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米海兵隊の変化と自衛隊の課題が見えてきた 日米、年の瀬の実動訓練 

揺れる世界 日本の針路
2021年12月に行われた陸上自衛隊と米海兵隊の実動訓練(レゾリュート・ドラゴン21)=陸上幕僚監部広報室提供

■空輸されたロケット砲システム

RD21は21年12月4日から17日まで行われた。陸幕広報室は「陸自の領域横断作戦(CDO)と米海兵隊の機動展開前進基地作戦(EABO)を踏まえた日米の連携向上のための訓練を実施した」と説明する。

CDOとは、陸海空に宇宙やサイバーを加えた空間にまたがった横断的な作戦を意味する。例えば、奄美大島や宮古島に配備された陸自の対艦・対空ミサイル部隊が、敵の艦艇や航空機を迎撃することなどを想定。電子戦やサイバー戦なども交え、より幅広い作戦を検討している。

米海兵隊のEABOは、敵による攻撃の兆候が現れた場合に緊急展開する構想だという。今回、米海兵隊は輸送機を使い、嘉手納基地のHIMARS(高機動ロケット砲システム)を青森・八戸に展開した。

日米関係筋によれば、米海兵隊は現時点で地対艦ミサイルを保有していない。米軍は島々を防衛する陸自の地対艦ミサイルを重視し、米海軍が主催する多国間演習である環太平洋合同演習(リムパック)に参加するよう、陸自に要請したという。

2021年12月に行われた陸上自衛隊と米海兵隊の実動訓練(レゾリュート・ドラゴン21)=陸上幕僚監部広報室提供

陸上自衛隊の東北方面総監を務めた松村五郎元陸将によれば、米海兵隊は2020年に軍再編計画「Force2030」を発表した。松村氏は「海兵隊は戦車の代わりに対艦ミサイルを充実させるなど、戦力構成を変化させようとしている。EABOはその前提となる作戦構想のひとつだ」と語る。

米海兵隊がEABOを着想した背景には、陸自で15年ほど前から唱えられ始めた「南西の壁」構想がある。対馬から九州、沖縄本島などを経て、日本最西端の与那国島までに対空・対艦ミサイルと地上部隊などを組み合わせた部隊を配置して防衛ラインを作り上げる構想だ。松村氏は「米側は南西諸島を守る陸自と連携するとともに、南太平洋諸島やフィリピンなど、自衛隊がいない場所への緊急展開も考えているのだろう」と語る。

陸幕広報室によれば、陸自と米海兵隊が共通点の多い装備を保有しているため、RD21には共通の敵を撃退するうえでの調整を行う狙いがあるという。関係者は「お互いが違う島に展開しているとき、接近する敵を効果的に撃退するためにはどうしたらいいのか。日米が双方の指揮命令の流れや、装備の性能を知る意味がある」と語る。

■射程が足りない

2021年12月に行われた陸上自衛隊と米海兵隊の実動訓練(レゾリュート・ドラゴン21)=陸上幕僚監部広報室提供

ただ、ここで問題になるのが、その性能だ。宮古島などに展開する陸自の12式地対艦誘導弾(地対艦ミサイル)の射程は最大でも数百キロだとされる。米軍のHIMARSから発射するロケット弾やミサイルの射程も数十キロから数百キロとみられる。

防衛省防衛研究所の高橋杉雄・防衛政策研究室長によれば、陸自の12式の原型となった88式地対艦誘導弾は宗谷海峡を防衛するために開発された。ある程度後方に下がっても、海峡を通航する敵を攻撃できるよう、現在の射程に落ち着いた。しかし、これでは、東シナ海で運用するには射程が短すぎる。

陸自と米海兵隊のミサイルでは、射程千キロを超える中国の弾道・巡航ミサイルには歯が立たない。自衛隊関係者も「敵の攻撃を抑止するうえで、陸自や米海兵隊の展開は意味がある。でも、実際に陸自と米海兵隊が独自で対処するケースは、かなり非現実的だと言える」と語る。
加えて、高橋氏は「米国と同盟国は、米空母を中心にした作戦を考えてきた。空母艦載機は周囲1千キロの範囲くらいまでの敵を攻撃してくれる。しかし、現在では、対艦弾道ミサイルの脅威などから、米空母の戦闘力をあてにできなくなっている」と語る。

高橋氏は「ミサイルの射程や標的の確認などで、もっと陸海空の能力をそろえる必要がある」と語る。政府は21年12月に閣議決定した22年度防衛予算で12式地対艦誘導弾の能力を向上させる開発費を盛り込んだ。射程は1千キロ程度で、地上発射型は25年度、艦船発射型は26年度、航空機発射型は28年度の開発完了をそれぞれ目指すという。陸自が現在、開発中の高速滑空弾は射程約500キロ。敵基地攻撃能力の議論次第ではさらに延長を検討する可能性もある。

