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出演者は男女同数に BBCの「50:50」、どんなプロジェクトか担当者に聞いた

Global Outlook 世界を読む
ニーナ・ゴスワミさん=Betty Zapata氏撮影

■「男性の声しか聞こえてこない」抱いた疑問

ーー出演する男女比を50%ずつにすることを目指す「50:50」とはどんな取り組みですか。

三つの大原則があります。

①継続してデータを取る
②制作側の裁量で決められる出演者のデータで進捗(しんちょく)を測る
③決して品質で妥協しない

です。

平日のレギュラー番組なら扱うテーマや日付で女性の割合が増減するため、1カ月の平均で50%を目指します。また、首相や事件の目撃者など、作り手にコントロールできない人の男女は考慮しません。そして、女性の割合を50%にすることを目指しつつ、決して番組の品質を犠牲にしません。常に最良の出演者を選ぶことが鉄則です。

ーーどのように始まったのですか。

BBCの夜の報道番組のキャスターを務めるロス・アトキンス氏が発案しました。2016年暮れ、彼がドライブ中に聴いていたBBCのラジオ番組で、長い時間、男性の声しか聞こえてこないことに気づいたのです。調べてみると、彼自身の番組でも女性の割合は4割を切っていました。すぐに番組内で男女比を等しくすることを実践し始めました。それが評判を呼び、今ではBBC内だけで670の制作チーム、海外メディアや大学など26カ国101団体(2021年3月現在)に広がりました。

「50:50」の取り組みを発案したロス・アトキンス氏=英BBC提供

ーー分野によっては女性の専門家を新たに起用することは難しいのではないですか。

初めの頃、よく制作陣に言われました。「すでに最良の(男性)専門家を起用している」と。けれど、その人が最良だとなぜ分かるんでしょう。長い間探してもいないのに。探してみれば、もっと優れた意見や斬新な意見が見つかるかもしれません。

科学や建築は確かに難しかったです。たとえば科学論文の責任筆者の多くは男性です。そこで、共同執筆者に女性がいれば、その女性研究者に取材を申し込みます。そうした女性たちこそ往々にして実際に研究室にこもって実験を行った、責任者よりも実地の経験を持つ専門家なのです。同様に、建築プロジェクトの話題で、男性であることが多い経営者や建築家が常に最良の取材相手とは限りません。

ーーなぜ男女の割合を等しくすることが重要なのでしょうか。

女性は世界の人口の半分を占めます。番組に女性が出ていなければ、それは社会を正確に反映しているとはいえません。

さらに視聴者調査では、女性の出演が増えたことで、16~34歳の44%が番組をより楽しめるようになったと答え、16~34歳の女性の58%が、よく視聴するようになったと答えました。女性の割合を増やすことは、多様な声や従来と違う視点をもたらし、視聴者を魅了します。そうしたコンテンツは健全であるだけでなく、視聴者にとって新鮮なのです。ビジネスの側面でも、消費者を引きつける効果を生むことが裏付けられています。「50:50」で目指すのは、番組制作者が多様な声や意見に光を当て、すくい上げてコンテンツそのものを豊かにすることです。BBC以外で導入したパートナー企業などでは、女性の才能を積極的に見いだす動きにもつながっています。そうした多様性を重視する組織では、新たな才能を呼び込む好循環が生まれています。

■アラビア語放送でも目標達成。やればできる

ーー国や文化圏によっては女性を増やすことが難しいのではないですか。

BBCのベトナム語放送を例に挙げましょう。当初は女性の出演は20%くらいで、「50%なんて到底無理」という声もありました。それでも、「とにかく女性を見つけだして」と発破をかけたところ、2カ月余りで50%を達成しただけでなく、今では70%に届くこともしばしばです。「50:50」は多様な声を伝えることが目的なので、逆に少し引き下げる必要すらありました。

アラビア語放送も当初は女性の比率は10%未満でした。そのため当面の目標を20%にしたのですが、その後、比率はぐんぐん増えて50%を達成しました。変化を起こしたいという意志の力です。(アラビア語圏の)文化的な理由で、ゆっくりとした変化かもしれませんが、実現はできるのです。

