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全米が「目撃」したあの事件から1年 ジョージ・フロイドさんの現場にようやく立った

ホワイトハウスへ猛ダッシュ
「子供が大きくなったらこの事件について話したい」と、「ジョージ・フロイド・スクエア」を訪れた親子。家族連れの姿が目立った=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

4月21日早朝。配車サービスの青い車を待っていたが、到着した車の識別が困難なほど、辺りはまだ暗闇だった。この前日、ジョージ・フロイドさんを死なせたとして起訴された元警官のデレク・ショービン被告に有罪評決が出たことを受け、私は朝一番の飛行機で、活動の拠点であるワシントンから「現場」であるミネソタ州ミネアポリスへ猛ダッシュした。

■警官に有罪評決、いま事件の現場は

公判が行われたヘネピン郡地裁は、高層ビルが並ぶミネアポリス中心部にある。そこから車で10分南下すると、洗練されたダウンタウンとはまるで違う世界があった。壊れたフェンスやひびが入った窓ガラスにフロイドさんの似顔絵や「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」のポスターが貼られている。「正義がなければ平和はない」などと書かれた貼り紙も。古びた家屋や教会が立ち並ぶこのエリアでは、住人とみられる黒人の姿が目立っていた。そんな住宅街の一角に、フロイドさんの「殺害現場」があった。

「カップ・フーズ」という店の前は花束やぬいぐるみで溢れている。この店の前の路上でジョージ・フロイドさんは亡くなった=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

昨年5月25日、20ドルの偽札をめぐる通報から始まり、駆けつけた白人警官がフロイドさんに手錠をかけた状態で首を9分半押さえつけ、フロイドさんは死亡した。この事件は全米で人種や年齢、性別の枠を超えて、国民が、人種問題についての議論や抗議運動に取り組んだり、警察改革を求めたりする大きなきっかけとなった。新型コロナウイルスによりゴーストタウンと化した町に連日、大勢の人が集い「私たちを撃たないで」と声をあげた。昨年の夏、一連の抗議運動をワシントンで撮影してから約1年。事件の現場、ミネアポリスでレンズ越しに何を見て、どう感じるのか。被告の有罪判決という大きな節目を迎え、「やっとここに立つことができた」。そんな思いを抱きつつカメラを構えた。

「ジョージ・フロイド・スクエア」でお香を焚き、祈りを捧げる女性=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

フロイドさんが倒れた路上には、うつ伏せで手錠をかけられたフロイドさんの体の形がペンキで描かれ、足元には「息ができない、息ができない」と書かれていた。天使の羽が描かれたその「遺体」を囲むように、花束やぬいぐるみ、メッセージが書かれたプラカードが置かれている。訪れた人たちの表情は、去年の抗議運動のときとは対照的に、穏やかだった。紐で吊るされた花や似顔絵のカラフルな色が風に揺れるたびに、木漏れ日と重なって輝く。その鮮やかな色彩と差し込む光に、花畑にでもいるかのような錯覚を覚えた。

ジョージ・フロイドさんが亡くなったスポットを静かに見つめる親子=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

前日半袖で撮影をしたワシントンとは打って変わり、ミネアポリスには冬の寒さが残っていた 。この日の気温は1度。暴動で閉店を余儀なくされたかつてのガソリンスタンドがある向かい側では火が焚かれ、人々が暖をとっていた。パンや水の「供給所」も完備されている。看板にはガソリンの値段の代わりに「ジョージ・フロイドに正義は下されたか?」と書かれていた。

ジョージ・フロイドさんが亡くなった現場の向かい側にあるかつてのガソリンスタンド。屋根の側面には「人々が集まれば力が生まれる」と書いてある=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

花やポスターで覆われたバス停の中を覗くと、毛布やペンキ、水などの物資が積まれていた。一帯は警察の暴力に対抗する「基地」のようだ。まるで映画のセットにでもいるような感覚を覚えたかと思えば次の瞬間、まさにここで「人の命が奪われた」という現実が押し寄せる。夢のような感覚と恐ろしい現実が頭の中でぶつかり合う度、強い波のような重い力を感じた。私はその波に吸い込まれるようにシャッターを切り続けた。

交差点には空へ向かってかかげた拳をかたどった追悼碑があり、警察に殺された犠牲者のための花が供えられている=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

■フロイドさん事件を「見る」ということ

レンズの先に白人の家族を見つけた。初めてこのエリアを訪れたという女性、キティ・ウェスティンさん(69歳)は、息子と娘を連れて現場に足を運んだ理由をこう語った。「この国で特権を持つ白人として、システミック・レイシズム(制度化された人種差別)を認識し、ここで起きた出来事を自分の目で見て心に刻むためにやってきた。最後まで母親に助けを求めながら亡くなったフロイドさんを『目の当たり』にし、心を動かされない母親はいない」。

ウェスティンさんは何度も「目の前で」や「この目で見た」という表現を用いた。このような言い方をするのはウェスティンさんだけではない。それは、少女が撮影したビデオによって国民がフロイドさんの殺害現場を「目撃」したからだ。

「ジョージ・フロイド・スクエア」を訪れたカップル。無言でフロイドさんのポスターを見つめていた=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

「ジョージ・フロイド・スクエア(広場)」と名付けられたこの一角が、フロイドさんの死を弔うためだけに設けられたのではないことは一目瞭然だった。空に向かってかかげた拳をかたどった追悼碑は、同じように警官によって命を奪われた犠牲者のためのキャンドルや花束で溢れていた。2016年、ミネソタ州セントポールの路上で警官に撃たれて死亡したフィランド・カスティールさん、昨年3月、ケンタッキー州ルイビルの自宅で撃たれ亡くなったブリオナ・テイラーさんを含む犠牲者の顔が描かれたポスターが並ぶ。

4月11日、ミネソタ州ブルックリン・センターで警官に発砲され亡くなったダンテ・ライトさんの追悼碑=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

そこから徒歩で数分先にある空き地に、「セイ・ゼア・ネームズ・セメタリー(「彼らの名前を呼ぼう」墓地)」という名の記念碑がある。そこには警官によって殺された黒人犠牲者一人一人の名前がお墓を形取った記念碑に刻まれている。犠牲者家族は口を揃えて「誰もが加入したくないクラブ」と呼ぶ。その丘に立って一面に広がる130以上のもの墓標を見渡すと、「なぜ」という疑問を抱かずにはいられない。一体なぜ、これだけの人が警官によって殺され続けるのか……。(続く)

警官によって殺された黒人犠牲者のための記念碑「セイ・ゼア・ネームズ・セメタリー(「彼らの名前を呼ぼう」墓地)」=ミネソタ州ミネアポリス 、ランハム裕子撮影、2021年4月21日

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