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ワクチン接種証明書、偽造品がアメリカで急増 リスク冒しても欲しがる心理とは

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ワクチン接種を証明するカード=ニューヨーク市のマウントサイナイ病院、©Anthony Behar/Sipa USA via Reuters Connect
ワクチン接種を証明するカード=ニューヨーク市のマウントサイナイ病院、©Anthony Behar/Sipa USA via Reuters Connect

ニューヨークのバーはしばしば、入り口の隣に体格のいい男性が控えている。「バウンサー」と呼ばれる警備スタッフで、未成年が入場しないよう、身分証明書を確認するのが仕事の一つだ。

筆者のようなアラフィフの中年も例外ではなく、運転免許証などを渡さないと中には入れない。

ただ最近は、さらに別のものも見せないと、入店させてもらえない。新型コロナウイルスのワクチンを接種した、という証明だ。

以前はバウンサーも生年月日と顔写真を見るだけだったが、今では身分証とワクチン接種記録の氏名が一致しているかなどを確認するため、チェックも念入りになっている。

ニューヨーク市内では、成人のうち8割がワクチンを少なくとも1回打っており、7割近くが完全に接種を終えている。

アメリカで最初に新型コロナウイルスのワクチンを接種した看護師サンドラ・リンゼイさん=2020年12月、ニューヨーク州知事室提供
アメリカで最初に新型コロナウイルスのワクチンを接種した看護師サンドラ・リンゼイさん=2020年12月、ニューヨーク州知事室提供

しかし、マイノリティーを中心にワクチン接種に抵抗を示す人もおり、接種率の伸びが鈍化している。そこでデブラシオ市長が打ち出したのが、飲食店の店内で飲食する場合の、ワクチンの義務づけだ。

「我々の社会に完全に参加したいのであれば、ワクチンを受けなければならない」「これらのお店を利用するための唯一の方法は、ワクチン接種することだ」

義務づけを公表した8月の会見で、デブラシオ氏はこのように説明した。一つの空間を共有している人たちの間の安心感を高めると同時に、まだワクチンを接種していない人に促進する効果を狙ったといえる。

飲食店側に確認を義務づけるルールは8月から試験的に実施され、9月13日から正式に施行された。違反した場合は、1000ドルの罰金などが科されることもある。

アメリカでは飲食店のほかにも、コンサートやミュージカル、スポーツイベントなどで新型コロナワクチンの証明を求めるケースが増えている。

ニューヨーク市のように、行政当局が義務づけるケースもあれば、コンサートの主催者が条件にすることもある。

従業員に対し、ワクチン接種を義務づける企業も相次いでいる。バイデン大統領も、連邦職員にワクチンを義務づけ、従業員が100人以上の企業にも同じ義務づけを求めることを表明している。

観光客らで混み合う米ニューヨークのタイムズスクエア=2021年6月
観光客らで混み合う米ニューヨークのタイムズスクエア=2021年6月

ところが、こうした義務化と合わせて、思わぬ現象が起きている。偽造されたワクチン接種証明書も、急速に拡大しているのだ。

ニューヨークの検察当局は8月31日、偽造されたワクチン証明書の売買に関与したとして、15人を摘発したと発表した。

このうち、31歳の女性は「@antiVaxMomma」(反ワクチンママ)というインスタグラムのアカウントを通じて、約250枚の偽造されたワクチン証明書を、1枚あたり200ドルで売っていたという。

また、別の27歳の女性と一緒に、ニューヨーク州内のワクチン接種者データベースに10人を不正に登録したという。残り13人は、偽造された証明書を購入し、病院や介護施設などで働く人たちだった。

元々、アメリカのワクチン証明書は極めてシンプルだ。疾病対策センター(CDC)が作成した厚紙の記録用紙に、接種をした医療機関が氏名や日付、ワクチンの種類とロット番号を手で書き込むだけ。

後から確認するための通し番号や、接種した人が署名する欄すらない。名刺より一回り大きいサイズの用紙も、特に保護されているわけではなく、個人でラミネート加工をする人がいるほどだ。

ワクチンを素早く行き渡らせ、個人が接種したという記録を残すということだけであれば、このシンプルさは強みとなる。

しかし、ワクチン接種の記録が様々な局面で、証明書として用いられるとなると、偽造を容易にするという問題をはらむ。

ニューヨークの検察によって摘発された女性が、どのように証明書を入手したかは明らかになっていない。

ただ、アメリカの税関当局は中国から送られていると明かし、偽造用紙を少なくとも数千枚、押収している。8月の発表によると、テネシー州メンフィスでは一晩だけで不審な荷物が15個確認された。送り主は全て同じだったが、宛先はすべて異なる都市だったという。

米国の税関当局が9月に押収した、中国から送られた偽造ワクチン証明書。米国の各地で、同じような押収が相次いでいる=米税関・国境警備局提供
米国の税関当局が9月に押収した、中国から送られた偽造ワクチン証明書。米国の各地で、同じような押収が相次いでいる=米税関・国境警備局提供

冒頭で紹介したニューヨークの飲食店も、偽造されたワクチン証明書の対応には困っているようだ。ワクチンの接種記録の写真を見せる人もいるが、あるバーで働く男性は「画像加工が可能な証明は、できれば避けて欲しい」と話す。

ただ、問題の解決は容易ではない。アメリカでは新型コロナのワクチン接種は原則として無料で、不法滞在者であっても打てる。ニューヨーク市などではより多くの人に打ってもらうため、1人あたり100ドルの「奨励金」を出しているほどだ。

にもかかわらず、250ドルを払い、刑事罰の危険を冒してまで偽造されたワクチン証明書を購入する人が相当数いることは、ワクチンに対する潜在的な抵抗感がいかに強いかを物語っている。しばらくは、偽造されたワクチン記録とのいたちごっこが続きそうだ。