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韓国人の7割が核保有を望むのはなぜか 韓国の世論調査を読み解く

揺れる世界 日本の針路
ソウル郊外で合同訓練を行う在韓米軍と韓国軍の特殊部隊=2012年9月6日、東亜日報提供
ソウル郊外で合同訓練を行う在韓米軍と韓国軍の特殊部隊=2012年9月6日、東亜日報提供

■「核兵器、原潜保有」7割超が賛成

調査は2021年秋、韓国の18歳以上の男女約1千人に対面方式で行われた。

まず浮かび上がったのが、中国を警戒し、嫌悪する韓国世論の傾向だ。「最も脅威のある国」で中国を選んだ人は71.9%。進歩(革新)支持者は67.9%、保守支持者は76.1%が中国を選んだ。進歩の93.9%、保守の96.4%が米韓同盟を支持した。研究責任者の李相信統一政策研究室長は「保守は親米、進歩は親中という見方は当てはまらない」と指摘する。

「中国が国際社会でリーダーとしての役割を果たしている」と答えた人は18.3%に過ぎず、「果たしていない」と答えた人が81.7%にのぼった。「中国による台湾武力併合を阻止する必要がある」と答えた人は、進歩支持者の55%、保守支持者の50.3%を数えた。

そして、韓国の核兵器保有に賛成する人は71.3%を占めた。韓国による原子力潜水艦開発に賛成の人は75.2%だった。最近では、韓国の峨山政策研究院が21年9月に発表した調査でも、69.3%の人が「韓国は核開発に進むべきだ」と答えていた。

統一研究院の調査では、南北統一後の核保有も認める人が61.6%にのぼった。調査報告書では「北朝鮮の核からの安全確保を超え、周辺の強大国から主権と生存権を確保する手段として核兵器の保有が必要だと考えている」と分析した。

■中国を意識した文在寅発言

報告書の英語版を監修した米ランド研究所上級アナリストのブルース・ベネット氏は、韓国大統領府が明かした昨年11月27日の文在寅大統領の発言に注目する。文大統領は同日、大統領府幹部たちとの懇談で、軽空母の建造事業に関して「我々の国防力は北朝鮮に対する抑止にのみ必要なのではない。強大国の間にいるわが国の自主のために必要だ。地政学的位置に合わせた国防力を備えなければならない」と語ったという。

ベネット氏は文大統領の発言について「米国は韓国に圧力をかけていないし、ロシアの脅威で新しい要素は何もない」と説明。「核兵器能力を大幅に増強しようとしている中国の動きに対する明らかな反応だろう」と指摘する。

ブルース・ベネット氏
ブルース・ベネット氏=本人提供

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、2021年1月時点での中国の核兵器数は350発で、前年の320発から30発増加した。米国の5550発、ロシアの6255発とは大きな開きがあるが、中国は更に核兵器を大量増産する姿勢を示している。米国防総省は2021年11月に発表した「中国の軍事力に関する年次報告書(2021年版)」で、中国の核弾頭保有数が2030年までに少なくとも1千発になるとの見通しを示した。

ベネット氏は「中国は今、韓国や他の地域、世界各国を威圧するために十分な核兵器を保有しようとしている。韓国の人々は中国を懸念し、中国による支配を弱めるため、最終的には核保有が必要になるかもしれないと考えている」と分析する。

■現実的ではない、けれど

 韓国国防科学研究所の試験場で2021年9月15日、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射試験などを視察する韓国の文在寅大統領=東亜日報提供
韓国国防科学研究所の試験場で2021年9月15日、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射試験などを視察する韓国の文在寅大統領=東亜日報提供

もちろん、韓国の核保有は現実的ではないという見方が支配的だ。核兵器を保有する5カ国が3日、発表した文書は「核戦争に勝者はなく、決してその戦いはしてはならないことを確認する」とうたうが、「我々は、そうした兵器の更なる拡散は防がなければならないと強く信じている」とも強調している。

ベネット氏も「韓国が核兵器を配備した場合、米国が韓国の国家安全保障に多大な貢献を続けるだろうか」と語る。同氏は「韓国が核兵器の製造を決めた場合、今後10年間で国防予算を年間10%から15%くらい増額する検討を行う必要があるかもしれない。韓国が中国に対し、最小限の核抑止力を持つためには、200個程度の核を持つ英国やフランスと同等の戦力が必要になるだろう」と語る。

また、米韓関係筋によれば、米政府は非公式な協議の場で、韓国に原子力潜水艦の保有を支援しない考えを伝えている。ベネット氏も「原潜は、国防予算を大幅に増やしたり、潜水艦の数を減らしたりしない限り、負担が大きすぎる」と指摘する。

李相信氏も「ほとんどの韓国人が、核を保有すれば、米韓同盟が壊れるという事実を理解している」と語る。調査では、「在韓米軍駐屯と核兵器保有のどちらを選択するか」という設問に対し、49.6%が在韓米軍駐屯、35%が核保有をそれぞれ選んだ。

