アルバニアで活動するNGO代表
バルカン半島にあるアルバニアはヨーロッパ最貧国のひとつとされる。この国では、女性や子どもらがヨーロッパ各地に売られ、売春や労働を強いられている。そんな惨状に胸を痛め、活動を続けるのがNGO「メアリー・ウォード・ロレト(MWL)」のイメルダ・プール代表だ。
プールさんはイギリス出身の修道女。16年ほど前にアルバニアとイタリアを視察した際、児童売春の実態に衝撃を受け、活動を始めた。
2018年のインタビューで、当時の心境を次のように振り返っている。
「『家族を貧困から救える』と業者にだまされ、何百人ものアルバニアの少女たちがボートで連行され、イタリアの路上で売春をさせられていたのです。大きなトラウマを抱えた彼女たちと会い、とてもショックを受けました」
プールさんたちは、女性や子どものほか、「ジプシー」という蔑称で差別されてきたロマ人を支援してきた。
彼女たちが定職に就けるよう、観光や教育などの起業プロジェクトへの参加も勧め、これまでサポートした人は3000人を超える。
昨年からは新型コロナウイルスの打撃を受けた貧困層にもアプローチしている。ヨーロッパ各国の宗教団体などでつくる「人身売買と搾取に反対するヨーロッパネットワーク(RENATE)」の代表も務め、各地の団体にアドバイスをしている。
今回の受賞者たちがオンライン参加したアメリカ国務省の発表会では、「トラウマを負った被害者の気持ちや人権に寄り添った法律で、社会を変えていきたい」と目標を語った。
中央アフリカの大統領顧問
内戦が長期化し、子どもの売春や強制労働が横行する中央アフリカで、大統領顧問ジョジアンヌ・リナ・ベマカスイさんはこの国初となる人身売買対策の行動計画を主導した。そんな指導力が評価され、今回の受賞となった。
アメリカ国務省の報告書は「リーダーシップと努力によって、人身売買対策の重要な基盤を築いた」と指摘する。
一方でベマカスイさんは、国内避難民の施設に自ら足を運んだり、元少年兵に寄付をしたりするなど、被害者に寄り添い続ける。アメリカ国務省のオンライン発表会では「今回の受賞を機に、中央アフリカでの人身売買を根絶し、被害者保護の法律を作りたい」と意気込んだ。
カザフスタンのNPOディレクター
カザフスタンのNPO「サナ・セジム」ディレクターを務めるシャフノザ・カサノバ氏は、移民の行き来が活発な中央アジアで、人身売買被害者の保護に貢献した功績が評価された。
アメリカ国際開発庁の記事によると、カサノバ氏は2006年に「サナ・セジム」で働き始めた。
記事の中で彼女は「活動前は、人身売買の問題の大きさを知らなかった。でも、困っているサバイバーや移民の人たちと出会ったことで、この問題の解決こそが私の使命だと感じた」と語っている。
活動から15年たち、「被害者の数は前より増えているが、被害者がきちんと特定されている証だ」という。
また、カザフスタン政府は、被害者のためのシェルターを用意し、リハビリなどの支援をしているという。記事によると、カサノバさんは「政府と協力し、カザフスタンで被害にあった外国人にも支援を広げていく」と話している。
アメリカ国務省の報告書によると、カサノバ氏たちは、コロナ禍で封鎖されたカザフスタン国境付近で、立ち往生していた10万人超の移民のため、周辺国と交渉し、送還ルートを切り開いたという。
同省のオンライン発表会では、「今回の受賞は、移民労働者や被害者への支援をしているすべての関係者の共同作業の成果で、光栄に思います。今後さらに協力関係を深め、人身売買撲滅に貢献し続けたい」と話した。
メキシコの検察官
メキシコ中部にあるメキシコ州の人身売買専門検察官ギジェルミーナ・カブレラ・フィゲロア氏は、人身売買事件の捜査実績が高く評価された。
アメリカ国務省の報告書によると、フェゲロアさんはメキシコ連邦政府の組織犯罪を担当する特別捜査部門で活躍。2013年にメキシコ州の人身売買専門検察官に就き、チームとして、152件の人身売買について起訴、73件の有罪判決を勝ち取った。
州内3カ所に被害者用のシェルターを設置するための資金を確保し、最大210人の被害者を収容できるようにしたという。
アメリカ国務省のオンライン発表会では「これからの数年で、1人でも多くの被害者を救出すると同時に、1人でも多くの加害者を裁判にかけたいと思っています」と語った。
ガボンのNGO代表
売買された子どもたちが数多く連行されてくる中部アフリカ・ガボン。NGO「ストリートチルドレン支援の国際サービス(SIFOS)」のシャンタル・サグボ・サッセ代表は、そうした子どもたちの支援に尽力してきた。
アメリカ国務省の報告書によると、サッセ氏は2000年にSIFOSを設立。地域住民や政府関係者などと連携し、子どもの被害者を特定するよう努めている。SIFOSが各地に設置した監視チームは、人身売買の疑いのあるケースを見つけ出し、当局に報告している。これまでの20年間で被害者578人を特定し、9039人の社会復帰をサポートした。
アメリカ国務省のオンライン発表会では「将来的には、被害者のための教育訓練センターを建て、彼らが未来のリーダーになれるように支援したい」と決意を語った。
カタールの官僚
来年のサッカー・ワールドカップ(W杯)開催国として多くの外国人労働者を受け入れている中東・カタールでは、「現代の奴隷制」と批判されてき労働制度を改革した官僚が表彰された。行政開発・労働・社会省のモハメド・アルオバイドリー次官補だ。
AFP通信によると、カタールの外国人労働者は約200万人で、全人口の9割を占める。W杯による建設ラッシュが、労働力の需要をさらに押し上げていた。
改革前の制度では、カタールの外国人労働者が転職・出国するには雇用主の許可が必要だった。雇用主が許可しなければ、労働者は働き続けるしかなかった。
アメリカ国務省の報告書によると、アルオバイドリーさんは、この制度の廃止に貢献した。ほかにも、カタール初の被害者保護の施設をつくったり、最低賃金のルールを導入したりするなど、労働環境の改善に取り組んだ。
アメリカ国務省の報告書は「依然としてカタールの労働問題は深刻」としつつも、「弱い立場の市民たちと情報を共有し、省内に労働改革への情熱を徐々に高めていった」と改革の前進を評価した。
アルオバイドリーさんは、オンライン発表会で「加害者を裁くための国際的な仕組みを作り、連携を強めていきたい」と呼びかけた。
スペインのNGOディレクター
人身売買組織の摘発が相次ぐスペイン。そうした被害現場の情報を行政や司法に伝え、摘発に貢献してきたのが、NGO「売春婦の予防・再統合・援助のための協会(APRAMP)」のディレクター、ロシオ・モラ・ニエトさんだ。20年以上のAPRAMPでの活動が評価され、今回、スペイン人初の受賞となった。
人身売買の被害を経験したメンバーも参加するAPRAMPは、その視点を生かして被害者の早期発見につなげている。
新型コロナの感染拡大でスペイン国内がロックダウンされていた3カ月の間も、売春の現場をいち早く見つけ、関係者に情報を提供し続けた。
ニエトさんは受賞にあたり、APRAMPの公式HP上で「日々、人身売買と戦うための衝動は、APRAMPで働くサバイバーたちからもらっている。すべての女性と少女の尊厳が奪われなくなるまで、決してあきらめない」とコメントしている。