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舞台はソマリア、テーマは南北 映画『モガディシオ』コロナ禍で久々のヒット

現地発 韓国エンタメ事情 更新日: 公開日:
映画『モガディシオ』から。ソマリアで対立する韓国と北朝鮮の両大使館員。左からチョ・インソン、キム・ユンソク、ク・ギョファン、ホ・ジュノ=ロッテエンターテインメント提供

■「南北」もの、鉄板だがリスクも

「南北」は韓国映画の「鉄板」だ。ほぼ毎年のように南北をテーマにした映画が登場し、ヒット作も多い。近年ではイ・ビョンホン、ハ・ジョンウが主演し、白頭山の大噴火を食い止めようと奔走する「白頭山大噴火」(2019年、825万人)、「黒金星」と呼ばれた実在の工作員(ファン・ジョンミン)を主人公にした「工作 黒金星と呼ばれた男」(2018年、497万人)、ヒョンビン、ユ・ヘジンが主演し、南北の共同捜査を描いた「コンフィデンシャル 共助」(2017年、781万人)などがヒットしている。いずれも南北の男同士、当初は対立しながらも共に困難を乗り越える中で信頼と友情が芽生えていく。そして最後には別れが待っている。実際の南北関係は短い期間で変わりやすく、映画の企画段階で公開時の関係を予測するのは難しい。文在寅政権は基本的には「親北」だが、それに反感を持つ人も少なくない。人気のテーマでありながら、リスクも伴うのが「南北」だ。

映画『モガディシオ』から。作品で再現されたソマリア内戦=ロッテエンターテインメント提供

「モガディシオ」は4人の男がメインで、韓国も北朝鮮も大使同士は「穏健派」、部下の参事官同士が敵対心を燃やしている。血の気が多く、すぐに掴みかかろうとする2人を大使がなだめる。絶妙なバランスだった。韓国側をキム・ユンソク(大使)とチョ・インソン(参事官)、北朝鮮側をホ・ジュノ(大使)とク・ギョファン(参事官)が演じた。チョ・インソンが演じたのは肩書は参事官でも韓国の情報機関KCIA(現・国家情報院)から派遣された要員で、体を張ったアクションの見せ場もありつつ、自信満々でつたない英語と韓国語を混ぜながら交渉する姿など魅力的なキャラクターだった。

リュ・スンワン監督といえばアクションで知られるが、今回も銃撃の嵐をくぐり抜けるカーチェイスなど、ほぼ全編緊張感が途切れない。特にソマリア内戦の再現が圧巻だった。実際にはソマリアではなくモロッコで撮影したという。ソマリア内戦は今も続いているためだ。コロナ感染が広まる前に4ヶ月にわたって撮影し、製作費は250億ウォン(約23億円)と報じられている。

映画の冒頭、韓国大使はソマリア大統領との面会に向かう途中、襲撃される。撃たれたのは車で、大使は無事だった。職員と共に走って約束の場所に行くが、遅刻したから大統領は次の約束に移動したと告げられる。そこで目撃するのは北朝鮮大使だ。次の約束は北朝鮮大使だったようだ。冒頭の襲撃は、北朝鮮側が、韓国大使とソマリア大統領の面会を妨害したものだった。

映画『モガディシオ』から。冒頭、韓国大使の乗った車が襲撃される=ロッテエンターテインメント提供

これに対する報復のように、韓国側は、ソマリアの反政府軍の武器が北朝鮮から入ってきているという真偽不明の情報を海外メディアに流し、北朝鮮のソマリアでの立場を揺さぶろうとする。

韓国大使館と北朝鮮大使館の対立は、映画の中だけの話ではない。背景には、国連加盟をめぐる競争があった。国連加盟のためにはアフリカ各国での票獲得が重要だったが、韓国も北朝鮮も互いに自国が朝鮮半島の唯一の合法的な政府であると主張していたからだ。結果的には、この映画の素材となったソマリア脱出事件のあった1991年に韓国と北朝鮮が同時に国連に加盟している。

映画『モガディシオ』から。駐ソマリア韓国大使(キム・ユンソク)と参事官(チョ・インソン)=ロッテエンターテインメント提供

映画の中では、北朝鮮大使館が襲撃され、職員と家族が行き場を失って韓国大使館を訪ねてくる。「かくまってほしい」と言うのだ。国連加盟をめぐっては憎きライバルだが、拒めば路頭で殺されてしまうかもしれない。幼い子どもたちもいる。迷った挙句、韓国大使館は受け入れることにするが、あわよくば全員を韓国へ亡命させようとの目論みもあった。初めて一緒に食事をする場面で、北朝鮮の人たちは当初食べるのをためらっていた。毒が盛られているかもしれないと警戒していたのだ。こうして互いに疑心暗鬼の共同生活が始まる。同じ民族として情はわくが、いつ裏切られるか分からない緊張感。複雑な関係だったのが、次第に「生きて脱出」という一つの目標に向かい団結していく。

映画『モガディシオ』から。韓国大使館に助けを求めて来た北朝鮮大使館の職員と家族=ロッテエンターテインメント提供

実際に南北が協力してソマリア内戦から脱出したことは、当時報じられてはいたが、今回の映画で知った人も多かったようだ。映画をきっかけに実話にも注目が集まっている。アフガニスタンのイスラム主義勢力タリバンによる首都カブール占拠のニュースと映画の中のソマリア内戦を重ねて見る観客も少なくない。韓国内のみならず、海外での注目度も高く、日本を含む50ヶ国余りで上映される見込みという。