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目の前のロシアに対しても一枚岩とはほど遠いヨーロッパ 中国に対してはなおさらだ

揺れる世界 日本の針路
ウクライナの首都キエフであった市民が対象の軍事訓練で、指導にあたった元軍人たち
ウクライナの首都キエフであった市民が対象の軍事訓練で、指導にあたった元軍人たち=2022年1月30日、金成隆一撮影

バイデン米大統領は18日、プーチン大統領が軍事侵攻の「決断を下したと確信している」と明言した。ロシア国防省は15日、ウクライナ国境近くに展開した部隊の一部が撤収を始めたと発表したが、米国は「ロシア軍がさらに増強されている」と反論した。親ロシア勢力が一部を支配するウクライナ東部では、ウクライナ政府軍と親ロシア勢力がともに「攻撃を受けた」と主張している。親ロ派保護の名目でロシア軍が進駐する可能性も指摘され、細田氏は「緊張が新たなステージに入ったことがうかがわれる」と語る。

米国は昨年末からメディアを通じ、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性について警告を続けてきた。ウクライナ側が自国民に「パニックになる必要はない」と呼びかけるほどだった。専門家の間では、昨年夏にアフガニスタン撤収作戦で混乱を招いたことへの反省や、サイバー攻撃などを交えたロシアのハイブリッド戦争に対抗する狙いなどがあるという声が出ている。

細田氏は、ドイツやフランスが引っ張る欧州連合(EU)の戦略について「ノルマンディー・フォーマットなど欧州独自の外交交渉アプローチを維持している」と説明する。「ノルマンディー・フォーマット」とは、ドイツ、フランス、ロシア、ウクライナによる4カ国協議の枠組みだ。

そのうえで、欧州として、中国の一帯一路に対抗するインフラ支援戦略である「グローバル・ゲートウェー」の着実な運用や、欧州有志国による即応部隊創設とその行動ルールである『戦略的コンパス』の策定も目指しているという。細田氏は「欧州は、ソフトパワーとハードパワーの双方を兼ね備えた戦略的自律性の確保を目指している」と語る。

フランスのマクロン大統領やドイツのショルツ首相は相次ぎ、ロシアやウクライナとの首脳外交を展開している。細田氏は「独仏はEUを代表して、米国とロシアだけで、ウクライナの運命を決めてしまわないよう腐心している。大国間の融和政策のせいで、切り捨てられ、欧州自身が欧州のことを決められなくなるかもしれないという危機感があるからだ」と語る。

ただ、現状では経済制裁をにおわせながらの外交で、仲介は進んでいない。マクロン大統領は7日の仏ロ首脳会談で一致点があったとしたが、ウクライナは評価しなかった。

ドイツも第2次大戦後の多国間主義・非軍事主義を重視する。ショルツ政権は旧東ドイツの野砲を他国経由でウクライナに渡すことを拒んだ。代わりに軍用ヘルメット5千個を提供するとして、ウクライナの失望を買った。脱原発を目指すドイツにとって天然ガス供給源であるロシアとの関係悪化は回避したい狙いもある。

ロシアのプーチン大統領とフランスのマクロン大統領
ロシアのプーチン大統領とフランスのマクロン大統領=2018年5月、サンクトペテルブルク、疋田多揚撮影

細田氏は仲介外交がなかなか成果を出せない背景として、欧州連合(EU)27カ国の脅威認識がバラバラである点も挙げる。

細田氏は「ロシアに強い危機感を抱いているEU諸国は、バルト3国、ポーランド、ルーマニアなどに限られる。いずれも、ロシアが間近に迫るNATO東縁部に位置し、軍事力の誇示や偽情報などのハイブリッド戦に直面する一方で、ロシアにエネルギーも依存しているからだ」と指摘する。また、細田氏によれば、労働力不足に悩むチェコやスロバキアなどではウクライナ人労働者への依存が増加しているという。同氏は「彼らが防衛動員されると、現地日系製造業を含む産業全般に悪影響が心配される。有事の際には中東欧地域に大量のウクライナ人避難民が流入することもあり得る」とも語る。

こうした国々は今回の危機でウクライナを支持し、一部は武器弾薬の供与も表明しているが、むしろ、今回の危機を受けて、自国の安全保障に米国を関与させることに躍起になっている。米軍はルーマニアの要請を受け、ドイツ駐留米軍から約1千人をルーマニアに再配備した。11日には、米本土から新たに3千人をポーランドに派遣する方針を表明した。スロバキア国内でも2月後半から米軍が軍事演習を予定し、700両以上の米軍車両が高速道路を走行してドイツ国内基地からチェコを通過してスロバキアを目指した。

ルーマニアもポーランドも従来、米軍の常駐を望んできた。オバマ米政権は2009年9月、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を、ポーランドとルーマニアに設置する構想を発表。ルーマニアの施設は2016年から北大西洋条約機構(NATO)の指揮下で運用されているほか、ポーランドのものは、今年末に運用が始まる予定だ。

また、スロバキアは、2月上旬に米国との軍事協力強化協定を批准し、国内二カ所の空軍基地の近代化費用負担を条件に今後10年間使用させることを承認した。スロバキアは、米国と同様の協定を取り交わした24番目のNATO加盟国となった。

