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「不名誉なアフガニスタン撤退」が映し出す、アメリカ外交の失敗

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治安維持の名目で、カブール市内に展開するイスラム主義勢力タリバンの特殊部隊とされる画像。8月23日、タリバン構成員が朝日新聞に提供した

【前の記事を読む】米国はアフガニスタンで勝つはずがなかった。なぜなら「敵」を決められなかったから

アメリカが20年かけて作り上げたアフガン軍を、タリバンはどのようにして制圧したのか
How the Taliban Overran the Afghan Army, Built by the U.S. Over 20 Years
8月14日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙


終盤になると、アメリカ国民はアメリカ史上最長の戦争の意義を見失い、関心を持たなくなり、本質的には、open-ended presence(無期限の駐留)ではなく、撤退を望むようになった。2020年の大統領選挙ではforever wars(永遠の戦争)を止めることを、バイデン候補もトランプ候補も支持した。

結局、状況があまりにも悪化した結果、撤退を実現するために、トランプ大統領(当時)がタリバンと直接交渉する必要に迫られた。アフガニスタン政府の関与なしに結んだその合意は、「史上最もdisgraceful(不名誉な)外交交渉の一つ 」(外交政策専門家)と呼ばれた。アメリカは、アフガニスタンからの撤退を切望したため、悪い条件に合意した。

合意したのは、14カ月以内にアフガニスタンからすべての連合軍を撤退させ、アフガニスタン治安部隊に対するすべての軍事・請負支援を終了し、アフガニスタンの内政干渉をやめること。また、アフガニスタン政府には5000人のタリバン戦闘員の解放と経済制裁の緩和を迫った。一方、その条件としてタリバンに求めたことは、米軍や連合軍への攻撃をやめ、アルカイダやその他のテロ組織がアフガニスタンの領土を使って米国の安全を脅かすことを許さず、アフガニスタン政府との交渉を行うということだけだった。

この合意には査察や執行の仕組みがないだけでなく、トランプ政権はその条項を執行しようとはしなかった。

結果として2020年2月のこの合意から、米国の撤退までの間、かつてタリバンに大きな犠牲を強いていた米国の空爆は終了していた。この1年間の猶予を得て、彼らはアメリカの砲撃を恐れずに、軍の再編成や供給ラインの強化、移動の自由を得ることができたという。

アフガニスタン政府は、この時間を賢く使わなかった。ガニ大統領と彼の国家安全保障顧問であるハムドゥラ・モヒブ氏は、トランプが行った合意に反対しており、バイデン政権が方針を転換すると期待していた。まさかバイデンが計画を遂行すると思っていなかった。

アフガニスタンの国軍と警察は、数字の上では35万人を擁し、米国と欧米の同盟国が莫大(ばくだい)な費用をかけて訓練して装備を整えており、タリバンに対する強力なdeterrent(抑止力)となるはずだった。バイデン大統領は4月にアフガニスタンからの全米軍の撤退を発表した際、アフガニスタン軍の力に自信を見せ、「彼らはアフガニスタン人のために、多大な犠牲を払いながらもvaliantly(勇敢に)戦い続けるだろう」と語っていた。

しかし、その後、アフガン治安部隊はhumiliating(不面目な)崩壊を見せた。

ガニ氏はアメリカ軍の撤退について十分な警告を受けていたという。しかし、アフガニスタン政府は、新たな現実に対応するために軍事的基盤を調整するのに失敗した。多くの政府関係者は、米軍が本当に撤退するとは信じていなかった。

バイデン大統領が撤退を決定した後、アメリカが航空支援や情報収集、アフガニスタンの飛行機やヘリコプターの整備を請け負っていた会社も撤退させたため、アフガニスタン軍は活動できなくなった。

タリバンは5月に攻撃を開始したとき、孤立した前哨基地をoverrunning(制圧する)ことに集中した。抵抗した兵士は虐殺したが、地元の部族長が交渉した取引によって降伏した兵士にはsafe conduct(安全通行)を許した。タリバンは、何カ月も給料が支払われていない兵士たちに小遣いを与えた。タリバンが8月に主要地区への攻撃を開始したときには、アフガン軍はdemoralized(戦意を失っており)、ほとんど抵抗できなかったという。

今夏のタリバンの攻撃で次々と地区が陥落していく中、ほとんど支援もない中で兵士たちはもう戦う価値はないと考えたのである。

米国政府は、ガニ大統領がこれほど早く国外に脱出し、カブールの治安部隊が崩壊し、空港の民間人が無防備になるとは予想していなかったという。そのため、米国は取り残された人々の避難に奔走することになった。最終的には12万人以上の避難が完了したが、米国の元従業員や、米国と密接に協働したアフガニスタンの特殊部隊のメンバーなど、多くのアフガニスタン人が取り残された。また、空港の混乱に乗じて自爆テロが発生し、13人の米軍兵士を含めてアフガン市民ら180人以上が犠牲になった。

■アフガニスタン戦争の終結は政治問題に

イスラム主義勢力タリバンが占拠したカブールの美容院。女性の肖像の目や口が塗りつぶされていた。タリバン強硬派は、女性が夫以外の男性の前で着飾ることや、目以外の部位を露出することを認めていない=2021年8月21日

現在、戦争終結の方法をめぐって、ワシントンで政治的な問題となっている。

バイデン政権は、2週間半の間にカブールの空港から12万人以上を空輸したことを挙げ、避難作戦が成功したとしている。しかし、大統領を批判する人々、特に共和党の人々は、軍を撤退させ、アメリカ市民や永住権保持者、特別移民ビザ保持者などを置き去りにしたことを非難している。ロイド・オースティン国防長官やアントニー・ブリンケン国務長官の辞任を求める声もある。

