■2年ぶりのアメリカ
2年ぶりにアメリカに来て、3人の息子と時間を過ごしています。
長男が空港に迎えに来てくれて、
彼の顔を見た途端に、泣きそうになりました。
「こんなにママに会えなかったのは、僕が生まれてから初めてです」
と長男が言いました。
「こんなに長く自分の子供たちに会えなかったのは、ママも初めてです」
と私も言いました。
再会ができたことにとっても感謝しています。
次男も三男も元気で生活しています。
今回、息子たちと再会して、自分の子育ての成果を実感できた瞬間がいろいろありました。改めて、一生懸命子育てをした甲斐があったと思いました。
私はいつも息子たちが学校から帰ってくるときに、手作りのおやつを用意していました。
時間ある時はクッキーやケーキなど。時間ない時は、茹でたさつまいもやとうもろこしなど。
彼らが好きそうなものをテーブルの上に置いて、喜ぶ顔を期待していました。
アメリカに留学していたときも、日本に帰ってくるときにはいつも、ちょっと手の込んだ手作りの好物を用意していました。
例えばブラウニーやバナナブレッド、パンプキンパイやパンケーキなど。
「家に帰ってきた、温かい、嬉しい」と思わせたいからでした。
彼らはいつもそれらを見て、歓声をあげていました。
その習慣を今回は長男がやってくれたのです。
着いたその日に、長男はたくさんのごちそうを用意してくれました。お嫁さんと一緒に手作りしてくれたのです。
食卓の上には肉とネギのパン、さつまいものパイ、ビーツサラダなどが置かれていました。
「ママのために作りました。たくさん食べてね」と言われました。
本当に感無量です。
それらのごちそうを見て、全ての疲れがふき飛びました。
笑顔があふれ、会話が弾みました。
愛情と思いやりを形にするには、いろんな方法があります。
手作りの食べ物は、一番簡単で分かりやすい方法だと思います。
見て、食べて、満たされて。
幼いころの思い出が大人になっても忘れられないから、ママに対する愛情を表現するときに、この方法を選んだのですね。
何日間もかけて、みんなでパイとパンをいただきました。
食べるたびに胸が熱くなるほど、息子の思いが伝わってきました。
■「ご飯は一人で食べさせない」
3人の息子はみなシリコンバレーに住んでいるのですが、次男、三男が長男の家に来るのに、車で45分から1時間かかります。
しかし、それを苦にせずに、2人は毎日のように通ってきました。
長男がいない日は次男と三男が揃う、
次男が来られない時は三男と長男が相手になってくれる。
昼ごはんの時に、私が一人にならないように、長男とお嫁さんが変わりばんこで私と食べるのです。
「ご飯は一人で食べさせない」という、彼らが小さい時からの我が家のルールをしっかり守ってくれました。
「ママには一人でご飯を食べさせるわけにはいかない」と言うのです。
これも涙が出るほど嬉しいことですね。
いろんなものを一緒に食べましたよ。
鍋を囲んだり、私が料理を作ったり、タイ料理、イタリア料理、アメリカ料理、メキシコ料理。
家で食べたり、外で食べたり、毎日誰かと共に食卓を囲みご飯を食べて、心もお腹もいっぱいになります。
幼い時、息子たちがご飯を食べるときには、必ず誰かが相手をするようにしたことが、今につながったと思います。
子育てには無駄がないと実感しています。
食事の時に、息子たちは本当にいろんな話をしてくれます。
議論をし始め、話が面白くなると、つい時間を忘れてしまうのです。
ある晩、長男はお付き合いがあり留守だったので、次男、三男とお嫁さんでご飯を食べに行きました。
アメリカ料理でしたが、話が面白くて、ご飯が終わっても、デザートが食べられる店に行って、さらに話が盛り上がりました。
お酒は誰も飲んでいないのに、議論が面白かったのです。
やっと家に帰った時は11時を過ぎていました。
長男は「遅かったね」と言いました。
「話が楽しかったので」と謝りましたが、長男はとても羨ましそうにしていました。
彼らが小さい時に、食卓は最高の学びの場でした。
大人とあらゆる話題を語り合うことよって、子供の好奇心、集中力、表現力などが鍛えられます。
そして、大人は子供の体と心の状況を把握することができます。
その習慣は今も変わりません。話題をいっぱい提供してくれて、会話を楽しむのです。
息子たちの会話術のレベルの高さを今回、改めて感じました。
