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米国はアフガニスタンで勝つはずがなかった。なぜなら「敵」を決められなかったから

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アフガニスタンのカブールで8月24日、米空軍の輸送機に乗る避難する人々=ロイター

真実との戦い
AT WAR WITH THE TRUTH
2019年12月9日付 ワシントン・ポスト紙


先月のニュースで見た映像は驚くべきものだった。アフガニスタンの政府は突然崩壊し、カブールの街は戦わずしてタリバンに占領されてしまった。サイゴン陥落時の写真をほうふつとさせるような、敵に占領された街からアメリカ人を送り出すヘリコプターの姿。空港では、出発する飛行機にしがみつく人々や、離陸直後に転落死する人々など、混乱した光景が広がっていた。

この映像は、近年アフガニスタンにあまり注意を払っていなかったアメリカ人の注目を集めた。誰もが「どうしてこんなことになったのだろう?」と思った。米国は20年間で、アフガニスタンでの戦争に2兆ドルを費やし、ピーク時には13万人の連合軍を指揮すると共に、(少なくとも書類上は)30万人のアフガン治安部隊を構築し、世界で最も洗練されたlethal(殺傷力のある)空軍力を有した。それでも、ill-equipped(装備で劣る)7万5千人程度のタリバン軍を倒すことができなかった。なぜだろうか?

正直なところ、私も実態をぼんやりとしか知らないアメリカ人の一人であった。そこで、この数週間の間に発表された膨大な量の分析や解説の記事を読むとともに、2019年にワシントン・ポスト紙に掲載された、戦争から得られたlessons learned(教訓)に関する米国政府の独自分析を振り返って、このテーマを掘り下げてみることにした。

振り返ってみると、アメリカはアフガニスタンで勝つはずは無かったようだ。なぜなら、「勝つ」とは具体的に何を意味するかが不明確だったからである。アフガン戦争の当初の目的は、テロの脅威をhead off(阻止する)ことだった。しかし、時が経つにつれ、その目的は変化していった。アフガニスタンに民主主義を築くこと、地域に安定したパートナーを作ること、パキスタン、インド、イラン、ロシアなどがある地域でパワーバランスを再形成すること、更にはイスラム過激派の非人道的な行為からアフガニスタンの女性や少女の権利を守ることなどが含まれるようになった。

敵はアルカイダなのか、それともタリバンなのか。パキスタンは友人なのかadversary(敵)なのか。過激派組織「イスラム国」(IS)や数多くの外国人ジハード主義者についてはどうだろうか。また、CIAに雇われている軍閥は? アメリカ政府は、このような様々なグループの位置付けをなかなか決められなかった。その結果、現場において米軍は敵味方の区別がつかなくなってしまった。

また、戦争遂行のための戦略にも問題があった。米軍は、アフガニスタンの軍隊を増強しようとした時、独自のモデルを使ったが、それがアフガニスタンの状況に適していないことに気づかなかった。米軍は地上作戦と航空戦力の組み合わせに大きく依存しているとされ、航空機を使った前哨基地への補給、目標への攻撃、負傷者の搬送、偵察や情報収集を行っている。アフガニスタン軍は、自分たちで飛行機やヘリコプターを管理する技術を身につけなかった。

誤った行動は政治にも見られたという。米国は、カブールにfrom scratch(最初から)米国と似た民主的な政府を作ろうとした。それは、部族社会や君主主義、共産主義、イスラム法に慣れ親しんできたアフガニスタンの人々にとっては異質な概念であった。

Nation-building(国づくり)に躍起になっていたため、米国は多額の資金をthrow around(浪費して)、corruption(汚職)を助長してしまった。米国の議員や軍の司令官は、学校や橋、運河などの土木工事にお金をかければかけるほど早く治安が改善すると考えていたため、米国はこのfragile(脆弱な)国が吸収しきれないほどの援助を注ぎ込んだ。ある請負業者は、政府のインタビューに答えて、アメリカの郡とほぼ同じ大きさのアフガニスタンの一地区のプロジェクトに、毎日300万ドルを分配するよう期待されたと語った。