陸上自衛隊中部方面総監を務めた山下裕貴・千葉科学大客員教授(元陸将)は南西諸島などを巡る日米の防衛協力について「オバマ政権時代の米軍は、自衛隊と様々な協議の際、中国について正面から議論することを避けていた。トランプ政権で流れが変わり、現在のバイデン政権で加速している」と語る。

山下氏によれば、米海兵隊は陸軍と戦力の重なる戦車など重戦力を削減して機動性の高い戦力へと将来の体制を大きく変更しようとしている。RD21にロケット砲システムのHIMARSが参加したのもその流れだという。

そのうえで、山下氏は「海兵隊がEABOに基づき、本当に日本の南西諸島に配備される保証があれば、共同作戦計画を作って共同訓練を継続する価値はある」と語る。

■「統合司令部」という課題

2021年12月に行われた陸上自衛隊と米海兵隊の実動訓練(レゾリュート・ドラゴン21)=陸上幕僚監部広報室提供

一方、更に考えなければいけない問題もある。

航空幕僚監部防衛部長や教育集団司令官などを務めた平田英俊元空将は「陸自と米海兵隊を有効に使うためには、RD21のような作戦の一局面を切り取った訓練に加え、時間的にも空間的にもより広い観点から事態を考えた訓練を行うことが必要になる」と語る。

そして平田氏は「陸海空自衛隊の統合運用を前提にした検討」を訴える。「より遠くに位置する脅威の把握、情報の共有や対処について、作戦の目的を最も効果的、効率的に達成できる手段を使うことが重要だ。抑止という点からも、様々な国力を活用した包括的な抑止力が問われる」

平田氏は「最近はサイバーなどを使ったグレーゾーン事態や重要なインフラの防護といった、自衛隊や国家機関だけでなく民間企業の協力が不可欠な事態についても考える必要がある。統合運用は一層重要になるだろう」と指摘する。

ただ、自衛隊関係者によれば、現段階では陸自と米海兵隊による訓練の段階にとどまり、統合運用にまで話が発展していない。

2006年の自衛隊法改正で、統合幕僚監部が誕生した。弾道ミサイル防衛などのように、複数の軍種にまたがった作戦が必要になった場合は統合任務部隊が編成されてきた。防衛省は21年度の防衛白書で「将来的な統合運用のあり方について検討する」としたが、常設の統合司令部はまだ誕生していない。

自衛隊元幹部らの証言によれば、南西防衛作戦では、自衛艦隊司令官が統合任務部隊司令官に就く可能性が高いようだ。その場合、自衛艦隊司令部に陸空の派遣幕僚が入り、統合部隊司令部を構成することになる。統合幕僚監部が作戦計画をつくり、最高司令官である首相の命令を伝える。統合司令部が、隷下にある陸海空の部隊を指揮するとみられる。

尖閣諸島=2013年5月、沖縄県石垣市、朝日新聞社機から、遠藤啓生撮影

松村五郎元陸将によれば、常設統合司令部を巡っては、大きく二つの意見があるという。

一つは、「統合幕僚長は、国家方針を決定する首相の補佐に忙しく、部隊の指揮に十分手が回らないため、統幕と別に中央の常設統合司令部を作って統合司令官を置くべきだ」という主張。この統合司令官は、陸海空自衛隊全体を指揮することになる。

もう一つの意見は、「南西地域の作戦は、必ず陸海空の統合作戦になるので、平時から南西地域を管轄する常設統合司令部を作って、日頃から訓練しておくべきだ」という主張だ。この場合、陸海空自衛隊全体の指揮は統幕長が防衛相を補佐して行い、統合司令官は南西地域の作戦だけを担当することになる。

松村氏は「個人的には、南西地域だけの統合司令部をつくるという意見に賛成だ」と語る。「統幕長は部隊の現況をリアルタイムで掌握しているからこそ首相を補佐できる。首相に近いからこそ、政治的要請を踏まえた部隊指揮もできるからだ。首相の補佐と部隊指揮を分離することは、政治と軍事の乖離につながるのではないかという懸念がある」という。

自衛隊元幹部も「すべての作戦を指揮する常設統合司令部を創設すると統合幕僚監部と統合司令部の業務分担が屋上屋になる可能性がある」と語る。

また、自衛隊関係者の一人は「南西諸島での事態は電子戦やサイバー戦、宇宙戦に始まり、基地を含む島をベースとして海空領域で激しく戦うことになる。国民保護や世論対策も行う必要がある。南西地域の作戦を担当する統合司令部が必要ではないか」と語る。

一方、専門家の一人は「日本は専守防衛が国是だから、土地を守るという発想で防衛白書も防衛大綱などをつくってきた。どうしても陸自中心の発想になりがちだ。南西諸島での事態は海と空での戦闘が中心になり、新領域への対応も必要になる。サイバーや宇宙も含めて対応できる統合司令部を早く立ち上げるべきだろう」と話す。

RD21は、未来の自衛隊の姿を模索する新たな出発点だったのかもしれない。