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「女だから甘やかされて」 有名になって受けた中傷、女性プロゲーマーは闘いを決めた

World Now
得意なゲームは「鉄拳7」。ケニア初の女性プロゲーマーとなったシルビア・ガソニ(本人提供)

日中はナイロビの大学で法律を学ぶ学生だが、夜は練習に励むゲーマーになる。シルビア・ガソニ(22)。米国の人気ドラマからとったプレーヤー名「Queen Arrow」で知られる、ケニア初の女性プロゲーマーだ。

得意なのは、対戦型格闘ゲーム「鉄拳7」。バンダイナムコエンターテインメントが世界に誇る人気ゲームで、ケニアを含む東アフリカ地域では定期的に大会が開催されている。登場キャラクターのリン・シャオユウを操り、男性のプロ選手相手に勝利を積み重ねてきた。

「大会での対戦はもちろん、練習も男性が相手。eスポーツの世界では男性のほうが経験が豊富で、ゲームのこともよく知っているので多くを学べる。女性だからといって排除されることはないし、性別に関係なく対戦を受け入れてくれる」

性差別の問題に取り組むシルビア・ガソニ(本人提供)

体格や身体能力の違いがゲームの操作技術にどこまで影響を及ぼすかは実際にはわからない。それでも相手が男性であることを意識し、ジムで腕の筋力を強化したり、ゲーム機の操作練習を繰り返して指の反射動作の向上をめざしたりしている。頭で想像する動きがキャラクターの動きに瞬時に無意識のうちに伝わるような指の感覚が理想だという。

対戦相手が男性ばかりなのは、そもそも女性の選手が少ないからだ。アフリカ大陸全体を見渡しても、ガソニが知っている女性プロは10人もいない。米メディアの報道によると、2019年時点で世界のゲーマー人口に占める女性の割合は35%。ガソニによると、ケニアでの統計はないが、一般社会でもゲームをする女性は多くない。背景の一つに、実社会で存在する性差別や偏見が関係していると感じているという。

「ケニアでも女性の社会参加は進んでいるが、『女性は家にいて家事をやり、男性が社会に出て働く』『女性に教育は必要ない』などの時代遅れの考え方はいまだに根強い」。eスポーツという概念がまだ新しいケニアだが、テレビゲームの産業規模が18年に8300万ドル(約90億円)となるなど、アフリカではゲーム先進国だ。それでも、ゲームが職業になるという感覚は一般的に浸透しておらず、むしろゲーム中毒などの負の影響を心配する意識のほうが強い。女性の選手が少ないのは、男性よりもゲーム技術が劣るからではなく、社会的な意識が反映しているからだと強調する。

得意なゲームは「鉄拳7」。ケニア初の女性プロゲーマーとなったシルビア・ガソニ。ナイロビの大学で法律を勉強する大学生でもある(本人提供)

18年、鉄拳の大会で、賞金を稼げる選手となったガソニは、女性であることが注目されて、欧米メディアなどでも取りあげられるほど有名になった。東アフリカ地域で初めて企業スポンサーがついた女性選手にもなり、企業宣伝やイベント活動、大会の報酬などをあわせると、年間数千ドル(数十万円)を稼ぐ。これだけで生活はできないが、学生の収入としては十分すぎる額だ。

しかし、有名になると同時に予期せぬことが起きた。

「技術や能力があるからではなく、単に女性だからスポンサーがついた」「女だから甘やかされているだけだ」

練習や対戦相手の男性選手たちはガソニの努力や実力を認めてくれるのに、eスポーツ界の外にある一般社会の一部から、ひどい中傷を受けるようになった。精神的にこたえたが、同時に性差別の問題を社会に提起するいい機会になると捉えた。

「eスポーツは、男女の区別がないジェンダーレスの空間として設計されているのに、現実社会に存在する性差別の意識が邪魔をする。eスポーツから平等を実現するために闘おうと決めた」

ケニア国内では「Quuen Arrow」の名で知られるシルビア・ガソニ(本人提供)

練習や対戦を重ねてゲーマーとしてのレベルをあげながら、自身の体験を国内外のメディアで積極的に発信する。知り合いの数少ない女性ゲーマーたちと協力して、こうした活動を広げていこうとする。将来は、弁護士として法的観点からもこの問題に取り組み、eスポーツで活躍する女性を増やしたいと意気込んでいる。

賛同してくれる男性選手が多いことが、何よりの救いだ。そして、希望も見えてきた。ガソニのSNSには最近、eスポーツに興味を示したり、実際に選手になりたいと相談したりしてくる若い女性たちが増えてきたという。

ケニアで初の女性プロゲーマーとなったシルビア・ガソニ。「Quuen Arrow」の名で知られている(本人提供)