ロンドンからオンラインでインタビューに応じるニーナ・ゴスワミ氏

ーー「5050」の取り組みは、一定の比率や人数を女性に割り当てる「クオータ制」ですか。

いいえ。あくまで任意参加の取り組みで、数値の達成を義務づけてはいません。番組の質で決して妥協しないという大原則がありますから、女性を増やす目的だけで女性を出演させません。私たちは番組ごとに毎月のデータを集めて共有しています。競合関係にある同ジャンルの番組の視聴のされ方も分かります。売り上げアップなど好ましい成果を見れば、「変えられっこない」と言っている人たちも、自分たちがどう変わるべきか気づき、仲間に入ってくれます。

ーー新型コロナの影響はありましたか。

昨年3月、英国も世界も「ロックダウン」に突入し、BBCの番組制作数が減りました。データが取れなくなる番組も多くありましたが、そんな状況でもデータを取れた制作チームの3分の2は、女性の比率50%を維持し、今年3月には7割のチームが達成しました。これはBBCの文化そのものが変化した証しです。変化は一朝一夕には起きません。ゆっくりとした、でも持続的で着実な変化の積み重ねなのです。

新型コロナは出演する女性たちの障壁も取っ払いました。生活スタイルに合わせてオンライン会議システム「ZOOM」やインターネット電話「スカイプ」で出演でき、わざわざテレビ局やラジオ局に足を運ばなくてよくなったのです。これはコロナ禍が終息しても続いてほしいことです。大切なのは、伝える内容と編集の質を妥協しないということで、テレビでどう映るかではありません。

■「女の子」扱いされた新聞記者時代

「50:50」の国際的な推進が高く評価され、賞を受けたこともある=英BBC提供

ーーかつて勤めていた新聞社では差別的な扱いを受けた経験はありますか。

最初の仕事だったので、自分を変えてでも業界の環境や文化に溶け込もうとしていました。ですから、今振り返ってみて差別だったと気づくこともあります。たとえば、見知らぬ人の玄関先を回る聞き込み取材を命じられた時に「女の子なんだから、君に向いている仕事だ」と言われました。確かに私は若かったですが、「女性(woman)」ですらなく「女の子(girl)」と呼ばれていました。またアラブ諸国に関する取材で、上司に「君はこの問題に詳しいだろう。インド人でアジア系だから」と言われたこともありました。アジア系だからってロンドン育ちの私がアラブ諸国で起きていることをすべて把握しているわけがありません。

こうしたステレオタイプは新聞業界だけに限った話ではなく、メディア業界全体に今でもはびこっています。今なら上司に抗議しますが、当時の私は声を上げることができませんでした。問題の一つは「インポスター症候群」といわれる自己評価の低い女性自身の態度だと思います。私も以前は会議で自分の意見を主張できず、「自分はこの場にいていいのだろうか」と不安を感じる人間でした。BBCのリーダーシップ研修で自分の考えの伝え方を学び、自分に自信を持てるようになりました。今では私は会議で一番強く意見を主張します。私には「より小さな声」を届かせ、ちゃんと伝わるようにする責任があるからです。

 ーー朝日新聞社でいえば女性社員の比率は2割弱です。報道機関自身の女性の割合が低い問題をどう考えますか。

BBCの報道部門の女性比率は47%です(20年3月現在)。リーダーシップ研修を取り入れるなどして、この4、5年で大きく改善しました。「50:50」でいえば、取り組みに参加した報道番組で女性記者の割合が10%も増えるという副次的な効果も生まれています。BBCでは、ジェンダーだけではなく、人種や障害、社会階級など少数者の観点での研修も行われています。

私たちジャーナリストや報道機関は、世の中の異なる様々なコミュニティーに通じていなければ報じるべきニュースを見つけられません。特定の集団の輪の中ばかり論じていれば、その集団の外で起きている不公正に気づけません。有効な解決策の一つは、多様な人材が報道機関で働くことです。そうすることで、様々なコミュニティーを報道局に引き込むことができます。結局のところ、コンテンツは私たちの組織や社会が反映されるものなのですから。

ニーナ・ゴスワミ Nina Goswami BBC制作多様性リーダー。1981年、英ロンドン生まれのジャーナリスト。大手日刊紙の記者などを経て2008年にBBC入局。20年から現職。