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内田真弓さん×サラ・オレインさん 先住民文化に出会うオーストラリアの新しい旅

Sponsored by オーストラリア政府観光局 公開日:
アボリジナルアート・コーディネーター内田真弓さん(左)とサラ・オレインさん(右・下)

オーストラリアの大地に6万年前から暮らす先住民「アボリジナルピープル」。独自の言語や世界観、生活スタイルを受け継いできた先住民族の文化と出会えるのもオーストラリアの旅の魅力です。オーストラリア出身のアーティスト、サラ・オレインさんが、アボリジナルアートに魅せられ、オーストラリアの中央部の砂漠地帯に住む先住民たちと20年以上交流を続けるアボリジナルアート・コーディネーター内田真弓(うちだ・まゆみ)さんと、先住民文化の奥深い魅力やオーストラリア社会の変化について語り合いました。

ダイナミックな先住民アートに感動

サラ・オレインさん(以下、サラさん):きょうは、先住民の人々が描くアートを日本に紹介する活動を続けてきた、メルボルン在住のアボリジナルアート・コーディネーター内田真弓(うちだ・まゆみ)さんにアボリジナル文化とアートの魅力を伺います。真弓さんは日本の航空会社に勤めた後、オーストラリアに行かれたんですね。

内田真弓さん(以下、内田さん):そうなんです。日本では大きな会社にいて、今思えば不満も不安もなかったはずなんですけれど、24、25歳の頃に組織ではなく個人で勝負したいと思ったんです。日本の外で何か新しいことに挑戦したい、そして外国人に日本語を教える職業がおもしろそうだと思ったんです。資格も経験もない私が日本語教師になれる国を探して見つけたのがオーストラリアでした。当時、日本語を学ぶ人口が世界屈指だったんですよ。

サラさん:そうなんですね!

内田さん:当時はインターネットも使わず、携帯電話も持っていないから情報がないんです。旅行ガイドブック『地球の歩き方』を抱えて、1年間の無報酬のインターンシップ用のビザだけでオーストラリアに渡りました。

サラさん:日本語教師のボランティアをしていて、偶然、アボリジナルアートに出会ったわけですか。

中央砂漠地帯にあるユエンドゥーム(Yuendumu)居住区のアートセンターで、地元のアボリジナル・アーティストたちの制作風景を見ながら、絵に表現された「ドリーミング」のストーリーを教えてもらう内田さん(写真中央、2015年5月撮影)

内田さん:ええ。日本人は私だけ、という小さな村に派遣されたのですが、みんな親切にしてくれて、とにかく日本に帰りたくなかったです。現地で就職活動もしましたが、当時は失業率がとても高くて。日本に帰るしかないと腹をくくり、航空券を買いました。そして帰国前に、お土産を買おうと最寄りの大都市のメルボルンで街をうろうろしていたら、にわか雨が降ってきて、雨宿りのために飛び込んだのがアボリジナルアート専門のギャラリー(画廊)だったんです。

サラさん:すごい偶然ですね。そこにあったアボリジナルアートからどんな印象を受けましたか。

内田さん:そのときはまだ知識がないので、何が描かれているかは分からなかったんです。でもダイナミックなエネルギーに満ちあふれていて、力強くて。気づいたら画廊を歩き回っていました。アボリジナルアートが私の人生に初めて登場した瞬間でした。信じられないお話かもしれませんが、この後、ギャラリーのオーナーが話しかけてきて、思いを話しているうちに「ここで仕事をしないか」という話になり、気付けばそこで6年間働きました。

サラさん:まるで運命に導かれたようですね。

内田さん:そのギャラリーは、メルボルンから2,500kmぐらい離れた内陸の中央砂漠地帯で描かれた「点描画」だけを扱う専門店だったのですが、アボリジナル文化を深く知らない私はなかなか絵を売ることができずにいました。ですから、この絵がどこで誰によって描かれているのかを知り、目に見える美しさだけではなく絵のもっと奥の部分を学ばなくてはいけないと思い、砂漠の中のアボリジナル居住区に通い始めたんです。そこで、驚くほどすてきな人たちと出会い、もっと居住区に入り浸りたくて2000年に画廊を退職してフリーランスになりました。以来、居住区に通って自分が面白いと思った作家を見つけて、その作品を日本でプロモーションする活動をしています。