幼い時の訓練が実ったのですね。
■暮らしに嬉しいサプライズを
突然ロサンゼルスに行くことが決まったのは、ハリー・ポッターの本をみんなで読んでいたことを思い出して話したことからです。
そのとき、「ユニバーサル・スタジオにはハリー・ポッターのアトラクションがあって、面白いよ」と次男が言ったのです。
ちょうど、長男が会社の社員を集めて、ロサンゼルスで会議をする予定がありました。
「よし、私たちも行って、ママにハリー・ポッターのアトラクションを体験させようよ」と話が盛り上がったのです。
「本当に!」と私は驚きました。
いきなり、息子たちは飛行機の切符を取り始め、ホテルを予約しました。
次男は仕事で行けませんでしたが、三男とお嫁さんは休みをとって、私を連れてロサンゼルスに行きました。
長男が仕事をしている間に、私たちは遊びに行きました。
ユニバーサル・スタジオは最高に楽しかったです。念願のハリー・ポッターのアトラクションに乗ることができて、ファンタスティックな世界を堪能しました。
このような「いきなりの旅」は彼ら小さい時によくやりました。
「ママが地方で講演会があるので、その後に温泉に行こう」と家族が一緒に地方にやってきて、みんなで、温泉に入ったり、観光したりするのです。
それを今回は長男の出張で、実行したわけです。
「嬉しいサプライズが頻繁にある生活」というのが私の子育ての基本でした。
サプライズを実行する行動力が息子たちはしっかり身につきました。
小さい時に「行くよう!」「もたもたしないで!」の掛け声に、すぐ荷造りして出発できるようになった息子たち。
その訓練のおかげで、頼もしく、愉快で、フットワークの軽い連中になったのかもしれないです。
■美しいものをたくさん見て育つ
ユニバーサルスタジオだけでなく、ロサンゼルス現代美術館とゲティ美術館にも行きました。
名画を見て、一緒に感心したり、絵についての物語を話したりました。
長男が特に興奮気味に教えてくれたのは、ホルバインの絵について、「今読んでいる本の人物です」と油絵の前で話し始めたことです。
「これはトマス・クロムウェルでヘンリー8世の側近です。絵を描いたのはホルバイン。ホルバインは人物を正確に描くので有名です。しかしあるとき、クロムウェルが彼に頼んで、お妃の候補の絵を描いてもらったら、本人より綺麗に描いてしまいました。ヘンリー8世が実際に彼女に会ったときに、『絵と違う!』と結婚を拒否して、国際問題になりました。それによって、クロムウェルが王様の信頼を失い始めたというのです」
長男の説明で歴史の背景や、画家とモデルの関係を知りました。単なる油絵に物語が生まれ、絵の中の歴史の主人公と対面しているワクワク感が生まれました。
そういうことがあるから、彼らと美術館に行くのはとっても面白いです。
息子たちの頭の中の引き出しの多さに驚きました。
美術館めぐりは彼らが小さい時によくやりました。
美的感覚には個人差があります。でも、美しいものをたくさん見て触れれば、心のどこかで、美しいものに感動できるようになると思います。
音楽、絵、美術品、風景などなど。
息子たちは美しいものを見て、感動できる人間になりました。
時間を惜しむように美術品を見て、うっとりしている彼らの姿はなぜかとっても愛しく思えました。
ただ鑑賞しているだけでなく、社会背景や人物の研究もしているのは、私が目指した目標をかなり超えました。
息子たちはロサンゼルスのコリアタウンにも連れて行ってくれました。
目的は焼き肉です。
「すごく美味しいところがあるので、食べに行きましょう」
と食事をする一つにしても、楽しもうという精神が旺盛です。
その焼肉店は噂通り本当に美味しかったです。
次の晩は「ロスで一番おいしいピザ屋に行きましょう」
というのです。
なかなか予約が取れない店ですが、なんとか前の日に予約が取れて、食べてみると、本当にびっくりするほどおいしかったです。
この調子で、
「ロスで一番美味しいタコスのトラックがあるので」
とトラックから料理を出す店にも行きました。
「ファーマーズマーケットで最高においしいキャラメルがあるから、買いに行きましょう」
とわざわざ買いに行きます。
コーヒーを飲むときもチェーン店を避け、本当に心を込めてコーヒーを作るところを探すのです。
こだわりが半端でないのです。
