■バランスよく栄養を
米国栄養士協会は2016年、「適切に準備された菜食は健康的で栄養的にも十分であり、特定の疾患の予防と治療に有益」との見解を発表した。仲本さんも「肉や魚をとらなくても、大豆食品や野菜、果物をバランス良く食べれば必要な栄養は十分とれます」と話す。ただ、「手っ取り早いからと、パンとバナナだけといった炭水化物中心の食事などが続くと、栄養の欠乏状態になってしまいます」。
健康的な菜食を実現するためのカギになる七つの栄養素があるという。たんぱく質、n―3(オメガ3)系脂肪酸、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンD、ビタミンB12だ。
まずはたんぱく質。「たんぱく質をとるには肉を食べなくちゃ」と考える人も多いが、たんぱく質には動物性と植物性があり、実は納豆や高野豆腐、豆乳などの身近な大豆製品からも十分な量をとることができる。亜鉛も同様だ。
カルシウムと鉄は、菜食者の方が非菜食者より摂取量が多いとの調査結果もあるほど。ただ、卵や乳製品を食べない人は、ひじきなどの海藻類やアーモンド、ごま、大豆食品、緑の濃い葉野菜からカルシウムを積極的にとったほうがいいという。鉄についても知っておきたいポイントがある。仲本さんは、「小松菜などの植物性食品に含まれる非ヘム鉄は、動物性食品に含まれるヘム鉄と比べ吸収率が低いので、ビタミンCやクエン酸と合わせて吸収率を高めるといいですよ」という。
■ビタミン不足に注意
それでは、菜食の人が特に不足しがちな栄養素は何だろう。その一つが、動物性食品にしかふくまれていないビタミンB12だ。摂取量が足りないと悪性貧血、手足のしびれや倦怠(けんたい)感などが出る恐れがある。人の肝臓には十分な量が蓄えられているため欠乏しにくいとも言われるが、注意が必要だ。仲本さんはサプリで補給することを勧めている。
魚に多く含まれるビタミンDも不足しやすい栄養素だ。ビタミンDにはカルシウムの吸収をよくする作用があり、足りないと骨軟化症(くる病)になることがある。「キクラゲやマイタケ、干ししいたけなどのキノコ類からとれます。日光浴も効果的です」。
青魚に多いオメガ3系脂肪酸は、亜麻仁油などからα-リノレン酸として摂取されて体内でEPAやDHAなどの脂肪酸になり、脳や免疫、血液をサラサラにするなどの健康に大切な栄養素になる。だが、植物性油に多く含まれるオメガ6系との摂取バランスが崩れると、EPAに変換されにくくなる。魚を食べない人は亜麻仁油やクルミで、オメガ3系の摂取を増やすよう心がけたい。
以上は大人の菜食者が気をつけるべき栄養素のお話だが、成長期の子どもを菜食で育てる場合はもう少し注意が必要だ。「成長期の子どもはたんぱく質、カルシウム、鉄、亜鉛、ビタミンD、ビタミンB12をしっかりとる必要がある。菜食の子どもは非菜食者と比べて、たんぱく質を1~2歳時は30~35%、2~6歳時は20~30%、青年期までは15~20%多めにとってほしい」と仲本さんは言う。
東京都内の中高年男女(菜食者75人、非菜食者98人)を対象に2008年に実施した調査では、菜食者は非菜食者と比べて血圧や総コレステロール値、中性脂肪値、体格指数が有意に低い結果がみられた。生活習慣病予防の観点から菜食は有効と言えそうだ。
とはいえ、さて、何をどのくらい食べればいいかわからない人も多い。そこで仲本さんは、菜食の人が1日に必要な栄養をとれるよう、六つの食品群(野菜、穀物、たんぱく質食品、乳、果物、調味料)ごとの食品例と適切な摂取量を示した「日本人用ベジタリアンフードガイド」をつくった。
例えば「たんぱく食品群」の欄には、豆腐(100グラム)、納豆(1パック)、がんもどき(40グラム)、豆乳(200ミリリットル)、卵(1個)などの身近な食品が並ぶ。一つの食品に含まれるたんぱく質は6グラム相当で、1日2000キロカロリーをとる人なら、ここから四つ食べれば、必要なたんぱく質の量を摂取できる。卵や乳製品をとらない人には、動物性食品にしか含まれないビタミンB12の強化食品やサプリをとるよう促している。菜食に興味を持った人が、スーパーなどでも手に入る食材でまずやってみるためのガイドとして活用できそうだ。