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韓国ドラマ「模範タクシー」に快感感じた視聴者 モチーフは実在のパワハラ事件 

現地発 韓国エンタメ事情
ドラマ「模範タクシー」ポスター ©SBS

模範タクシーは実際にソウル市内を走っている、車体が黒いタクシーだ。料金は一般タクシーに比べてちょっと割高だが、比較的安全運転で運転手も親切なことが多く、旅行や出張で来る外国人がよく利用する。

ドラマ「模範タクシー」の主人公キム・ドギ(イ・ジェフン)はタクシー運転手で、特殊な設計が施された模範タクシーに乗って復讐代行に臨む。復讐代行はキム・ドギ一人ではなく、タクシー会社「ムジゲ運輸」のメンバーたちが密かにチームで動いている。一方、連続して事件の加害者が行方不明になる奇妙な点に着目した女性検事カン・ハナ(イ・ソム)は、キム・ドギとムジゲ運輸のメンバーを疑い始める。

モチーフになったパワハラ事件は、2018年に報じられたIT企業のヤン・ジンホ会長のパワハラ事件だ。ヤン会長が部下に土下座をさせたり、平手打ちを連発したりする動画が報じられ、韓国社会に衝撃を与えた。

ドラマでは会社名や会長の名前は違うが、IT企業の会長が社員に平手打ちを連発して罵倒する場面があった。顧客に謝罪したという、理由にもならない理由だった。さらにドラマの中のこの会社はわいせつ動画を違法に流通させて利益を得ており、ムジゲ運輸のメンバーの姉も被害者の一人だ。キム・ドギはこの会社に入社して「潜伏捜査」をし、会長への復讐の機会を探る。

「潜伏捜査」のためIT企業の面接を受けるキム・ドギ ©SBS

ドラマで会長の側近が赤や青のカラフルなヘアスタイルなのも、ニュース映像で見たヤン会長の側近と同様だ。実際、ヤン会長の平手打ちの様子は隠し撮りではなく役員に撮影させていたというが、ドラマでも同じように描かれた。

ヤン会長は今年4月、懲役5年の刑が確定している。報道によれば、裁判所が認定した罪の内容は、社員を土下座させたり、平手打ちしたりしたこと、社員の髪の毛を赤く染めさせたことなど、当時報じられた内容そのままだった。

模範タクシーを運転するキム・ドギ ©SBS

韓国のパワハラ事件としては、2014年、大韓航空の副社長(当時)が客室乗務員のナッツの提供の仕方を理由に飛行機を搭乗ゲートに引き返させた事件や、同じく大韓航空のオーナーの次女が取引先の社員に怒り、コップの水をかけたとされる事件が話題になったこともある。日本では「ナッツ姫」「水かけ姫」などと報じられた。

ところで韓国ではパワハラのことを「甲(カプ)チル」と言う。日本語でも甲乙は契約などで使ったり、優劣の判断が難しい時に「甲乙つけがたい」などと言う。韓国では甲と乙は、はっきり上下を表す言葉で、甲が上、乙が下だ。カプチルのチルは「~すること」という意味なので、カプチルは直訳すれば「甲をすること」。上の者が下の者に対してする、いわゆるパワハラだ。

韓国にいると、自分が相手との関係で甲(上)なのか乙(下)なのか把握するように助言されることがある。日本で取材先や仕事でお世話になっている人と飲みに行く時、上下関係を意識することはあまりなかった。ところが韓国では、飲みに行く前に友達から「今日はどっちが甲なの?」と聞かれ、意味が分からず、どういう人と飲むと説明すると、「じゃあ、彩(筆者)が甲(乙)だね」と判断される。それをわきまえて接するように、というアドバイスなのだ。

被害者に代わって復讐をするキム・ドギ(右) ©SBS

例えば映画の記事を書くライターである私が、映画会社の広報担当者と飲みに行く時、韓国では私が「甲」だそうだ。広報担当者にとっては作品について記事を書いてくれるライターが「上」なのだ。あるいはポータルサイト運営会社の社員と飲む時には私は「乙」だと言われた。ポータルサイトに記事を載せてもらうライターという「下」の立場なのだ。上下関係を把握する必要性は個人的にはあまり感じないが、韓国では日本以上に甲乙(上下)を意識する人が多いと感じる。

近年韓国社会はカプチルに敏感になっており、#MeToo運動以降セクハラに厳しくなったように、カプチルも以前のようには看過されないようになってきた。そのきっかけは、ヤン会長や大韓航空の姉妹のような行き過ぎたカプチル事件だったように思う。

キム・ドギと「ムジゲ運輸」のメンバーを追うカン・ハナ検事 ©SBS

ドラマ「模範タクシー」ではヤン会長の事件以外にも、猟奇的な性暴行によって少女に大けがを負わせたチョ・ドゥスン事件など複数の実際の事件がモチーフとなっている。視聴者としては事件についてのニュースを見て感じたもやもやをドラマの中で解消するようなカタルシスが感じられた。

「模範タクシー」は日本ではCSチャンネル・KNTVで7月11日から放送される。