中央砂漠地帯で狩りに出かけるマウント・リービック(Mount Liebig)居住区のアボリジナルピープルたち。自分たちの大地を熟知していて地図や標識がなくても食べ物を見つけ出すことができる(2016年3月撮影)=内田真弓さん提供

6万年前から現代へ、「物語」を描き継ぐ

サラさん:アボリジナルアートは、とてもドラマチックでカラフルで、パワーがありますよね。私も幼い頃から絵本などで目にして、先住民のお話はいくつか知っています。モチーフによく登場するヘビなどは、なじみのある不思議な存在です。アボリジナルピープルはアートで何を表現しているんでしょうか。

内田さん:彼らが絵を描くのは芸術のためではないんです。アボリジナルピープルは、文字文化を持たない「無文字社会」で6万年以上生きてきました。農耕や牧畜もしないで、水のない砂漠で生きてきた人たちの情報や知恵を伝達する手段が、「目で見る言語(visual language)」としての絵や、口伝の歌だったわけです。だから、彼らが自分の想像で絵を描くことは一切ありません。色やモチーフは自由ですが、すべて「ドリーミング」に基づいたお話を表現しています。

サラさん:なるほど。今、お話に出たアボリジナルピープルの世界観を表す「ドリーミング」「ドリームタイム」とはどんな概念なのでしょうか。

内田さん:「ドリーミング」「ドリームタイム」(*1)を一律に定義することは難しいと思うんです。なぜなら、オーストラリア大陸は日本の約20倍の広さがあって、アボリジナルピープルはさまざまな地域に600以上の異なる言語集団で暮らし、それぞれが「ドリーミング」を持っているからです。ただ、居住区を訪れるたびに彼らが今この瞬間も信じている物語があると感じます。彼らが生きていく上での大事なお話です。6万年前から何世代にもわたって紡がれているお話が、今もこうしてキャンバスの上で私たちの目に触れられることにロマンを感じます。

(*1)「ドリーミング」「ドリームタイム」=土地や精神性、伝承、文化などを結びつける複雑な信仰体系を受け継ぐアボリジナルピープルの、信仰の中心にあるものとされる。詳しくはこちらから

サラさん:「時間」の概念すら私たちとは違うと聞きます。それが表現されているアボリジナルアートは、すごく深いアートですよね。

サラさんプロデュースのコンサートにて。アボリジナルピープルの伝統的楽器ディジュリドゥの奏者・GOMAさんとオーケストラで「ドリームタイム」を表現

内田さん:居住区でのアボリジナルピープルとの出会いも毎回、新鮮です。彼らの狩りに連れて行ってもらったこともあり、私が車を運転して彼らの案内で道なき道を行くんですが、彼らは標識も地図もない土地を隅々まで熟知して記憶しているんです。水のない乾燥した大地を、彼らは「ここは我々のスーパーマーケットだ」って言うんですよ。「何でもあるから」って。そして本当に動物や地中のイモムシを見つけ出すんです。不思議な話に聞こえるかもしれませんが、「大地の声を聞けば分かる」と言うのです。

サラさん:素晴らしいですね。

内田さん:居住区には普通のスーパーマーケットもあって、そこで何でも買えるんです。でも狩りにも行く。大地とのコミュニケーションを欠かさない人たちなんです。これが私たちと一緒に生きている現代のアボリジナルピープルの姿なんですね。狩りに行かない若者も増えていますが、私はいつも、まだ狩りに出かけ、歌を歌い、元々は体に描いていた絵をそのままキャンバスに描くような世代の画家たちの絵を探します。

