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「コロナは神の意思」ロックダウンでも集団礼拝、超正統派ユダヤ教徒の理屈とは

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超正統派ユダヤ教徒、ヨエリシュ・クロイスの自宅で出会った男の子。子どもでもキッパと呼ばれるユダヤ教徒の帽子をかぶり、もみあげを長く伸ばしている=2021年2月15日、エルサレムのメアシェアリーム地区、高野遼撮影

【前の記事を読む】ハイテクの国イスラエルで、戒律と伝統に生きる 「超正統派」とはどんな人たちなのか

■新型コロナで揺らぐ伝統

イスラエルでは国民がロックダウン(都市封鎖)を耐え忍ぶなか、一部の超正統派がルールを破って集団礼拝などに繰り出すことが社会問題となった。

黒いスーツを着た数千人が、マスクもせずに密集し、ラビの葬儀に参列する。そんな光景は、海外でも大きく報じられた。

超正統派における感染者数は、ピーク時には人口当たりで他の国民の2倍以上に達した。ルールを守らないことに加え、狭い家に大家族が住む環境も感染拡大を招いた。感染を広めたとして、他の国民から猛批判を浴びた。

伝統的な黒ずくめの服装に身を包み、信号待ちをする超正統派ユダヤ教徒の男性。マスクをしていない人も多い=2021年2月15日、エルサレムのメアシェアリーム地区、高野遼撮影

超正統派はなぜ、ルールを破るのか。3月、ワクチン接種を終えた筆者は再びメアシェアリーム地区へと向かった。安息日の夜遅くに、超正統派が集まる儀式があるというのだ。

金曜日の午後10時半、シナゴーグに足を踏み入れる。小さな体育館ほどの室内は、すでに1000人近い男性でごった返していた。普段の黒ずくめではなく、特別な金色のガウン姿、頭には毛皮の大きな帽子を載せている。

やがて、ラビが壇上に現れた。人々がラビの食事に同席する「ティシュ」という儀式の始まりだ。ラビがテーブルでワインを飲み、パンを食べる。そのたびに、集まった男性たちは歌を歌い、お辞儀を繰り返す。建物内に歌声が響き、人々が波のように揺れる――。別世界に迷い込んだような、不思議な感覚に包まれた気分になる。

■コロナは「神がもたらした」

だが、冷静に考えると「3密」以外のなにものでもない。大人数の中で、マスクをしているのは私とモティだけ。やむなく取材は短時間で切り上げ、シナゴーグの外へ出た。

この儀式を毎週続けていれば、国民が怒るのも無理はない。だが参加者の一人は「宗教は生活の一部だから、止めるのは難しい。ユダヤの律法を学べばコロナからも守られる」と言った。日付が変わっても、シナゴーグからは歌声が響き続けていた。

「新型コロナウイルスは、神がもたらしたものだ」――。取材を通じて多くの人から聞かされた言葉だ。

40人以上の孫の祖母だというリブカ・ブランドウィン(62)は「21世紀の技術をもってしても、パンデミックを防げなかった。神の意思と考えるほかないだろう。メシア(救世主)が到来する予兆かもしれない」と語った。

「コロナは、神がもたらしたもの」と語るリブカ・ブランドウィン(右)と夫のヤコブ=2021年2月15日、エルサレムのメアシェアリーム地区、高野遼撮影

IDIの世論調査によれば、超正統派が新型コロナウイルスのリスクを評価するにあたって最も信頼する情報源に「ラビ」を挙げた人が61.4%で圧倒的。医療専門家(22%)、神(4.5%)、首相とそのアドバイザー(2.6%)と続いた。

イスラエル政府は有力なラビとの対話を重ね、人々に感染対策を周知する役割を託した。ただ、中には「ワクチンを打つと子どもを生めなくなる」などと根拠のない教えを唱えるラビもいて、一筋縄ではいかないのが現実だった。

イスラエル国家への思想的な反発が、コロナ軽視につながっている側面もあった。

リブカ・ブランドウィンの自宅には、一家が従う宗教指導者(ラビ)の写真が飾ってある。ラビは神に最も近い存在なのだという=2021年2月15日、エルサレムのメアシェアリーム地区、高野遼撮影

少し複雑な話になるのだが、超正統派にはイスラエル国家の存在に否定的な人が多い。ヨエリシュ・クロイス(48)もその一人。「政府は宗教活動を阻むためにコロナを利用している。我々は迫害されている」と感染対策への不満をあらわにした。

「マスクは効果がないからしない。私が信じる科学者はそう言っていた」と語るヨエリシュ・クロイス。自宅の本棚には宗教関連の本が大量に並んでいる=2021年2月15日、エルサレムのメアシェアリーム地区、高野遼撮影

超正統派における感染拡大を深刻にとらえた政府は、警察による取り締まりを強化し、一部で暴力的な衝突に発展した。外出禁止を守らない超正統派の男性たちが、駆けつけた警察官に「ナチス!」と叫ぶ。そんな信じがたい光景がコロナ禍では繰り広げられた。

■幸せのかたちは一つではない?