アメリカ政府がアフガニスタンに費やした大量の援助は、歴史的レベルのgraft(汚職)を生み出した。アメリカ政府は公の場では、汚職は許されないと主張していた。しかし、味方であるアフガニスタンの権力者たちが平気でplundered(略奪を行っていた)ことを見て見ぬふりをした。

汚職を放置することで、自分たちが支えようとしているwobbly(不安定な)アフガン政府への民衆からの正統性を破壊してしまった。裁判官、警察署長、官僚が賄賂を強要するようになり、多くのアフガニスタン人は民主主義にsoured on(失望)し、秩序を守るためにタリバンに頼るようになった。

戦争でアフガニスタンの多くの民間人が犠牲になったことも、多くの人々がアフガニスタン政府とアメリカの支援者を支持しない原因となった。アメリカ軍とタリバンの銃撃戦に民間人が巻き込まれたり、ドローン攻撃の巻き添えを食らったりと、アフガニスタンの大部分は永遠の戦場となってしまった。民間人はまた、タリバンやアフガニスタン軍、米軍が頼りにしている準軍事組織、民兵、軍閥からの報復の対象になることも多かった。2018年に行われた米政府の調査によると、米軍に対するアフガニスタンの支持率は55%で、10年前の90%から低下していた。

一般のアフガニスタン人が、アメリカが作り上げたシステムの猛烈な腐敗や米軍の現地パートナーの悪質さを目の当たりにするほど、タリバンは、自分たちこそが外国の占領者とその協力者に抵抗する真の愛国者であるとアピールすることに成功した。アフガニスタンのアシュラフ・ガニ政権には、国民を鼓舞するのにcountervailing(匹敵する)ほどの物語はなかった。

ほかにも、ここでは詳述しきれないほど無数の問題があった。アフガニスタンの農民の換金作物となっている麻薬アヘンの原料になるケシの栽培について、アメリカが適切な対処法を見つけられなかったこと、アフガニスタンの司令官が何万人もの存在しない「ゴースト・ソルジャー」の給料を懐に入れていたこと、アメリカ人がイスラム教やアフガニスタンの文化について知識がなかったこと、などが挙げられる。さらに、アメリカの軍人が頻繁に変わることで、現地の人との長期的な関係を維持できなかったこと、そして戦争を続けることで経済的な利益を得ていた軍需企業や請負業者に大きく依存していたことなども指摘されている。

この間、米軍は「戦争は前進している」と言い続けた。それがうそだとわかっていても、戦争に勝てないというunmistakable(紛れもない)証拠を隠して、バラ色の宣言をしていた。アメリカ軍の上級指揮官は、それが間違っていると知っていたにもかかわらず、大統領や議会に対して、アフガニスタン軍が完全にプロの戦闘部隊になりつつあると繰り返し主張した。

明確な目標もないまま、進展しているという安心感を持ち、世間の関心が他に向いていたこともあり、歴代の大統領はアフガニスタン戦争を中断することをちゅうちょした。(つづく)

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真実との戦い
AT WAR WITH THE TRUTH
2019年12月9日付 ワシントン・ポスト紙


アメリカが20年かけて作り上げたアフガン軍を、タリバンはどのようにして制圧したのか
How the Taliban Overran the Afghan Army, Built by the U.S. Over 20 Years
8月14日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙


アフガニスタンにおけるアメリカの失敗は、超党派的で長期的なものだった
America’s Failures in Afghanistan Were Bipartisan and Long-Running
8月16日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙


アフガニスタンでの戦争はとうの昔に負けている
We lost the war in Afghanistan long ago
8月16日付 ワシントン・ポスト紙


トランプのタリバンとの不名誉な取引がもたらしたもの
What Trump’s Disgraceful Deal With the Taliban Has Wrought
8月28日付 ニューヨーク・タイムズ紙