共和党はバイデンに責任を負わせようとしている。しかし民主党は、2020年にタリバンと交渉して撤退プロセスを開始したのはトランプであり、バイデンはトランプが交渉した合意と撤退の期限を引き継いだだけであると主張している。民主党は、ここ数週間のblunders(失態)だけでなく、米国がアフガニスタンをタリバンに手放さなければならない状況に至るまでの20年間の意思決定のほぼすべてをscrutinize(精査し)たいと考えているようだ。その多くは共和党の大統領政権下で行われたものだ。

国民はどう感じているのだろうか?世論調査によると、アメリカ人はアフガニスタン戦争を終結させるというバイデン大統領の決定を圧倒的に支持しているが、混乱した撤退方法については2対1の大差で不支持である。

「撤退をこうすればよかった」といった様々な代替案が議論されているが、もしそうしていたら事態をどれほど好転したのかは不明である。 コラムニストのファリード・ザカリア氏はこう指摘している。「米国はもっと交渉を重ねた上で、より良い方法で、よりゆっくりと、別の時期に撤退することができたのではないか? 間違いない。今回の撤退は、計画と実行が不十分だった。しかし、真実はこうだ。戦争に敗北するのに、エレガントな方法はないのだ。」

ニューヨークタイムズのオピニオンコラムニスト、エズラ・クライン氏は次のように述べている。「撤退の実行に焦点を当てることは、アフガニスタンを再構築できると主張したほぼ全員に、graceful(潔い)撤退の可能性があると信じるように見せかけることで、自分たちの失敗を覆い隠す機会を与えている。しかし、我々のignominious(不名誉な)撤退が本当に反映しているのは、アフガニスタンでの予測と政策立案の両方の面で、アメリカの外交政策が失敗したということだ」

アフガニスタン戦争のことについての記事を読めば読むほど、とても悲しくなる。アメリカ人として、私は自国の行動によってもたらされた死と破壊を非常に恥ずかしく思っている。納税者としては、20年間にわたって巨額の税金が無駄に使われたことにがくぜんとしている。また、経営コンサルタントとしてみても、途方もない管理不行き届きとお粗末なリーダーシップに驚いている。

クリス・マーフィー上院議員はとても上手にそのような気持ちを要約している。「この政策の失敗のepic(壮大な)規模を考えてみてください。20年間の訓練。2兆ドル以上の支出。(マスコミに流れている)これらの映像を見ると胸が張り裂けそうになりますが、illusory(幻想の)目標を追求するために無駄にした努力、命、お金のことを考えると同様に胸が張り裂けそうになります」

この20年の間に21世紀を謳歌(おうか)したアフガニスタンの国民、特に女性にとっては戦争が終わった訳ではなく、試練が訪れていると言える。そんな彼らのことを考えずにはいられない。

今、私が気になっているのは、戦争で起こったことをきちんと清算できているのか、そして国としてそこから何を学ぶことができるのか、ということである。そして、今後の行動をどのように変えるか。9.11以降の対テロ戦争、政権交代、国づくりへの取り組みによって培われた巨大な国家安全保障体制や軍産複合体はどうなるのか。それは魔法のように消え去るものではなく、海外での更なる誤算を引き起こすかもしれない。

今後、アメリカは世界でどんな姿勢を取れば良いのかについて、マーフィー上院議員は一つのビジョンを示している。「私はアメリカにもっと前線に出てほしいと思っていますが、それは大規模な国際金融部門と大規模な再生可能エネルギー部門を通してです。それこそが世界に広がって欲しいアメリカの姿です。現在のように、武器販売、軍事訓練、brigades(軍団)ではないのです」

アフガニスタン戦争の残念な20年間の結果として、このようにアメリカの世界の中での役割を考え直すことができれば、少しの慰めになるかもしれない。


アメリカが20年かけて作り上げたアフガン軍を、タリバンはどのようにして制圧したのか
How the Taliban Overran the Afghan Army, Built by the U.S. Over 20 Years
8月14日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙


アフガニスタンにおけるアメリカの失敗は、超党派的で長期的なものだった
America’s Failures in Afghanistan Were Bipartisan and Long-Running
8月16日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙


アフガニスタンでの戦争はとうの昔に負けている
We lost the war in Afghanistan long ago
8月16日付 ワシントン・ポスト紙


アフガニスタンからの撤退方法が真の問題だったと装うのをやめよう
Let’s Not Pretend That the Way We Withdrew From Afghanistan Was the Problem
8月26日付 ニューヨーク・タイムズ紙


トランプのタリバンとの不名誉な取引がもたらしたもの
What Trump’s Disgraceful Deal With the Taliban Has Wrought
8月28日付 ニューヨーク・タイムズ紙


アメリカ人はアフガニスタンからの撤退を支持しているが、その方法は支持されていないことがPost-ABCの世論調査で明らかになった
Americans support Afghanistan pullout — but not the way it was done, a Post-ABC poll finds
9月3日付 ワシントン・ポスト紙


史上最大級の空輸で取り残されたアフガニスタンの人々の中に、米国大使館の契約者やビザ申請者が含まれていた
U.S. Embassy contractors, visa applicants among Afghans left behind after one of the largest airlifts in history
9月5日付 ワシントン・ポスト紙


将軍の機密証言は、アフガニスタン撤退をめぐる政治的分裂を際立たせた
General’s classified testimony underscores political split over Afghanistan exit
9月18日付 ワシントン・ポスト紙