先住民ガイドと時空を超えるアート体験

サラさん:伝統が続いていると聞けて、なんだかうれしいですね。そういう人たちが描く本物の絵に、日本の皆さんにもぜひ触れて欲しいです。壁画でも、オーストラリアの各地でアボリジナルピープルによるユニークな壁画を見ることができ、そのすばらしさと多様性は世界有数といわれていますよね。

ノーザンテリトリーのカカドゥ国立公園。カカドゥ・カルチュラル・ツアーズより©James Fisher, Tourism Australia

内田さん:異なる土地では壁画に描かれる「ドリーミング」のお話も異なるんです。そして、それぞれの土地の岩の壁が「教室の黒板」のような役目を果たし、彼らの「物語」を次の世代に伝えています。ですから北部ノーザンテリトリーのカカドゥ国立公園の壁画はオーストラリアの旅でぜひ見ていただきたいアートのひとつです。今はオンラインでツアーの事前予約もできますし、やはり現地の人に物語を聞いて実際に見ることが豊かな旅にもつながると思います。さらに同じノーザンテリトリーのアーネムランドでは樹皮に物語を描いた樹皮画があります。これは木がたくさん生い茂る熱帯雨林のある土地ならではで、雨が少なく樹木の少ない砂漠地帯ではまず見られません。

サラさん:現地で感じられることが、なによりも旅の醍醐味ですね! 最近は旅行者でもアボリジナル文化の一端を体験できるツアーも充実しています。「ディスカバー・アボリジナル・エクスペリエンス」というプログラムには約130種類もツアーがあるんですよ。

世界最古の熱帯雨林である世界遺産デインツリー・レインフォレストの中にある「モスマン渓谷センター」では、先住民文化ガイドが案内するツアー(ヌガディク先住民文化ガイド付きドリームタイム・ウォーク)がある。ブッシュ・フードや薬草について学んだり、伝統的なスモーキング・セレモニーを体験したり、ブッシュ・ティーや無発酵のパン「ダンパー」を味わったりすることができる。ボヤージズ・インディジネス・ツーリズム・オーストラリアより ©James Fisher, Tourism Australia

内田さん:130種類も! そこがオーストラリアのユニークなところだと思います。美しい海岸があって、熱帯雨林があって、乾燥した砂漠があって。地域によってすべて表情が違います。こんな国、他にないと私は感じています。本当におもしろくて、どこに行っても楽しめるので、この国に30年近く住んでいますが、少しも飽きないですね(笑)

美術館で気軽に出会える、学べる

サラさん:より気軽に、街の観光でもアボリジナルアートに出会えるところもありますよね。シドニーのオーストラリア博物館や、アデレードの南オーストラリア美術館、キャンベラのオーストラリア国立美術館といった有名なミュージアムもありますし、街のアートギャラリーでも見ることができます。真弓さんのおすすめはどこですか。

内田さん:地元メルボルンのビクトリア国立美術館です。アボリジナルアートはかつて、美術館よりも学術研究の対象として博物館に展示されていました。ところが1980年代後半ぐらいに「先住民アート」として欧米で注目を浴びて現代美術として評価を高めたんです。今ではオーストラリア各地の美術館に素晴らしい作品を集めた専門コーナーもできて、「オーストラリアのアート」と認められています。

中央砂漠地帯のアリススプリングスにあるアートギャラリーで、日本での展示会に出品するアボリジナルアート作品を選ぶ内田さん(2017年撮影)

サラさん:うれしいですよね。今のお話もそうですが、先住民の人々を取り巻く状況に変化も感じています。私は言葉が大好きで、各地のコンサートに行くと、必ずその土地の方言で話すようにしているんです。言葉は変化するものだし、元々の言葉が失われることはどの国や文化でも起きていますが、数年前に出会ったソプラノ歌手デボラ・チータムさんも、アボリジナルピープルの歴史や文化をちゃんと認識して伝えることが大切とお話しされていました。近年になって「エアーズロック」が(先住民の言葉の)「ウルル」に名称を改められたり、国歌の歌詞も2021年に「We are young and free(私たちは若くて自由)」から「We are one and free(私たちは一つで自由)」に変更されたりと、歴史を尊重した変化も見られますよね。アートの分野でもこうした変化を感じますか。