一方、ロシアから地理的に離れているイタリアやポルトガル、そして、EUとの関係悪化から親ロ・親中傾向を隠さないハンガリーなどはEUの方針に反対はしないものの、「反対しないだけでも良い方だ」と指摘されるほど、独自の危機打開策も積極的に打ち出していない。細田氏によれば、イタリアの主要企業25社のトップらが1月後半、プーチン大統領との間で、経済協力拡大協議をオンライン形式で行った。

欧州諸国は、NATOが最大の脅威と位置づけるロシアに対してですら、一枚岩になれない。細田氏は「地理的に遠く、直接的な軍事力の脅威は感じていない中国に対しては、なおさら欧州は団結しにくい」と語る。細田氏によれば、フランスは今年前半のEU議長国として、北京冬季五輪の外交ボイコット問題について、EU諸国の意見をまとめようとしたが、実現しなかった。

チェコ・カレル大学社会学部の細田尚志講師(本人提供)

日本では自国に開設した台湾の代表機関に「台北」ではなく「台湾」の表記を認めたリトアニアや、昨年に上院議長が台湾を訪れたチェコなどを高く評価する声が出ている。しかし、細田氏は「いずれも、国内政治の対立意識の文脈から出た話であり、中国との対決が最大の目標ではない」と語る。同氏によれば、旧共産圏だった中東欧諸国には、必ず二つの政治グループが存在する。「単純化のそしりは免れないが、一つは親米親欧勢力。若い世代で都市部に住み、高い教育水準が特徴だ。もう一つは社会主義時代や旧共産党にノスタルジーを感じ、支持する勢力。地方に住み、年配者が多い。豊かさに乗り遅れたグループとも言える」

細田氏は「米国と中ロが、この二つのグループの政治的な綱引きを利用している、または、二つのグループが米国や中ロを利用しようと試みているとも言える」と語る。同氏によれば、リトアニアの前政権は農産物の中国向け輸出を進め、一帯一路政策に近づいた。ところが、現政権は中道右派で、米国の意向を強く意識しているという。

細田氏は「日本発の報道には、社会主義時代のつらい経験やソ連からの抑圧の歴史から中国など共産主義体制に反発しているという分析も見られる。そのような歴史的側面や言説は否定しないが、それがすべてではない」と語る。「例えば、現在活躍している政治家は、1989年から90年の体制転換や独立後に政界に入った人が多い。また、リトアニアの世論調査をみると、新型コロナ感染症拡大までは国民の半数以上は親中だった」と語る。

実際、中国による圧力で、リトアニアの中国での大使館機能が停止し、リトアニア製品だけではなく、リトアニアの部品を使った欧州製品が中国から締め出される可能性も出てきた。同国では現在、「台湾」の名称を「台北」に変更する動きがみられるという。

細田氏が住むチェコでは昨年10月の総選挙の結果、中道・右派連立政権が発足した。米国寄りで、中国とロシアに批判的な立場を取る。チェコの現政権与党幹部は「1936年のナチスのプロパガンダ五輪と同じだ」として、北京冬季五輪を政治利用しようとする中国を批判している。

ただ、チェコのゼマン大統領は当時のトランプ米大統領を評価した一方、オバマ・バイデン両政権に批判的で、親ロ親中の人物として知られる。経済外交として中ロに接近してもきた。細田氏によれば、チェコのヴィストルチル上院議長(当時は野党だった市民民主党所属の議員)が一昨年、台湾を訪問した直後、ゼマン大統領は駐チェコ中国大使に「我々は一つの中国の原則を守る」と伝えた。ゼマン氏は最近では、北京五輪支持も表明した。

訪問先のチェコでビストルチル上院議長(左)と握手を交わす台湾の呉釗燮外交部長(外相)
訪問先のチェコでヴィストルチル上院議長(左)と握手を交わす台湾の呉釗燮外交部長(外相)=2021年10月、台湾外交部提供

細田氏は「中国も、ゼマン大統領がいる限り、厳しくチェコをたたけない。チェコでは中国に理解を示す大統領と、批判的な政府が、事前調整しているか否かは別として、結果的に、うまく役割分担をしている」と語る。

また、細田氏は「チェコは、中国が実質的に入ってこられない制度も作っている」と語る。同氏によれば、チェコは昨年5月に重要インフラや公共の秩序を乱す外国投資を防ぐため、EUの規制に合わせた外国直接投資スクリーニング法を整備した。9月には、原子力発電所などの重要インフラ開発事業に応札する資格に、世界貿易機関(WTO)の政府調達に関する協定を批准した国の企業であることを条件とする法律も作った。中ロは協定に未加入だという。

細田氏は「チェコやリトアニアと日本とでは、置かれた状況が違う。彼らはEU・NATOに守られ、中国との貿易額も微々たるもので、距離も離れている。日本は中国が横にいて、貿易額の2割以上を中国関係が占める。日本がチェコやリトアニアと同様な対中姿勢を取ることは難しいという現実を受け入れるとともに、欧州諸国が一丸となって反中陣営になると過剰な期待を抱くべきではない」と語る。

そのうえで同氏は「台湾有事はウクライナ危機と比較した場合、NATOやEUに匹敵する多国間構造も存在せず、ドイツやフランスなどの熱心な仲介役も見当たらない点が懸念される」と語る。「多様性を武器とするEUや、その加盟国チェコやリトアニアでは、対話派と対決派が事実上役割分担をして様々なアプローチを並行させて権威主義体制からの圧力をいなしている。日本も主体性を発揮し、硬軟おり混ぜて中国としたたかに付き合うべきではないか」