ただ、調査では、1990年代に韓国から撤去された米軍の戦術核再配備に賛成する人が61.8%いた。3月9日投票の韓国大統領選で、保守系野党が推す尹錫悦前検事総長は、米軍の戦術核再配備を公約にしている。北朝鮮は1月5日に続き、11日もミサイルを発射しており、こうした意見は更に増えていく見通しだ。

一方、在韓米軍の駐屯について「現在必要だ」と答えた人は90.3%。「南北統一後も必要だ」とも答えた人は61.4%だった。調査書は、21年8月に起きた米軍のアフガニスタン撤収による不安感や、最近の米中関係悪化が作用していると分析した。

■「バランス」望む声も

米政府系放送局「ボイス・オブ・アメリカ」は先月25日、在韓米軍のエイブラムス前司令官とのインタビューを伝えた。エイブラムス氏は「中国軍は2010年以降、朝鮮半島と周辺で存在感を大きく増した。過去3年間で、中国軍が韓国の防空識別圏を侵犯した事例が300%増えた」と説明。北朝鮮ではなく中国の脅威も含めた「すべてを(米韓共同)作戦計画で扱わなければならない」と主張した。

ただ、李相信氏は「韓国人は中国に脅威を感じているが、敵にしない方が良いと考えている。韓国のほとんどの人々は、エイブラムス氏の提案に同意しないだろう」と語る。「台湾侵攻を阻止すべきだ」と答えている人々は、中国が台湾に侵攻すれば、米国との衝突が避けられなくなると考えているからだとした。

李相信氏
李相信氏=本人提供

調査では、「韓国の安全保障に米国がより重要」と答えた人が55.3%だったが、「米国も中国も同じくらい重要」という人も42.15%にのぼった。「米中バランス外交」を望む人は52.5%で、「米韓同盟強化」の31.1%を上回った。過去の調査でも米中バランス外交を望む人がほぼ半数を上回ってきた。

李相信氏はその理由について「エイブラムス氏の指摘は理解するが、現実的に韓国の人々は中国の歴史認識や経済での脅威を感じても、軍事的な脅威を現実的に捉えていない」と話す。

韓国にとって中国は最大の貿易相手国だ。輸出先2位の米国、輸入先2位の日本と比べてそれぞれ倍の規模の取引を中国と行っている。中国は過去、韓国が在韓米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の韓国配備を認めたことに反発。用地を提供した韓国ロッテの中国進出事業や、中国人による韓国観光に大幅な制限を加えた。

ただ、ベネット氏は「私は韓国の人々は、中韓同盟を求めれば、米韓同盟を弱体化し、終わらせる可能性があると理解していると思う。韓国は中国とのパートナーシップを得るのではなく、韓国の決定をコントロールする中国の強い要求を受けることになることも、韓国の人々は認識している」と語る。韓国が米中の間でバランス外交を模索するのは、それだけ中国の脅威を身近に捉えているからだという見方だ。

一方、韓国人の周辺国に対する好感度を尋ねる質問では、最も多かったのが米国の66.2%。最も低いのが北朝鮮の6.6%。日本は中ロ両国よりも低い、9.4%にとどまった。統一研究院の調査では、日本に対する好感度が最下位になることもしばしばだ。

李氏は「文在寅政権は親中反米だから、日本を相手にしないのだろうという論理は正しくない」と語る。「文在寅大統領も政治家だ。民主国家ではどの国もそうだが、選挙での勝利を重視する。世論調査ではっきりしているように、韓国では親米でなければ、選挙に勝てない」

ただ、日韓の安全保障協力が進まないことも現実だ。ベネット氏は「韓国と日本の双方に、日米韓の安全保障協力を阻もうとする個人や団体がいる」と語る。「韓国の大部分の人々は、米国が日本の支援なしには韓国にタイムリーで適切な軍事支援を提供できない可能性があることを理解していない。日本の国家安全保障について、特に中国を巡る安保で韓国の支援が必要だと感じている日本人が多いとは思わない」

昨年12月17日、ワシントンで日米韓次官級協議が行われた。協議後、3カ国による共同記者会見が開かれる予定だったが、現れたのはシャーマン米国務副長官だけだった。韓国側は共同記者会見が中止になった理由について「日本側が、(金昌龍)警察庁長官の独島(竹島)訪問のため、記者会見に参加できないと事前に伝えてきたからだ」と説明した。

複数の関係筋によれば、日本側は竹島問題で強く抗議する必要があると判断。米側に「共同記者会見を開けば、竹島の問題に質問が集中し、かえって3カ国協力に支障が出る」という論法で、「会見不参加」を申し入れた。米側は当初、「そんなに深刻な問題なのか」と驚いたという。

ベネット氏は「米国は、中国と北朝鮮の脅威の高まりを考えた場合、2つの同盟国が国家安全保障で協力する重要性について認識することを期待し続けている」と説明する。その一方で「日韓両政府は、日米韓協力を主導する必要があるが、今のところ、どちらも協力を推進する決断をしたわけではないようだ」と語った。