オーストラリアを代表する歌手デボラ・チータムさんとサラさんのコラボレーション

内田さん:感じますね。アボリジナルアートは2000年にオーストラリアで開催されたスポーツの祭典でもシンボルになり、メルボルンを走るトラムのデザインにも採用されて、アボリジナルピープルのオーストラリア社会での位置づけは変わってきました。オーストラリアには毎年、「ナショナル・リコンシリエーション・ウィーク」(*2)があるんです。この国がどのように成り立っているのか誰もが知ろう、その中で先住民の歴史も、もう一度しっかり学ぼうということでイベントも増えてきています。

(*2)ナショナル・リコンシリエーション・ウィーク(National Reconciliation Week)=毎年5月27日~6月3日の1週間、国の成り立ちや歴史を振り返り先住民の文化を祝い、和解にむけた議論や活動を促進する。先住民を国民として認めた1967年5月27日の国民投票を記念して設けられた。

自分らしくいられる多様性の国、オーストラリア

サラさん:アボリジナル文化についてさまざま伺ってきましたが、30年近くオーストラリアに暮らしてきて、真弓さんがオーストラリアの魅力と感じる点はどんなところですか。

内田さん:多民族で多様性がある点も魅力です。私の隣人はマレーシア出身で、向かいに住んでいるマダムはイタリア出身。みんな違っていることが当たり前で、価値観はいろいろあっていいんだということをオーストラリアに長く暮らして感じます。自分が自分らしくいられる環境が、とても気に入っています。だからこそ、アボリジナル文化も大切にされ、世界にも注目されているのだと思います。

サラさん:アボリジナル文化のほかに、日本からの旅行者にオーストラリアで体験してほしいおすすめのアクティビティはありますか。

内田さん:いっぱいあります! メルボルンで乗れる熱気球もおすすめです。夜明けを眺めながら空中を散歩している感じになれます。ワイナリー巡りもぜひ。メルボルンから車で1時間ほどでブドウ畑が見えてくるんですよ。オーストラリアは、本当に身近に楽しみがたくさんある国です。「よし、あれをやるぞ」と構えなくても、「午後はワイナリーに行ってランチしよう」というふうに。メルボルンは「ガーデンシティー」と呼ばれるぐらい公園が多いので、カフェでサンドイッチとコーヒーを買って好きな本を1冊持って公園でゆっくり寝そべるなんていうのも、最高のぜいたくだと思います。

サラさん:私はビーチでランチをのんびりとるのも好きです!

内田さん:ビーチもすぐ近くにありますよね。私の住むメルボルンは日本と時差が2時間(*3)なので移動後の体が楽ですし、季節も正反対なので日本が寒い時期は、こちらは暖かいです。

(*3)オーストラリアの時差=州や夏時間によって日本との時差は異なる。メルボルンがあるビクトリア州の場合、例年10~4月の夏時間の期間中の時差は2時間。夏時間が終わると1時間に縮まる。

 

サラさん:新型コロナで現在アボリジナル居住区の往来もできなくなっているそうですが、コロナを経て、真弓さんの中で「旅すること」の価値や意味が変わりましたか。

内田さん:この2年間、旅することが本当に特別なことになりました。私にとって旅の醍醐味は、現場に赴いて、そこでしかできない体験をすることです。目に入ってくる景色が変わると思考も変わります。便利なデジタルツールがあるご時世ですが、アボリジナルピープルのように、変わらないもの、変えないもの、特別な場所がある以上、私は自分の足で現場に行きたいなと思っています。

サラさん:私も音楽家なので、直接触れる「ライブ感」を大切に思う感覚、分かります。「アフターコロナ」に居住区へ再び行ける日が待ち遠しいですね。今日は本当にありがとうございました。