保健所が管轄の市役所や農協あてにメールで送った問題の文書の中には、「外国人と一緒に食事をしないようにしてください」「外国人と会話する時は必ずマスクをつけてください」というように、「外国人」という言葉が繰り返し使われていました。
外部から「不適切ではないか」との指摘を受けた後、保健所は文書を撤回し、「外国人を差別する意図は全くありませんでしたが、誤解を招く表現があった」と述べました。
文書で「外国人」という言葉が使われていたのが差別的であることも問題ですが、筆者はこの外国人という言葉が「ざっくり」しすぎている点も気になります。
日本では「外国人」という言葉が気軽に使われますが、具体的に誰のことを指すのかよくわからないことが多いのです。
言うまでもなく、法律では外国人は「外国の国籍を持つ人」のことです。しかし実際には国籍だけでなく、「氏名や容姿が外国人風の人」を外国人とみなしているケースが少なくないでしょう。
問題は、発信している人や組織によって「外国人の定義」が曖昧なことです。「外国の国籍を持つ人」、つまりは法律上「外国人」であっても、日本に長年住み、過去数か月間、外国への渡航歴がない人が多い中、新型コロナウイルスに関連する情報を語る際に安易に「外国人」とくくってしまうことには注意が必要です。
感染防止のためには、多少回りくどい言い方になったとしても、「どういった行動履歴が問題なのか」という点に絞って説明する必要があるのではないでしょうか。
潮来保健所の文書は「外国人が働く農家に対するもの」であったため、文書に記載されていた「外国人」とは「外国人技能実習生」のことを指しているのではないかという見方もできます。
日本ではコロナ禍においても外国人技能実習生が狭いスペースで集団生活を強いられるなど、劣悪な環境におかれていることが問題になっています。
もし集団生活が原因で外国人技能実習生が新型コロナウイルスに感染しているのならば、それは必ずしも外国人技能実習生ら当事者の問題ではなく、彼らに提供される住居スペースの問題です。
そういったことを考慮すると「日本人である雇用主さえ感染しなければそれでいい」とばかりに「外国人と一緒に食事しないように」「外国人と会話するときは必ずマスクをつけてださい」という注意喚起は、やはり不適切だったといえるでしょう。
コロナ禍における外国人労働者への差別行為が問題になるのは、日本だけではありません。ドイツでも外国人が劣悪な状況のなか働かされていることが明らかになりました。
ドイツでも問題に
ドイツの食肉工場では多くの外国人労働者が働いています。昨年ノルトライン・ウェストファーレン州にあるTönnies社の食肉工場では1500人以上の従業員が新型コロナウイルスに感染しました。
これを受けて、同社の担当者は記者会見で「工場で働くルーマニア人やブルガリア人が週末を利用して母国に帰り、その後すぐに仕事に復帰した」と発言。あたかも感染の理由が「彼らが母国に帰ったこと」であるかのような印象を世間に与えました。
東ヨーロッパやルーマニアからやってきた外国人労働者とTönnies社の間には複数の下請け企業が入っており、彼らの多くは請負契約でした。
外国人労働者にあてがわれた部屋は日本で言う「タコ部屋」のようで、彼らは狭い部屋で大勢で寝泊まりすることを強いられていました。
そういった状況のなかで感染は広がったのです。でもTönnies社は当初そのことを認めようとはしませんでした。
会社だけではなく、政治家も差別問題に無関心であることが明らかになりました。
ノルトライン・ウェストファーレン州の首相であるArmin Laschet氏は記者会見で、Tönnies社の外国人労働者の集団感染について「私が州の規制を緩めたことが感染の原因ではない」と自身の正当性をアピールしました。
その上で、「ルーマニア人とブルガリア人がドイツに入国したことによりウイルスが入ってきた」と発言しました。
ドイツメディアは「新型コロナウイルスの蔓延を、ドイツ社会で最も立場の弱い外国人労働者のせいにしようとしている」と一斉に非難しました。
ドイツの外国人労働者にしても、日本の外国人技能実習生にしても、共通しているのは、彼らを劣悪な環境で働かせておきながら、新型コロナウイルスが蔓延すると「彼らのせいに違いない」とばかりに、彼らに責任を押しつけようとする動きです。
しかし、ドイツでは昨年、こうした状況に改善が見られました。「食肉工場における外国人労働者への搾取」が世間に広く知られるようになり、法律が変わったのです。2021年1月1日から食肉工場での請負契約が禁止されることになりました。
日本でも外国人技能実習生がおかれている状況が改善されることに期待したいです。