彼が長く暮らしていたのは170平方メートルの510号室。現在、この部屋は「ココ・シャネル・スイート」と呼ばれる。第2次世界大戦後に、フランスを追われる形で亡命していたシャネルが一時滞在したという。
この部屋は一般の予約も受け付けており、1泊の料金は4500スイスフラン(約45万円)。ちなみに、一番安価なダブルルームなら、1泊3万円台で泊まれる時期もある。
サマランチは毎日、午前7時に起床。1時間の柔軟体操、筋力トレーニングを欠かさなかった。寝室には、ゴムチューブや背筋をのばすためのぶら下がり健康器などがあった。
食事はホテル内の「ラ・ターブル」でシェフが用意した定食メニューを取ることが多かった。元秘書に聞くと、「鶏肉でも魚でも、とくにこだわりはなく、出されるものを食べた」。
嫌いだったのは晩餐(ばんさん)会。1986年のローザンヌ総会で、有名な逸話がある。シェフが気を利かせて料理の品数を増やしたのがまずかった。1時間を過ぎると、サマランチは突然席を立って寝室に戻ってしまった。
一体、いくらで暮らしていたのか。IOCが公表した98年のサマランチのローザンヌのホテル代、生活費は20万4000ドルだった。
一方、後任の会長、ロゲは夫婦そろってパレスホテルで暮らす。コンシェルジュ歴15年のスタッフによると、「料理が出来るようにキッチンが欲しいという要望があり、会長就任後に改装した」という。会長は無報酬だが、仕事にかかわる経費はIOCが負担する。2012年のロゲのホテル代、旅費などは計70万9000ドル。「孫へのプレゼントは会長のポケットマネーから出しています」(IOC広報)。
パレスホテルには、宿泊客用のエレベーターが3基あるが、ロゲが暮らす7階のボタンがついたエレベーターは1基しかない。しかも、押してもランプがつかない。
すぐ横にあるボタンでパスワードを押さないと、上がれない仕組みになっているようだ。ホテルによると、9月に就任する予定の新会長が、同じ7階の部屋を借りるかどうかは、まだ分からないという。