ヨエリシュ・クロイスの自宅には、テレビもラジオもない。目についたのは、古いソニー製のカセットプレーヤーくらいだった=2021年2月15日、エルサレムのメアシェアリーム地区、高野遼撮影

超正統派は話の通じない不可解な相手のようにみえる。だが何度も足を運ぶうち、彼らには彼らなりの理屈があることも分かってきた。

たとえば「コロナは神の意思」と言ったリブカに、世間からの批判について尋ねてみた。「私たちは、宗教を離れた国民の分まで神の教えを守っている。おかげで全員が良い人生を送れているのだから、むしろ感謝されてもいいのに」

宗教に忠実に生き、多くの子や孫に恵まれることが一番の幸せだと言う。ラビの指示で「早く祈りの場に戻るため」にワクチンも打ったというから、科学を全否定しているわけでもない。

伝統的な黒ずくめの服装に身を包んだ超正統派ユダヤ教徒の男性たち。排他的なイメージが強いが、中には笑顔で話しかけてきてくれる人もいる=2021年3月5日、エルサレムのメアシェアリーム地区、高野遼撮影

安息日の夜に出会ったエリアツァー・シネク(22)とは、路上で1時間以上も議論が白熱した。宗教に縛られた一生を送る不自由さを問うと、彼は「むしろ僕らは自由だ」と言った。「宗教の押しつけ教育だと思われがちだけど、全然違う。科学も数学も答えはひとつ。でもタルムードには答えがいくつもある。解釈をつねに議論し、新たな考えを生む柔軟性があるんだ」

私の質問に正面から答える聡明な青年だ。君はビジネス界でも成功しそうだねと伝えると「億万長者になるより、誰もが神の教えを理解できるようにしたいから」と笑われた。

取材中、ときに警戒されて暴言を吐かれることもあった。でも慣れてくると、笑顔を向けてくれる人も増えた。当初はみんな無愛想に見えたが、それは私が抱く警戒心の裏返しだったのだろう。超正統派だって笑いもすれば冗談も言う、ごく普通の人たちだった。

■「誤解」が招く分断

ヨエリシュ・クロイスの自宅で、食卓を囲む子どもたち。男の子は頭にキッパと呼ばれるユダヤ教徒の帽子をかぶり、もみあげを伸ばしている。結婚した女性は髪を見せてはいけないので、妻ラヘルは頭にスカーフを巻いている=2021年2月15日、エルサレムのメアシェアリーム地区、高野遼撮影

取材を進めていくと「超正統派は誤解されている」と嘆く声にも出合った。超正統派であっても、マスクをするし、ワクチンを打つ人も多い。だが一部の例外が悪目立ちすることで、超正統派全体が「悪者」と見られていた側面があった。

「命を危険にさらすことは、宗教的にも正しくないのです」。超正統派向けの新聞で編集長を務めるイツハク・ナハショニ(66)は、そう教えてくれた。確かに、聖書にはマスクもワクチンも出てこない。あくまで現世を生きるラビたちの解釈に従って、人々は動いているにすぎない。政府のルールに反する教えを唱えるラビが目立って見えるが、「実は彼らは過激な少数派です」とイツハクは言った。

超正統派ユダヤ教徒向け新聞社の編集長を務めるイツハク・ナハショニ。超正統派と一般国民との間で、分断が深まることを懸念している=2021年2月11日、イスラエル中部のブネイブラク、高野遼撮影

それでも、世間からは「超正統派はルールを破る」「感染しそうだから近づきたくない」と悪い印象を持たれていると感じるという。誤解を解くため、一般紙に寄稿もした。「このままでは、イスラエル社会に取り返しのつかない分断が生まれてしまう。正しく超正統派のことを分かって欲しい」。イツハクは、そんな懸念を口にした。(つづく)

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