夏季五輪は今、競技同士の熾烈なサバイバル時代を告げている。
今年2月、IOC理事会で、伝統競技であるレスリングが2020年からの「中核競技」から除外されることになった。五輪からの退場勧告に近かった。
ところが、世界中で存続を求めるキャンペーンが盛り上がり、IOCはひるんだ。5月末の理事会では、野球・ソフトボール、スカッシュとともに、レスリングは20年五輪の追加競技候補に残った。9月のIOC総会で、残り1枠の座を争う。
8月には、2016年リオデジャネイロ五輪から4階級を実施してきた女子レスリングを6階級に増やすことが決まった。そのあおりを受けて、男子はフリー、グレコローマンの1階級ずつが減らされる。除外候補になったのは出場枠の男女比率が偏っていることが一因とみて、国際レスリング連盟が働きかけていたからだ。
■男女で同じ種目は必要か
男女同権は、もちろん尊重されるべきだ。ただ、あくまでも私見だが、五輪競技すべてにおいて男女で同じ種目を実施すべきとは思わない。南海キャンディーズのしずちゃんは、怒るかもしれないけれど、女子のボクシングの競技人口は多くはない。来年のソチ冬季五輪で高梨沙羅のメダル獲得が期待されるノルディックスキーの女子ジャンプも、まだ女子の裾野は広がっていない。世界の頂点を争う人たちの頑張りに水を差すつもりはないし、五輪種目になったことで、その競技に挑む少女が増えるという効果も理解できる。
では、なんでもかんでも男女平等というなら、男子にも新体操やシンクロナイズドスイミングも実施すべきだけど、そういう声はあまり盛り上がらない。
1896年の第1回アテネ大会で、わずか8競技で始まった夏季五輪は、前任のサマランチ会長時代に膨脹した。「世界最高の祭典に」という旗印の下、テニスが復活、トライアスロン、ビーチバレーなどが加わった。冬季大会ではスノーボードが若者に支持される代表格の新興種目だ。
■何かを拾えば、何かを削るしかない
しかし、肥大化に伴い、とくに夏季五輪は開催できるのが世界有数の大都市が限られる弊害が生まれた。2001年にロゲ会長が就任してから、28競技という上限が決まった。野球とソフトボールが08年北京五輪を最後に外され、代わりに16年リオデジャネイロ大会からゴルフと7人制ラグビーが加わる。ともに、ロゲ会長の「お気に入り」といわれる。ロゲ会長はゴルフをするし、ラグビーはベルギー代表の経歴を持つ。ともに欧州でなじみが深いという共通項もある。
さて、今後はどうするのか。9月の総会ではレスリングが存続する可能性が大きいといわれる。28競技という上限を守るなら、将来的に既存競技のどれかを削らざるを得ない。
ロゲ会長は9月で12年の任期を終え、引退する。次の会長はどうするのか。痛みを伴う改革を断行するのか、それとも、28競技という上限を撤廃するのか。IOCは分岐点にいる。(稲垣康介)