロ首脳会談でのそれぞれの思惑とは?

バイデン米大統領とロシアのプーチン大統領は16日、ジュネーブで開かれた首脳会談で、両国が新たな軍備管理協議を始めることに合意した。サイバー攻撃対策も協議し、対立が続いた関係改善に踏み出した。ただ、人権問題などでは議論は平行線だった。米ロ首脳、融和ムード演出 軍備管理に向け新協議へ:朝日新聞デジタル

パックン 僕の好きな歴史学者であるダン・カーリン氏が言うには、ロシア人は「西欧人じゃないヨーロッパ人」と言っています。

ここでいう西欧諸国というのはフランス、イギリス、アメリカ、ドイツ、スペインとかですけど、それに比べると、ロシアは文明開化をちゃんと味わっていない。民主主義が根づいたことも1回もないし、帝国主義から共産主義に切り替わったんですけど、それも革命で変わった。革命は現代国家の定義としては大事ですけど。

その国民による革命があったとしても、そのあとに導入された共産主義が、西欧国家が体現している国家とは一味も二味もちがうんじゃないか。だからロシア人は見た目はイギリス人、フランス人とあまり変わらないんですけど、ハートは全然違うんだよ、と。

ロシア正教と、カトリック・プロテスタント教の違いかもしれないし、その歴史的な違いかもしれないし、でもロシアの皆さんが普通のG7、いまはD10(民主主義国家のトップ10)と定義を変えようとしてますけど、そういうD10の皆さんと価値観が一緒と思うのは間違いだと私は思います。

クリミアを2014年にロシアに併合して、国内でプーチン大統領の支持率はすごく高まりました。様々な暗殺とか、弾圧とか、情報統治とか、そういうことがあってデモは起きるんですけど、プーチン大統領への支持率が案外高いと言うのは、西欧諸国では見られない現象なんですよね。難しい国なんです。

バイデン大統領との会談後、記者会見するロシアのプーチン大統領
バイデン大統領との会談後、記者会見するロシアのプーチン大統領=2021年6月16日、スイス・ジュネーブ、朝日新聞社

だからアメリカも、少なくともロシアが中国の側につかないように、ロシアとうまくやる必要があるんです。私は、中国はロシアとは軍事同盟は絶対結べないと思います。不干渉とか、攻撃された場合に守り合うとかそういう形はありえますけど、日本とアメリカみたいな、しっかりとした安保条約のようなものは一切ないと思います。

ただ、中国は、なるべくロシアが西欧につかないように、アメリカは、ロシアがなるべく中国につかないようにしながら、それでも自分の国益を追求しながらつきあっていかなければならないんです。

そういう双方に都合よく見られるロシアはもはや大国じゃないんです。天然ガスや石油の輸出で成り立つロシアは、これからの脱炭素社会では、そのあたりの武器もなくなり、どんどん影響力が低下していく可能性もあります。

でも今のところは軍事大国であってサイバー大国であって、ルールを守らないから強いというのも間違いなくあります。ほかの国が大国の選挙に介入するとは普通は思わないじゃないですか。ありえないことじゃないですか、でもやってしまうんです。こういうスタンスが本当の国力より大きく見せているんです。

中川 バイデン大統領はなぜ今回プーチン大統領と会ったかというと、中国、ロシア双方と、いわゆる二面衝突を避けたいという思いがあったからだと思います。それでバイデン大統領が、ロシアが中国に行かないようにプーチン大統領と会ったとしても、やはり会談では、反体制派のナワリヌイ氏の人権問題を厳しく言及しました。

中川浩一さん

当然プーチン大統領は拒否しましたが、そういう駆け引きはありながらも、マクロな視点で考えると、今回はプーチン大統領と会うメリットがあったということでしょうか。

パックン 間違いなくあったと思います。ロシアがアメリカにサイバー攻撃を行ったばかりで、やってはいけない行為の直後に、ご褒美だしてるんじゃないの?人質を取った人に身代金を払っているようなもんじゃないかという批判も、アメリカ国内で特に右派からあります。

でも、バイデン政権の答えは、「対立国と話さないで解決することはできない、とりあえず話そう」ということです。それでバイデン政権の見せ方としては、「トランプ時代」よりははるかに、アメリカの対ロシアの姿勢をパフォーマンス上で見せているのが分かります。

実際の首脳会談の現場では、プーチン大統領が先に部屋に入って、そのあとにバイデン大統領が着いた。かつてトランプ前大統領と北朝鮮の金正恩委員長の会談の際には、同じタイミングで入ってくる演出がありましたが、アメリカと北朝鮮が同列ということになり、ありえないんです。今回も待たせる方が上位、それがアメリカということで、その条件もロシアが飲んだのが大事なんです。

中川 プーチン大統領は遅刻の常習犯として有名です。たとえば安倍前首相がロシアを訪問して、プーチン大統領と会談したときも、プーチン大統領が3時間ぐらい遅れてきたこともありました。メディアの方も、新聞の締め切りとの関係でいつも苦労されていました(笑)。

パックン プーチン大統領は、犬がすごく怖いドイツのメルケル首相の前に、自分の愛犬、でっかいラブラドルレトリバーを連れてきたんです。このように相手にマウンティングするのがプーチン大統領のスタイルなんですが、それを今回、アメリカがさせなかったのがポイントだと思います。

パックンさん

ジュネーブの会談場所の庭はきれいなので、本来なら2人でゆっくり散歩するシーンがあってもいいけど、それはなしでした。食事もなしで、記者会見は別々でした。話し合ってはいるけど、対立しているのは間違いないというのは演出からもうかがえました。

中川 プーチン大統領の立場に立ってみると、今は国内の支持率が下がっていて、今回は遅刻せずに行きました。冒頭の地政学を考える上で、このアメリカ、中国、ロシア、それぞれ内政もあり思惑も複雑に絡み合ってます。この3か国の関係は引き続き注視していきましょう。(対談時の写真はいずれも上溝恭香撮影)

(この続きの【後編】はこちらからご覧ください)

(この記事は朝日新聞社の経済メディア『bizble』から転載しました)