小さい時にいろんな味、食彩、食感の料理を食べさせて、できるだけ彼らの「舌」を鍛えました。
日本料理、中華料理、西洋料理の味の違いを知ってほしかったのです。
「食べ物のおいしさがわかると、人生は何倍も楽しいよ」
とよく話してあげました。
それを、いま彼らは実行しているのですね。
「別に値段が高いところに行くのではなく、心を込めて、こだわりを持って料理を作ってくれる人をリスペクトします」
と彼らは言うのです。
見ていると、太ったりしていません。暴飲暴食ではなく、適量の範囲で楽しんでいるようなので、いい趣味の一つだと思いました。
人生の大きなテーマの一つは食です。
そこから喜びを感じられるのは幸せな事です。
さらに帰りの日の前の晩、三男とお嫁さんが告白してくれました。
「明日ママは、お兄ちゃんと6時間のドライブをして帰る予定ですが、私たちは実は仕事が山積みなので、一番早い飛行機で帰ります」
いかに無理して私と一緒にロスに行ったのかがわかりました。
申し訳ない気持ちと、彼らの愛情に、感謝の気持ちで言葉が出ないほど感動しました。
彼らが小さい時、私はどんなに忙しくても、必ず彼らのために時間をさいて、遊んであげました。
たとえその後には徹夜で仕事になっても、家族を最優先にしていました。
でも、仕事も完璧にやりたいから、つい無理してしまいがちでした。
「何でそこまで無理するの?」
と聞かれることがありました。そのときは、
「愛情を子供達にわかって欲しいのです。愛情は表現できる時にしないと、チャンスを失って、伝えることができなくなるからね」
と答えていました。
その言葉通りに、息子たちはママに対する愛情を精一杯、表現してくれたのです。
実際、家に戻ったら、お嫁さんは12時まで仕事をしていました。
三男もきっと、コンピュータの前でプログラムを書いていると思います。
無理してでも、ママに付き合ってくれたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
今回はアメリカで年を越してから日本に戻ります。
残り時間には「パイ作りコンテスト」の開催が控えています。
私と息子たち、お嫁さんがそれぞれパイを作り、友達を呼んで審査してもらって、チャンピオンを決めるのです。
前回はクッキーでした。今回はパイ。どんなパイを作るのか、みんなそれぞれ考えています。
本当に楽しみです。
その後には餃子大食い大会があります。一番多く食べた人が勝ちです。
これは餃子を用意するのが一大作業です。でもめちゃくちゃ興奮するイベントです。
今年もきっと盛り上がると思います。
さらにクリスマスも大きなイベントです。クリスマスデコレーションをするだけでなく、料理作りとプレゼントの交換があるので、準備はかなり大変です。
我が家ではお誕生日とクリスマスしか、子供たちはプレゼントをもらえなかったのです。
だからクリスマスプレゼントを何にするのかは大きな悩みなのです。
今年も息子たちに聞きましたが、例年のように「欲しいものはない」とキッパリ!
クリスマスまでに考えないとね。
物を欲しがらないのはいいことです。それも彼らが小さい時に教えたことです。でも、この美徳は行きすぎたのかな?プレゼントする側にとっては頭の痛い悩みです。
そして、お正月がやってきます。
新しいものを着る習慣を持っている我が家は、お正月前のお買い物がメインイベントです。
わざとおかしな服をお互いに選んだり、お正月でないと着られないような、変わった服を買ったりします。
今年はどうかな?
コロナ禍でカリフォルニア州から日本に戻る時には、3日間のホテル隔離と11日間の自宅隔離が必要です。
息子たちは、帰国したくても休みがそこまで取れない実情があります。
だから、会える時は本当に時間を惜しむように毎日会いたいです。
次いつになるのかは、コロナ対策次第になります。
でも、何よりもみんなが元気でいることです。
これからも制約の中で有意義かつ楽しい毎日を過ごして欲しいです。
そして、ママが教えてあげた事を忘れずに、いい人生を送って欲しいです。
みなさま、今年は本当にお世話になりました。
来年もよろしくお願いします。
メリークリスマス アンド ハッピーニューイヤー!
2022年はみんなにとって、最高に幸せな年になりますように!
(写真はすべてアグネス・チャンさん提供)