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北京オリンピック、米国の外交的ボイコットで日本は試練 東京大会で中国に「借り」?

World Now 更新日: 公開日:
アメリカのバイデン大統領
ホワイトハウスで演説するバイデン米大統領=2021年11月、ワシントン、ランハム裕子撮影

オリンピックのボイコットは東西冷戦下、選手団の派遣も見送られた2大会を想起させる。1980年にソ連で開かれたモスクワ大会にはアメリカを中心とする西側諸国がソ連のアフガン侵攻を理由に選手団派遣をボイコットした。

アメリカで開かれた次のロサンゼルス大会(1984年)では、ソ連など東側陣営が事実上の報復として選手団の派遣を見送った。

バイデン政権は今回、選手団については派遣することにしている。北京大会には、フィギュアスケート男子の羽生結弦選手のライバルとして知られるネイサン・チェン選手ら有力選手が多くおり、サキ報道官も「われわれは選手を100%支援し、本国から応援する」と述べている。

2014年ソチ大会では、アメリカのオバマ政権がロシアで同性愛禁止法が制定され、プーチン政権による人権や多様性への抑圧が深刻化しているなどの理由で、「外交的ボイコット」の姿勢を示した。今回のアメリカの決断は当時と比べて10日ほど早く、米中摩擦の実像がうかがえる。

サキ報道官は今回、ジェノサイドや広範囲な人権侵害を与えている国でオリンピックが開かれることに「公式的な許可を与えるべきではない」として、他の民主主義陣営にも同様の措置を取るよう示唆した。すでに、習近平政権への抗議姿勢を見せているイギリス、オーストラリアもこの動きに追随するとみられる。

外交的ボイコットを広げそうなもう一つの要因が、台湾問題だ。中国は最近、台湾に対する「圧力」を強めているが、そんな中国を見限り、親台湾ムードが高まっているのがバルト三国の一つリトアニアだ。

リトアニアでは、欧州で初めて「台湾」の名称のついた代表処(代表部に相当)が設置され、台湾との経済的結びつきを強めようとしており、中国政府はこの動きにいら立ちを示している。北京大会でリトアニア選手団の動向もメディアの注目の的となるだろう。

一方、北京大会への公式派遣団の是非をめぐってジレンマを抱えるのは、北京大会後にオリンピックを開催する国々だ。

例えばイタリアは北京の次に冬季大会を控えているが、10月末に訪問を受けた中国の王毅外相から「スポーツの政治化に反対するよう」にと求められている。この際、両国外相は会談を開き、2022北京、2026ミラノ大会開催を互いに支援することでの合意もしている。

2024年に夏季パリ大会を開催するフランスのマクロン政権も「外交的ボイコット」を行うかどうか注目される。今のところ態度を明確にしていないが、参考となる事例がある。2014年ソチ大会におけるイギリスだ。

当時のキャメロン首相は態度を明確にしないまま、開幕10日前になって「スケジュール的に不可能」との理由で開会式への欠席を発表した。

判断が遅れたのは、その2年前の夏季ロンドン大会でプーチン大統領がロンドンを訪れ、英ロ融和外交が繰り広げられたことが原因とみられる。

キャメロン首相の「ボイコット」はプロトコール(国際儀礼)の原則から外れたことになり、この結果、英ロ関係は後戻りできないほどに悪化した。

ソチオリンピックの開会式
ソチオリンピックの開会式。ロシアの文化を紹介するアトラクションが繰り広げられた=2014年2月7日、ロシア南部ソチのオリンピックスタジアム、飯塚晋一撮影

マクロン大統領はコロナ禍にも関わらず、今夏の東京大会開会式に出席し、次期開催国としてのフランスのオリンピック外交の姿勢を示した。今回の北京大会で政府要人や外交官の派遣見送りを行えば、3年後のパリでしっぺ返しをくらい、オリンピックの運営だけでなく、対中関係全般にも悪影響がもたらされる可能性がある。マクロン政権にとっても今回が一つの分水嶺で、選択が迫られる。

一方、発足したばかりの岸田文雄政権にとってもすぐに外交的ボイコットを決断する状況にはない。

習政権はコロナ禍での開催中止論が渦巻く中で、東京大会の全面的な支持を貫き通した。当初予定していた副首相の参加は見送ったものの、開会式には閣僚級の苟仲文・国家体育総局長を出席させ、平和とスポーツ外交の一線は守った。

岸田政権としては、この「返礼」として、文科相や五輪相を開会式に派遣する可能性もある。

岸田文雄首相
中国の習近平国家主席との電話会談を終え、取材に応じる岸田文雄首相=2021年10月8日、首相官邸、上田幸一撮影

さらに、2014年ソチ大会では平和条約の締結に意欲を示した安倍晋三首相が2月7日の「北方領土の日」に、東京で「北方領土返還要求全国大会」に出席した後チャーター機でソチに向かい、開会式に出席するという離れ業をやってのけた。人権重視の欧米とは一線を画したのである。

ただ、日本国内でもウイグルや台湾問題に対する抗議姿勢を明確にすべきだとの声も岸田政権は無視できない。だが、バイデン政権に追随すれば、東京大会の返礼無視、ソチ大会と北京大会との対応格差というダブルのジレンマを抱えることとなり、今後の対中関係で大きな影響が出ることは確実だ。

こうした日本の立場を見透かしたかのように、中国外務省の趙立堅報道官が先月末、「中国は既に、日本の東京オリンピック開催を全力で支持した。日本は基本的な信義を持つべきだ」と牽制する発言をしている。岸田政権は難しい判断を迫られている。