シリコンバレーは夏に向けて気候もよくなり、雰囲気が明るくなってきました。私の住むエリアでは、子どもたちは去年の3月から通学せずにオンライン・ラーニングが続いていましたが、ようやく週5日の対面授業が再開されました。
レストランや映画館、オフィス、ジムなどの屋内施設は収容人数の50%までと制限が拡大されました。
日本でもワクチン接種を待ちわびている方が大勢いらっしゃると思います。日本ではワクチンの普及はこれから本格化することでしょう。一日も早く多くの人にワクチンが行き届くよう切望しています。
ワクチン接種の予約などをめぐって、日本で混乱が起きていることはこちらでも報道などを通じて知っていますし、両親に変わって彼らの予約のために私もパソコンと長時間格闘しました。
実はアメリカでも同じように混乱がありました。
アメリカのワクチン接種は昨年12月半ば、医療従事者などから始まりました。それから5ヶ月たった現在、私たちが住むカリフォルニア州では住民の55.7%が少なくとも1回はワクチンを接種しています
アメリカでは、不法滞在者も健康保険がない人も全員がワクチンを無料で接種できます。
ただ、その順番は高齢者が優先。ほかにも疾患がある人や妊婦、エッセンシャルワーカー(医療従事者、介護施設入居者とその従業員、食品、運輸関係、銀行、郵便局、消防士、警察、レストランや店舗勤務者、教員、保育所職員ら)も優先順位が先でした。
エッセンシャルワーカーでもなく、これといった疾患もなく、そして年齢的にも最も対象者が多いカテゴリー(16歳~49歳)に属する私は、最後の最後のグループでした。
感染にも気をつけながら首を長くして自分の番を待っていました。待ちきれなかったのか、住民の中にはレストランに働いていることにして(もしくはボランティアやほんの短期間だけフードデリバリのバイトをして)、早めに受けた人もいました。
接種会場で確認されるのは生年月日と名前程度です。「申告内容に虚偽はありません」と同意はしますが、職業の書類チェックまでしないところがほとんどなので、そういった「不正」もできてしまうのです。
私は正しい手段で早く接種できる方法を探しました。そこで目を付けたのが、ワクチン会場で受付や案内のボランティアです。キャンセルなどでワクチンが余ったら接種できると聞き、応募しましたが、ボランディアの機会は回ってきませんでした。
一方、人によっては夕方5時ごろにワクチンを接種している薬局に行き、余っていたら予約なしで受けられたとのことです。
ちなみにこの頃の時候の挨拶は「ワクチンはもう受けましたか?」。
アメリカでは通常、年齢をダイレクトに聞くのはタブーですが、この質問の答えによって微妙に年齢のグループがわかります。私はカテゴリーの中では限りなく上の方でしたが、接種がまだなのをとらえて「私はヤング組ですのでまだです(笑)」と話していました。
ワクチン接種が始まってから4ヶ月後の4月半ば。16歳以上全員が対象となり、ようやく私も予約ができるようになりました。
ところが、予約が殺到した上にサイトの使い勝手が悪かったため、3、4時間以上「格闘」してようやく予約できたという人がたくさんいました。
カリフォルニアではMyTurn(私の番)というサイトからインターネットで申し込みました。
ワクチンプロバイダーの医療機関、薬局、大学の各サイトに飛んで予約をするのですが、結局どこでアポイントが取れるのかは、いくつものサイトを何度もチェックしなければなりませんでした。
最初に確認したときには予約の空きがなくても、15分後に再度チェックすると空きが一つ出るなど、まさに刻一刻と状況が変わるのです。「スタンフォード大学、今アクセスしたら空きがでてた!」「今ナパで予約取れた」と友達や同僚から電話やスラックでメッセージが届くと、そのサイトに飛んで確認するという作業が続きました。
費やした時間は少なくても3時間。クリックしても次のページに行かないなど、システムダウンもありました。
シリコンバレーのエンジニアの中には、異なる予約サイトや供給状況を一つにまとめたポータルサイトをボランティアで開発する人も出てきて、私もそういったサイトを利用しました。
このようになる一因は、接種の可否がワクチン供給量やタイミングに大きく左右されるからです。
例えば、50歳以上が対象になったときはワクチンが余剰していたらしく「余っているから受けにきなさい」と病院から連絡があった人がいました。さらには「スマートフォンで、ささっと取れたよ」という人もいました。
