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20年で洋上風力7500倍以上 日本の「風力発電ビジョン」実現への道は

World Now
「ウィンド・パワー・グループ」の風力発電=茨城県神栖市、星野眞三雄撮影

日本風力発電協会代表理事の加藤仁さん(67)は政府に働きかけた。「国として明確な導入目標を出してほしい。そうでなければ産業は育たない」という考えからだ。同協会によると、日本の洋上風力発電のポテンシャルは着床式128ギガワット、浮体式424ギガワットにのぼり、同協会は「洋上風力の主力電源化」を掲げる。

ビジョンに合わせて産業界は国内調達比率を40年までに60%とする目標を掲げた。だが、日本の大手風車メーカーは相次いで撤退。国内市場が育たない中での事業維持や、洋上風力用の大型化への対応が難しかったことが背景にある。いま大型風車メーカーは欧州が中心で、それに伴い関連産業も欧州に集中している。加藤さんは「英国のように欧州の風車メーカーにまず工場を日本につくってもらい、それで市場が拡大していけば関連部品を日本企業が安く供給するようになる」。風車の部品は1基あたり1万~2万点にのぼり、自動車産業に匹敵するすそ野の広さがあるという。

日本風力発電協会代表理事の加藤仁さん=星野眞三雄撮影

「欧州は30年前から洋上風力に取り組み始め、ここまで来た。日本でもようやく目標が設定され、市場ができる環境が整った。日本も風力発電を産業の中心にもってくる覚悟が必要だ」と加藤さんは訴える。

洋上風力は、19年4月に施行された「再エネ海域利用法」で最長30年間の海域占用を認めるなど事業環境が整ったことで、長崎県五島市沖や千葉県銚子市沖、秋田県沖で計画が進み始めた。日本企業が欧米の風車メーカーと組む動きがでている。

20年以上前から風力発電の研究に携わる東京大名誉教授の荒川忠一さん(70)は「日本にとって洋上風力発電はブルーオーシャン(未開拓の市場)だ。技術者が残っているうちに『日の丸風車メーカー』を再興した方がいい。エネルギー安全保障の観点からも、国のロードマップのもと生産能力を高める必要がある」と強調する。

東京大名誉教授の荒川忠一さん=星野眞三雄撮影

昨年10月に菅義偉首相が「温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする」と宣言。今年4月には、「30年度の温室効果ガスの排出量を13年度比46%削減する」と表明した。風力発電などの再エネ普及に向け、ようやく重い腰をあげた格好だ。

なぜ日本は出遅れたのか。経済産業省の審議会委員を務める、国際大副学長の橘川武郎さん(69)は「政府も電力会社も原発中心に考える『原発脳』だった」と指摘する。

そもそも政府の温室効果ガス削減目標は「原発頼み」を続けてきた。京都議定書を受けた1998年の地球温暖化対策推進大綱は「10年までに原発20基増設」に基づいていた。09年に政権交代した民主党政権が「20年までに90年比25%削減」を掲げた際も、「20年までに原発9基、30年までに14基以上新増設」と計画をたてた。

東電福島第一原発事故後も大きく変わらなかった。18年7月に閣議決定された現行の「エネルギー基本計画」では、30年度の電源構成は石炭火力26%、原発20~22%、再エネ22~24%(うち風力はわずか1.7%)。現在、エネルギー基本計画の改定が議論されているが、原発の比率は維持する一方、再エネ比率を30%台後半に増やす方向だ。

ただ、風力発電は環境アセスメントなどで発電までに着手から8年かかるとされ、30年度時点ではわずかしか見込めない。発電量が大量になれば、送電網の整備も進める必要がある。遠浅の海が少ない日本では洋上風力は浮体式が適しているが、コストがかさむ。陸上風力には地域住民の反対が、洋上風力にも「漁に影響がある」として漁協からの反対が根強い。調整には時間もお金もかかる。

政府の排出削減目標を達成しようとすれば風力発電の普及は避けて通れないが、実現にはいくつもの壁が立ちはだかる。