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オードリー・タンにあこがれて 世のために自分磨きに励む台湾Z世代

World Now
台湾のデジタル担当相オードリー・タン氏の似顔絵の前で撮影に応じる徐遠志さん=1月19日、台北市、石田耕一郎撮影

大手ネット通販会社の台湾法人に勤める徐遠志さん(23)は、近く会社をやめ、アメリカの大学院に進む。昨年1月に名門の台湾大を卒業後、会社をやめるのは、これでもう、3回目になる。

仕事をこんな短期間で変えることに後ろめたさは感じていない。留学先で学ぶのは、利用者目線に立った商品づくり。「世の中には学びたいことがたくさんあります。私は自分の能力を高め、世の中の役に立ちたいんです」。リサイクル社会の実現や食品ロスの削減を思い描く。

3人姉弟の長女で親思い。文武両道を目指して、大学では女子ラグビー部にも入った。でも、2年生になり、企業のインターンに参加するとき、衝撃を受けた。訪ねた企業の担当者から「(勉強の他に)何ができるの?」と聞かれ、何も答えられない自分に気づいたのだ。「面接で泣きそうになりました」

徐遠志さん=1月19日、台北市、石田耕一郎撮影

大学には、ITを使った教育ビジネスを起こした同級生もいた。ラグビー部をやめ、プログラミングや機械学習(マシンラーニング)を必死で学び始めた。実習先のソフトウェア会社で経験を積んだ。それでもあき足らず、経営マネジメントを学ぶため、オランダの大学に交換留学し、勉強に明け暮れた。

台湾に帰郷後の2020年春、若者たちが行政のウェブサイトの改善に取り組むプログラムを知った。行政の刷新や若者の政治参加が狙いで、しかけ人はオードリー・タン氏だった。

「あこがれのタン氏と活動できるなら」。応募を即決した。夏休みにあった2カ月のプログラムでは、社会保険の手続き申請サイトを担当。役所の窓口で退職者たちに聞き取りもし、知恵を出し合った。タン氏と間近で接するチャンスを得て、徐の意識はさらに高まった。

「タン氏はよりよい社会のために、自分の『現在地』がどこで、将来の『目的地』やそこへ向かうために必要な行動が何か、はっきり理解しています。私はまだ模索中ですが、タン氏のようになりたい」

台湾のデジタル担当相オードリー・タン氏(中央)を囲み、プログラムの参加者とともに記念撮影に応じる徐遠志さん(2列目の左から3人目)=タン氏事務所のサイトから

台湾のZ世代には特徴が二つある。公共政策への高い関心と、自身の能力を高められているか、と気にする焦燥感だ。

中国からの統一圧力にさらされる台湾では14年、急進的な親中政策をとった国民党政権に反対する「ひまわり学生運動」が起きた。タン氏も参加した運動では、大学生らが国会にあたる立法院を占拠し、政策を撤回させ、後の民進党政権の誕生にもつながった。

台湾大の黄長玲教授(政治学)は「若い世代は、上の世代の成功体験を知っている。台湾の民主主義はまだ歴史が浅く、自ら政治を変えられるという励みになっている」と言う。政治大学の調査では、20年の総統選で、20代の投票率は推計89.63%で、世代別では60代以上に次いで高かった。

黄教授は、住民投票の存在もあげる。食の安全や原発、環境政策など暮らしに近いテーマが対象になり、政権は投票結果に反する政策を2年間はとれないしくみだ。若者にとっては、身の回りの疑問に賛否を示せる機会にもなっている。

一方で、大学の新卒者の平均月給は12万円(20年)にとどまり、19年の年間労働時間も2028時間(日本は1644時間)と長い。世界をリードする半導体産業などでは好待遇が期待でき大るが、入社のハードルは高い。そんな現実が、若者を「自分みがき」へとかり立てる。

ドイツの大学院で学ぶ凌悦庭さん(23)もそんな一人だ。

凌悦庭さん=本人提供

16年に台湾科技大学のデザイン学科に入学。これまでに、音と光を発する女性用の防犯ブザーや犬用歯ブラシ、猫用ソファなどを考案した。台北市のコンクールで賞を得たこともある。19年にやはり、タン氏のプログラムに参加した。

20年に科技大を卒業。入学時には「科技大出身なら就職にも役立つ」と思っていたが、進路に選んだのは、ドイツへの留学だった。自分にはビジネスマインドが足りない。だから、企業のロゴやサイトのデザイン、マーケティングなどを学び、現地のデザイン会社でのインターンも続ける。中国語に加え、ドイツ語や実習先で求められる英語も操り、多くのアプリを使いこなす。

凌悦庭さんがデザインした防犯ブザー=本人提供

修了後は、実習先にそのまま就職する予定だ。「ユーザー目線を大事にする社風にひかれて。企業目線ではなく、誰かのために役立てる商品を作りたいです」

ドイツでは、インドや中国、メキシコやチリなど多様な同世代の学生たちから、刺激を受けてきた。「みな、自分が将来、何をしたいのか、そのためにはいま、何をしなければならないのかをはっきり見すえている」