それにしても最初の頃は本当に予約が取りづらく、サンフランシスコから車で7時間かかる北のオレゴン州近くや、逆に南に6時間のロサンゼルス近くの会場しか空きがなかったこともありました。
実際に3時間かけて離れた場所に受けに行った人もいます。2回目も同じ場所で受けなければいけませんので、また3、4週間後には1回目に受けた場所に戻らなければなりません。
さて、シリコンバレーの接種会場を紹介します。
病院のほか、東京ビックサイトのようなコンベンションセンターのほか、巨大スポーツ施設もありました。例えば、アメリカンフットボールチームのサンフランシスコ・フォーティナイナーズの本拠地、リーバイス・スタジアムです。
アメリカ最大の薬局チェーン「ウォルグリーン」やコンビニエンスストア、薬局併設のスーパーマーケットといった商業施設でも可能で、接種場所は実に様々です。
変わったケースだと「ドライブスルー方式」というのもあります。大きな駐車場を利用し、接種を受ける人たちは車で乗り入れて順番を待ちます。
ワクチンを投与できる人も多様です。医師、歯科医、軍のメディカルチーム、獣医、看護師、適切なトレーニングを受けている医学部の学生、消防士、引退した医師…。皆さん総出で対応し、普及のスピードアップに尽力しています。
予約は大変でしたが、接種自体は非常にシステマティックで、15分間の経過観測も含めてあっという間に終了しました。
これまで16歳以上に許可されていたワクチンは、ファイザー社のものに限って、12~15歳にも拡大されました。予約も先週から始まり、12歳になったばかりの私の子どもは大喜びで、早速1回目を摂取し、数週間後に2回目を受ける予定です。
接種済みを条件に一部の子ども向けサマーキャンプの申し込みが始まりました。いよいよ通常の夏に戻るかもしれないと思うと感無量です。
ワクチンへの不信感が強かったり、接種は1回で大丈夫と判断したり、面倒くさがったりして2回目の接種を受けない人がいます。
それが影響してか、摂取のペースは落ちているようです。接種しないのなら日本やほかの国にワクチンを回して欲しいくらいですが、摂取率を上げようと、自治体や民間組織が様々な「特典」を考案しています。
ウェストバージニア州では16~35歳に対し、接種したら100ドルを渡します。ニューヨークでは接種した人は野球の観戦チケットがただでもらえます。クリスピードーナツが1個無料でもらえるところもあります。
接種済みの人向けに新しいガイダンスが5月3日に発表されました。それによると、接種から2週間たった人は屋内外を問わず、マスクを着用しなくてもいいということに。また、ソーシャルディスタンスも取らなくてよくなりました。
急に「マスクしなくてもいいよ」と言われても、もはや違和感があります。それでも、いざ始まってしまえば、マスクなし生活にあっという間に慣れてしまうのでしょう。
でも裏を返せば「ワクチンを受けたらマスクを外してもいいですよ、でないと、マスク着用は続けて下さいね」というメッセージでもあるので、ガイダンスは、ワクチン普及を加速させたいという政府の思惑もありそうです。
私はこれまで、インフルエンザの注射はもちろん、病気で薬を飲むのも抵抗があったので、予防接種や投薬をできる限り避けてきました。ただ、今回は事情が違うと思い、接種を受けました。というのも、新型コロナウイルスの感染力がすさまじいからです。
私の周囲で何人コロナに感染したか、改めてカウントしてみると30人以上にのぼります。
アメリカでは10人に1人が感染し、560人に1人が亡くなっています。学校もオンラインが1年以上続き、私もリモートワークが継続。人と会ったり、旅行したり、買い物したり、何をするにも厳しい制限が伴います。そんな生活が1年以上も続きました。
ワクチンの普及で感染者数は減少傾向にはありますが、それでもまだ1日あたり2万2千人以上の新規患者が報告されています。これに対し、日本は4536人(5月26日現在)です。
このような強烈な体験をした後では、「ワクチンを受けない」という選択は私にとってはちょっとなかったです。
1回目の注射を受けた後、長いトンネルをようやく抜けられたような気持ちで胸がいっぱいになりました。2回目も完了しました。
ところで皆さんが最も気になるのは、ワクチンによる副反応ではないでしょうか。結論から言うと、何らかの副反応がある人がほとんどです。次回で報告します。